(社)日本印刷産業連合会「Printing Frontier 21」より

印刷産業における
環境間題のポイント

(後)

 

 (4) 資源の有効活用:再生資源の利用促進

 印刷産業は、一方で素材のユーザーとしての環境配慮も求められている。循環型社会の一員として、グリーン購入という視点から再生資源の活用にも注力していく必要がある。
 印刷産業で扱う素材のうち紙はある程度再生化が進められているが、森林保護や廃棄物減量化等の観点から、今後、より古紙配合率の高い用紙などへの切替えを進めることが求められると予想される。また、再生紙に対する展色などの印刷適性についてはすでに技術的課題は克服されているが、今後引っ張り強度などの物理的特性について加工方法も含め用紙メーカーとも協力して対応していく必要があるであろう。さらに、生産する印刷物に関しても、自らリサイクルしやすい製品を開発したり、場合によってはリサイクルに関する表示を進めたりすることが求められる可能性がある。
 次に、インキなどでも大豆油インキや水性インキなど枯渇資源ではない素材を用いた製品や、再生可能な素材を用いたもの、また環境負荷のより少ない素材を用いた資材の使用を拡大していくことも重要である。

■事例■ 古紙のリサイクル

 日本の古紙の再生利用率は50%半ばを維持しているものの(図4)、印刷用紙は20%程度と古紙利用率が低い。製紙原料として上質の紙が多く、またこれらによる印刷物は新聞等と比較して回収率が低いことをふまえると、今後、出版物やカタログ・チラシなどの商業印刷物について、より一層のリサイクル化を求められることが考えられる。
 当面、市中回収される雑誌古紙などのリサイクル率を高めていくことが課題であるが、日本印刷産業連合会では(財)古紙再生促進センターと「リサイクル対応型紙製商品開発促進対策事業」を推進し、板紙やダンボールにしかリサイクルできなかった雑誌古紙を印刷・OA用紙に再生しやすくするための技術を開発している。これまで雑誌の表紙・裏表紙と背表紙に使われる糊が再生紙の中に混じり再生紙としての品質を落としていたが、再生化工程でひと固まりにして剥がすことができる糊が新たに開発されている。また、背糊は従来使われてきたホットメルトも新型の分離機(パルパー)で除去が可能で、綴じ込みはがきに使用される接着剤についても、再生紙に混入しても晶質に影響しない接着剤が開発されている。

図4 日本の古紙利用率
図4 日本の古紙利用率

 (5) 廃棄物処理の強化

 廃棄物の処理に関しては、事業活動に伴う廃棄物は「産業廃棄物」としてその処理責任は排出者にある。これまで廃棄物の処理に関しては、専門の処理業者に処理を委託するだけで、それがどのようなところでどのように処理をされるのか、排出事業者自身が意識することはあまりなかった。一方、不法投棄も後を絶たず、土壌汚染などを引き起こす深刻なケースも見受けられる。
 このような状況のもと、2000年には『廃棄物処理法』が改正され、排出事業者の原状回復責任が大幅に強化された。この『改正廃棄物処理法』では、排出事業者に対して廃棄物が最終的に処理されたことの確認を義務づけ、それを怠った場合は廃棄物を回収し、処分前の状態に戻す原状回復責任を課すことを定めている。また、過去に不法投棄されたものでも適正な処理を確認すべき注意義務違反があるなどの場合には、原状回復命令の対象となることなどを定めている。さらに、多量に廃棄物を排出する事業者に対しては、減量計画と処理計画をつくり、都道府県に報告することを義務づけており、不適正な処理に対する罰則も大幅に強化された(図5,6)。
 これまで国土の狭い日本は廃棄物処理の多くを焼却処理に頼ってきた。ところが最近になって、廃棄物の焼却処理にともなう猛毒のダイオキシン類の発生が顕在化してくると、大きな社会問題として取り上げられるようになり、1999年には新たな法律として『ダイオキシン類対策特別措置法』が制定され、焼却処理への制も厳しくなっている。
 このようなことから、印刷産業においても廃プラや廃インキの処理委託に際して、委託契約書の締結はもとよりマニフェストの発行管理や中間処理後の最終処分の確認、適正価格での処理委託など、今まで以上に厳重に管理していくことが求められている。

図5 廃棄物対策の基本的方向
図5 廃棄物対策の基本的方向

図6 排出事業者責任について
図6 排出事業者責任について

■事例■ 共同適正処理

 廃棄物の処理に関連して、日本印刷産業連合会が「平成6年度印刷産業における廃棄物対策に関する調査研究」で実施したオフセットインキ及び缶についてのシュミレーションがある。
 ここでは、個々の印刷企業の連携を密にし共同で廃棄物を委託処理することによって、廃棄物処理の効率化、リサイクルの促進をめざしており、比較的中小規模の印刷企業が多い印刷産業にとって、個々の印刷企業では対応が困難な問題の解決や廃棄物処理の方法の改善を図ることが可能となることが示されている。個別の事業者では量が少なくとも、業界として共通的に使用しているもの、排出しているものはいくつかの企業が集まればそれなりの量になり、それをまとめることができればいろいろな対策も見えてくる。
 また共同で委託処理することで、同一種類・性質の廃棄物を集められれば、処理コストの低減やリサイクルの可能性など、次のステップヘの対応も見えてくる。ただし、これを実現するための課題として、同一のルールとしての作業の統一や分別、回収、保管方法、排出日など、関連する印刷企業がどこまでまとまることができるかなどがあげられている。

 (6) インターネット技術の活用

 最近のIT技術の普及に伴い、産業廃棄物のリサイクルにインターネットを活用する動きが活発化している。工場などで産業廃棄物を排出する企業と再生資源化業者がネット上で情報を交換、互いの需給に応じ て廃棄物をやり取りする。このような動きが徐々に広がりはじめており、廃棄物に関して需給の適合した企業がネット上でお見合いをするような仕組みも動き出している。また、このような取引を仲立ちするビジネスも出はじめており、地方自治体では各地商工会議所において広報紙などを使い同様のサービスを始めているところもある。また経済産業省でも廃棄物の需給情報をデータベース化し、条件の合う企業を紹介するインターネット上の電子商取引市場開設に向けた準備が進められている。インターネットを使って廃棄物流通を効率化させるこうした取組みは、今後はさらに活発化することが予想される。

 

2−3 化学物質管理:PRTR法の制定

 (1) 化学物質の人体への影響

 これまで、化学物質や危険物に対して『労働安全衛生法』や『消防法』などにより、具体的にその管理方法や取扱方法が定められていた。しかし、現代社会は非常に多くの化学物質を使用することで成り立っており、人体に対する影響も未知の部分が多く、これらの物質を適正に管理する必要が強まっている。このような背景のもと、PRTR制度(環境汚染物質排出移動登録:Pollutant Release and Transfer Register)は「有害性のある化学物質の環境への排出量及び廃棄物に含まれた移動量を登録して公表する仕組み」として、取り扱う化学物質等の環境への行方を物量的に明確に把握・報告し、化学物質等の環境中への排出量を削減しようとする制度で、欧米社会を中心に世界的な動向として法制化が進められている。

 (2) PRTR法制定

 わが国においても、1999年に『特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の促進に関する法律(通称:PRTR法)』が制定された。1999年度末には、この制度の具体的な枠組みとなる政令が公布され、排出・移動量の報告の対象となる「第1種指定化学物質」が354物質と決まった。また、調査の対象となる企業の規模については21人以上と決まり、印刷産業においても多くの企業が対象となることになる。
 今回の法制化により、2001年度の実績を把握し、2002年より都道府県を通じて所轄大臣に報告することになった。また、この制度では報告されたデータは誰でもが開示の請求をすることができると定められており、公開時の影響に留意する必要がある。

 (3) 印刷産業におけるPRTR

 印刷産業では、製版・刷版工程や印刷・加工工程などで薬剤や溶剤を取り扱っている。今回制定されたPRTR法でも、政令で指定された物質のうち、印刷産業でも物質によっては溶剤のように取扱量が多いものも含まれており、その大気への放出抑制は重要な課題の一つである。
 印刷産業ではグラビア印刷を中心にトルエンなどの溶剤を使用しており、従来から悪臭や光化学スモッグ対策の一環として、大気放出に際しては燃焼や吸着処置が行われてきた。今回PRTR法が制定されたことで、環境媒体中に排出されている物質に対して、今まで以上に化学物質の環境媒体(大気、水域、土壌)への排出抑制が求められることは必至で、環境への影響を極力少なくする努力が求められることになる(図7)。
 印刷産業では日常的には化学物質を商品名で取り扱う場合が多いため、まず対象となる化学物質が成分としてどの程度含まれているのか、詳細に調べるところから始める必要がある。そして工程内に投入された化学物質の行方を把握し、環境への排出抑制対策を進める必要がある。
 トルエンなど単一溶剤として回収・再利用されている溶剤でも、建物の密閉化や負圧化、より高性能な吸着材への変更など、回収率をさらに高めるための努力が必要である。また焼却処理に際しても、これまでの単純な焼却処理にとどまらず、燃焼熱を回収し他の工程で利用するなどより効率的な処理を行うことや、混合溶剤としての用途開発など物質としての回収・再利用を考えていく必要もある。
 また、水性化や代替溶剤への切替えなどを視野に入れた資材の開発や、クローズド化を含めた生産技術的な改良も一気に加速するものと思われる。印刷資材メーカー、印刷機械メーカーなどの関連業界との連携した取組みがより一層重要になると思われる。

図7 PRTR排出・移動量イメージ(図:印刷工程)
図7 PRTR排出・移動量イメージ(図:印刷工程)

 (4) 社会及び地域社会とのコミュニケーション

 PRTR制度では、報告されたデータは誰でもが開示の請求をすることができる。開示されることの影響がどのようなものになるか、産業界全般が注目しているところであるが、公開情報が独り歩きして地域社会に無用な不安を与えるような事態は避ける必要がある。開示されるデータが環境的にどのような意味をもつのか、またどのような対策を進めているのかなどを地域社会に適切に説明し、良好なコミュニケーション(リスクコミュニケーション)を図っていくことが、今後非常に重要なこととなる。そのため、コミュニケーション手法の開発やそれを実施していく人材の育成など早急に対応することが必要となってきている。すでにこの制度に対応するため、いろいろな企業や業界団体が動き出している。印刷産業にとっても非常に重要な問題であるため、PRTR制度の運用が始まっている欧米諸国の事例などを参考にして適切に対応していく必要がある(図8)。

図8 リスクコミュニケーションの概念図
図8 リスクコミュニケーションの概念図

 

2−4 地球温暖化への対応

 (1) 地球温暖化に向けての新たな枠組み

 急速な温暖化に対応するため、1998年12月には京都において『気侯変動枠組み条約』の第3回締約国会議(COP3)が開催され、温暖化防止のための先進国の枠組みが決定された。日本は2008年から2012年までに二酸化炭素の排出量を1990年レベルより6%削減することを世界に約束している。温室効果ガスの削減では、そのうち90%以上は二酸化炭素を減らすことに焦点が絞られており、さらなる省エネ努力が求められている。

 (2) 温暖化防止の施策

 地球温暖化の対策の必要性から1998年に『地球温暖化対策の推進に関する法律(通称:温暖化対策推進法)』が制定され、1999年には『地球温暖化対策に関する基本方針』が閣議決定された。また、1998年6月には『地球温暖化対策推進大綱』が決定されたが、このなかで事業者に対しては自主計画を立案しその実施状況を積極的に公表するように求めており、経団連を中心にすでに多くの業界が自主的な目標を定め、温室効果ガスの削減に向けて省エネ活動を強化している。また、法的にも『エネルギーの使用の合理化に関する法律(通称:省エネ法)』が改定、強化された。従来の対前年比1%以上のエネルギー原単位改善を事務所ビルなども含め行うこととされ、一層の省エネ努力が企業に求められている。(図9)

図9 日本の最終エネルギー消費の推移
図9 日本の最終エネルギー消費の推移

 (3) 印刷産業の炭酸ガス排出量

 日本印刷産業連合会の過去の調査では、印刷産業における二酸化炭素の放出量は日本全産業の約0.2%に相当するという結果が出ている。これは日本全体の量からするとそれほど多くない数値であるが、地球温暖化の問題はその深刻さから、またCOP3における日本の世界に向けた公約の達成という観点からも、全産業にとっては早急に取り組まなければならない問題となっている。

 (4) 省エネルギーの推進

 地球温暖化防止に関しては省エネ活動が有効である。そして省エネ活動の推進に際しては、具体的な達成目標を設定し、目標達成のために具体的な取組みを行うことが重要となる。そのためには、事業所におけるエネルギーの使用状況とエネルギーの需要構造を分析・把握することが不可欠であり、設定した目標に対する具体的な改善策を立案し、期待される効果と実績を検証しながら計画的に進める必要がある。
 事業所における省エネ対策としては、従来の生産効率の改善活動が省エネ効果にも大きく寄与するので、良品率の改善や歩留まり改善に向けた取組みが有効である。また、工程内のエアー漏れや放熱ロスの排除、設備の稼動方法の変更なども考える必要がある。最近の省エネ機器の採用やコジェネシステムなどのエネルギー効率の良い機器の採用なども有効と考えられる。

 

2−5 環境マネジメントシステムの導入、環境ISOの取得

 (1) 公平な競争

 公平な競争の観点からは、共通ルールとして標準化されたマネジメントシステムの導入が必要となってきている。環境ISOなどもその例の一つと言える。標準化されたマネジメントシステムへの適合は工数の標準化でもあり、環境に配慮した工場で作られた製品とそうでない工場で作られた製品では、製造に際してかけられた工数が異なる。当然、製造される製品についてもコストが異なる。標準化されたマネジメントシステムへの適合は、決められた工数をかけて製品が作られていることの証明でもあり、本来環境配慮のためにかけられる工数を省略していないことの証明でもある。
 環境ISOのマネジメントシステムはまさにその代表的なもので、市場においてフェアな競争をするためにも標準化されたマネジメントシステムへの適合は不可欠である。

 (2) 市場が要求

 自治体によっては、環境改善を政策的に誘導する観点から、環境ISOの認証取得を入札審査に活用するところもでてきている。東京都のように、印刷物を含めた物品買い入れ等の競争入札の参加資格審査で、環境ISOの認証取得を企業の格付けに反映するとしているところもある。また産業界においても、認証取得活動の一環として、印刷産業に対しても認証の取得要請や提供する製品の環境負荷低減などの対応を求めるケースが増加しており、今後一層その動きに拍車がかかるものと思われる。大手企業が取引条件の一つとして環境管理体制の整備を重視しはじめている中で、環境マネジメントシステムの構築は中・小規模の企業にとっても事業基盤を維持・強化するために欠かせなくなってきている。

 (3) 環境ISOとは

 環境ISOとは、環境管理に関するマネジメントシステムの国際規格である。事業活動や製品などについて環境と関連する環境側面を抽出し、環境負荷低減に向けたプログラムを作成して実行するためのマネジメントに対するシステム規格である(図10)。環境管理に関するマネジメントシステムが、規格に適合しているかどうかを第三者の審査機関が審査し、この規格に沿って環境管理に取り組んでいる組織に認証が与えられる。ただ環境ISOは認証取得がゴールではない。認証を取得すると、その後も定期的な確認審査(サーベランス)や3年ごとの更新審査を受けなければならないなど、制度としてこれまでにない特徴がある。

図10 環境マネジメントシステムモデル
図10 環境マネジメントシステムモデル

 (4) 認証取得企業数の増加

 日本における環境ISOの認証取得企業数は、ISO9000sの認証取得スピードを大きく上回っており、すでに日本国内でも3000件を超えるサイトが認証を取得し、今や環境ISOを取得した日本のサイト数は世界一となっている(図11)。認証を取得した業界としては、品質ISOと同様に電機業界が先行し、機械、化学、自動車、建築、流通・サービス業、さらには地方自治体へと急速に展開しており、特に自治体の認証取得では、98年に千葉県の白井町が自治体としてはじめて取得してからわずか2年半で100件を突破した。現在検討中の自治体などを含めると、2001年度中にも取得自治体は300件を超える勢いで進んでいるが、印刷産業の取得件数はまだそれほど多くない。
 さらに、最近の動向としてはISO9000s,ISO14001のほかに、労働安全衛生マネジメントシステムや食品衛生に関わるHACCP(ハセップ:危害分析・重要管理点)など、国際標準に基づくマネジメントシステムの構築が進められており、国際社会に通用するマネジメントシステムの構築が求められている。

図11 認証取得推移
図11 認証取得推移

 (5) 印刷企15151515業の対応

 環境問題への取組みは、適切なマネジメントのもとでの継続的な改善を目指すことが重要である。そのため組織的な対応が必要であり、最近では将来の動向を見すえた戦略的な対応も重要となってきている。それは印刷産業にとっても同様で、環境問題に対する目標を設定し、目標達成のための具体的な計画を策定、さらにその効率的な実施を推進していくことが必要である。そのためには、環境問題に対して適切に対応する社内体制の整備や関連情報の収集、必要な設備の導入や適切な人員の配置などが不可欠であり、経営トップの強いリーダーシップが重要なポイントになる。

 

2−6 環境報告書・環境会計に係わる企業の動き

 (1) 環境情報の開示

 企業の内部情報の開示が社会的な要請としてますます強まる中、環境問題への取組みについても関心を寄せる利害関係者が多く、その開示要請がますます高まっている。印刷業界ではまだそれほど多くないが、他の産業界においては多くの企業が環境情報の開示のツールとして「環境報告書」を発行している。この環境報告書とは、企業としての環境への取組み方針や、廃棄物、エネルギーなどの環境負荷、公害問題への対応状況などを一冊の報告書にまとめ、定期的に発行するものであり、最近では「環境会計」の集計結果を「環境報告書」に記載する企業も増えている。
 環境報告書を通じて、環境問題への対応が妥当であることを株主をはじめさまざまな利害関係者に示すことが企業の社会的な責任となりつつあり、企業活動に際し環境情報を含めた情報開示はもはや避けて通れない時代でもある。

 (2) 環境投資の評価

 これまで、印刷産業も含め多くの企業が公害問題や環境問題に対応するため投資を行ってきた。環境問題への取組みは、一方でコスト増にもつながる問題でもあり、環境投資といえども企業経営上は効率的な投資が必要である。そこで、環境対策としてどれだけの費用がかかったかを把握し、その効果を企業経営という観点から評価する取組みが重要となってきている。
 各企業の環境管理活動に伴う改善努力が本当に社会・環境のためになっているのか、企業を取り巻く多くの利害関係者の関心は大きい。その具体的な方法の一つとして「環境会計」があるが、環境会計による情報は社会的に良い評価を得るための外部公表データとして、企業経営上もますます重要度が増してくるものと思われる。

 (3) 環境会計の手法

 環境問題へのコストと効果を把握・評価する手法として、この「環境会計」の導入が急速に広まっている。一部の企業では、すでに財務会計的な手法を用いた環境費用とその効果の把握への取組みが始まっており、結果を公表する企業も増えてきている。1999年には環境庁から「環境保全コストの把握及び公表に関するガイドライン(中間とりまとめ)」が公表され、2000年には「環境会計システムの確立に関するガイドライン(2000年版)」も公表されている。

 

2−7 企業としての社会的責任

 (1) パフォーマンスの開示

 今後は、ビジネスの競争条件の一つとして、環境への配慮が重要な位置付けとなることが予測される。そのため環境への配慮を行っていることをより積極的に社会に示すことが重要で、提供する製品やその製造工程がどのような環境負荷を持っているかを把握し、取引先や社会の開示要請に対して適切に応えていくことが必要である。場合によってはよりよい企業評価を得るためにも、環境に対して適切かつ効率的であることを客観的に示す必要もあるので、環境配慮に対するコストなども具体的に集計しておく必要がある。
 環境問題への対応が叫ばれて久しいが、今後ますます強化される法規制や社会的な動向に適切に対応するため、また社会的に評価を得て事業を継続していくためにも、廃棄物処理費用やエネルギー費用に対して、よりシビアなコスト意識を持つことが必要である。

 (2) 企業評価・格付け

 最近の傾向として企業評価や格付けが、企業経営にとって無視できないほど大きな影響を持つほどになっており、環境問題への取組みもその重要な評価項目の一つになってきている。環境に関連した情報の積極的な開示や環境配慮に対する企業としてのアカウンタビリティ(説明責任)を果たすことなどが、社会的な要請として増大しつつある。環境に関連した評価項目で企業の環境経営度が評価されることで、グリーン購入やエコファンドとも関連して、製品の売上げや資金調達に大きな影響を及ぼしている。
 現在ではまだ企業評価の方法や基準に対してさまざまな議論があるが、ヨーロッパではすでに評価基準を統一する動きもあり、今後ますますその影響度が増すものと思われる。また、欧米ではさらに、社会性と環境のみならず経済性も統合したサスティナビリテイ(持続可能性)で企業を評価する動きも始まっている。
 日本でも企業の環境問題への取組みを自己評価するチェックリストとして、環境省からは「環境活動評価プログラム−エコアクション21―」が出されており、参考としていただきたい。

 (3) 製造者としての役割

 一般に製造者はその生産する製品について多くの情報を持っているため、環境問題や製品安全に対して製造者としての役割が求められている。製品を市場に提供して終わりという考え方ではなく、リサイクル社会の全体的な進展状況を踏まえて、リサイクル化に向けた製品開発やリサイクルルートの確立など製造者としての役割が期待されている。
 具体的には製品の設計段階からリサイクルや適正処理できるよう配慮することや、リサイクルしやすい材料の選定のほか、リサイクル並びに適正処理のための表示などの情報提供も製造者の役割として求められている。さらに製品によっては、製造者自らの引き取りやリサイクルなども求められる場合があり、まさに製造者としての責任が拡大していると言えるが、この流れに適切に対応していくことが新たなビジネスチャンスに繋がることにもなる。

 

 

3. 課題と展開

 

3−1 業界団体が直面している課題と対応

 (1) パフォーマンスの開示

 日本印刷産業連合会の会員団体が直面している課題や今後の対応については、各種法規制に対応すること、またその対応によりコストの負担が増加すること、リサイクルシステムを確立すること、環境負荷の低い資材等を使用すること、環境ISO認証取得等杜会的要請に応えること等を各団体はあげている。具体的には次のとおり。

各種環境関連法による負担金や社内システム構築費用が企業の収益を圧迫する。
社会的要請に適応し、かつ負担の少ない方策を国と業界全体で構築することが必要である。
情報提供システムの構築が必要である。
各種法規制への対応、環境ISOの認証取得等コスト負担増への対応を図らなければならない。
低ホルマリン化、ダイオキシン対策材料、建設産業廃棄物リサイクル問題、住宅品質確保促進法に対応する材料供給など課題が山積みである。
ダイオキシン(発ガン性)、環境ホルモン、インキのノントルエン化、水性化、容器包装リサイクル法・PRTR法等、課題が多い。
非溶剤型インキ(ノントルエンと水性化)、非有機溶剤型ラミネート(熱ラミネート、ホットメルト)など脱石油化学を図る。
自主の品質管理基準マニュアルを作り環境ISO対応型企業へと転換する。
地球環境に優しい新素材の開発に即応する。
有機溶剤塗料に替えて水性塗料の導入等の対策が必要である。
大豆油インキ等は後加工にとって技術的な問題がある。
ゴミ等においても、サーマルリサイクルや共同回収などに挑戦する必要がある。
裁落古紙の再生利用の促進を図り、古紙品質向上への製本技術・資材の開発を行わなければならない。
粘着紙製造メーカーと協議し再生と固形燃料化の開発を考えている。

 

3−2 業界団体としての今後の展開

 (1) 情報の共有化

 過去の日本印刷産業連合会のアンケート調査では、各事業所が適正に環境問題に取り組んでいくための関連情報が不足していることが指摘されている。規模がそれほど大きくない事業所にとっては、環境に関連した情報一つを収集するのもなかなか難しい状況で、中小規模の事業所が多く、環境問題に対する組織や人員も十分に整備されていない印刷産業においては、関連する情報の不足が解決すべき今後の課題としてあげられている。
 したがって、業界として関連する情報を収集し、法改正の動向や印刷産業に影響を及ぼす企業や自治体などのグリーン調達の動向などの情報提供が望まれるところであり、環境負荷低減に向けた具体的方法等の調査研究やそのマニュァルや指針等の作成、並びにその普及をはじめとしたセミナーや講演会の開催、またインターネットを通じた情報の提供を行う必要がある。

 (2) 業界としての方針・目標の設定

 これまで印刷産業全体としての環境負荷については、業界としてまとまったデータがあまり整備されていなかった。一方、多くの業界団体が廃棄物の削減や炭酸ガス排出量の削減、化学物質の管理強化に向けて、具体的な目標値を設定している。印刷産業においては業界全体の数値を把握すること自体に難しさがあるが、まずべースとなるデータを把握する必要がある。さらに、業界としてこれらの指標を継続的に把握するとともにマスタープランを作成し、業界としての目標値を設定することも考える必要がある。また、定期的に結果を公表し、目標に対する進捗度を評価していくことも今後の課題と言える。
 各印刷業界団体としては、環境問題に対して各企業が進むべき方向性を示すことが何よりも重要である。そのためには業界として、エネルギー、廃棄物、有害物質をはじめとした各種環境負荷の内容について継続的に把握し、各団体ごとの基礎データを把握・集計していくことが必要である。また日本印刷産業連合会としては、会員団体を通じて印刷産業全体の特徴を把握し課題を抽出した上で、他の業界などの動向なども参考に業界としての目標を設定することが必要である。さらに業界全体が環境負荷に関する共通認識を持つとともに、各団体から傘下の事業所に対して適切な指導等を行う体制を整備し、印刷産業全体のレベルアップを図っていく必要があると思われる。

 (3) 個別企業への支援

 環境配慮を軸としたこのような流れを受け、各企業の取組みをバックアップする体制が必要となってきている。最近の廃棄物に関する「排出者責任」の拡大に伴う廃棄物処理業者の評価やPRTR制度に伴う情報把握、業界の特徴をふまえたリスクコミュニケーション方法の確立、そして廃棄物問題とも関連した印刷品質の評価方法の確立など、共通課題について業界として対応することが望まれるところである。
 また、環境配慮活動の実績を客観的に評価するいわゆる環境パフォーマンスの評価手法の確立や、製品の開発に際して適切な環境への配慮が行われるよう製品設計の段階から配慮する環境配慮設計の手法の開発、製品のライフサイクル全般にわたり環境負荷の評価を行うLCA(Life Cycle Assessment)方法の確立、さらには企業経営の観点から環境問題に対する費用対効果の会計的手法を用いて把握・評価する環境会計手法の開発など、印刷業界の共通課題に対して業界として検討していく必要がある。

 (4) 客観的な品質基準の作成

 印刷産業においては、廃棄物を発生させる要因として工程内部の問題だけでなく、過剰品質とも思える過度の品質要求に伴い発生する廃棄物があることも否めない。印刷産業は「受注産業」でもあることから、製品に対して「標準的な品質基準」を持つことが難しい産業でもある。そのため、日本人の繊細な感覚により、わずかな色合いの違いや印刷汚れなどが原因で不良品扱いとなり、大量の生産物が廃棄物として余儀なく処理されることもあり得る。そして、得意先の厳しい品質要求に応えるため、過大な労力と資源、エネルギーを消費することも現実の問題として起こっている。欧米の同一種の製品と比較しても品質の差は歴然としている場合もあり、彼らの合理的な考えも参考にすべき点は今後取り入れ、また契約事項のなかに品質条項を盛り込むなど、客観的な品質基準の作成が望まれるところである。さらに今後の対応として、印刷品質に対して発注者をはじめとした顧客への理解を求めていくことも必要と考えられる。

 (5) 関連する他産業等との連携

 電機、自動車、機械など環境対策が進んでいる業界における取組みは、印刷産業にとっても参考となる部分が多い。これまでの印刷産業界の環境問題への取組みをさらに前進させるためにも、印刷産業界内だけの議論にとどまらず、印刷関連業界や他の産業との交流を深めることが環境問題に対して新たな展開を進めるためにも必要となってくると思われる。特に、循環型社会に向けたリサイクルへの取組みなどは、他の業界との連携に効果が期待できるため、業界としても情報交換を含め他の産業との連携をより強化していくことが重要である。
 また、国内に限らず海外での事例収集も重要で、PRTRの実施に伴うリスクコミュニケーションに関しては、PRTR制度の取組みが早かった欧米の対応事例が参考になる。印刷産業にとっても非常に重要な問題であるため、すでにPRTR制度の運用事例の蓄積がある欧米諸国の情報などを参考にして適切に対応していく必要がある。
 一方、先進的な他の産業界の取組みは、産業界全体のルールにもなることがあり、先行している手法をべースに新たな枠組みが設定されることもある。印刷業界としても、日本の産業界に対し影響力を行使していくことも必要であり、産業界の関連する検討会や委員会に積極的に業界の代表委員を派遣し情報の収集に努めるとともに、印刷産業界の立場や取組み方法を主張していくことも必要と考えられる。

―了―


to セミナー・座談会記録TOP 戻る

to Main to Main