(社)日本印刷産業連合会平成12年度調査研究報告

印刷工程における電子送稿及び

デジタル情報の標準化調査研究の概要(後編)

 

2.AMPAC Part2 JIS化に関する調査研究

1)活動目標

 昨年度までAMPAC Part2における制御パラメータの検討は、(財)日本規格協会のAMPAC分科会が進めてきた。これを起点に日印産連委員会(WG2)は、上記の役割を踏まえ、今年度の活動をTR提案書文書作成に向けた準備作業に位置付けた。
 AMPAC Part2の制御パラメータは、印刷工程全体を網羅する膨大な数のパラメータ群となる。パラメータ群の中で、参加委員の専門知識から検討可能なパラメータを対象に、今年度の到達目標を下記の通りに設定した。

(1)第1階層が「設計」「製造(プリプレス工程、印刷工程、印刷物加工工程)」に分類される制御パラメータを第6階層まで抽出し、検証して確定させる。

(2)第1階層が「材料/機械」「辞書」に分類される制御パラメータを第6階層まで抽出する。

2)調査内容

 日印産連委員会(WG2)と同時進行で進めている日印機工の委員会(WG3)は、仮想的な制作・製造工程及び印刷物を想定してAMPAC書式での記述を試みている。日印産連委員会は、この記述試行の過程で発生した制御パラメータの課題を入手し、パラメータの必要性・階層区分の妥当性などを検討した。AMPAC制御パラメータに対し、WG3は必要条件を抽出し、日印産連委員会は十分条件を整えるという体制で検討を進めた。
 日印産連委員会では、検討対象となったパラメータ整理に際して、前工程及び後工程の各分科会を発足させて活動を行った。各分科会の検討対象を下記に示す。

・前工程分科会:プリプレスに関する設計仕様、製造工程、材料、システム

・後工程分科会:印刷及び印刷物加工に関する設計仕様、製造工程、材料、機械

(1)前工程分科会活動内容

 前工程分科会では、今年度のパラメータ整理に対する全体方針を取り決めた。その内容を下記にあげる。

@パラメータ整理の対象として、出版・商業印刷物を主たる製品とし、これらで利用頻度の高いパラメータから抽出、確定して行く。

A制御パラメータとして、定義すべき項目と定義すべきでない項目(割付指定紙の指示、パラメータ入力に負荷のかかる項目、データファイルに盛込まれている項目など)を切分ける。

BAMPACは、その初期用途として、企業、工程、システム等の間で受け渡す制作・製造情報(製品仕様、製造仕様)を蓄えるデータベースと位置付ける。AMPACは、これらの情報を確実に交換するための辞書の役割を果たす。

CAMPAC Part1規格は、作業・日程の計画立案及び実績収集といったワークフロー記述の可能な書式を提供しているが、上記の初期用途を優先して、計画立案に関わるワークフロー関連パラメータの整理は、優先度を下げる。WG3が実施するAMPAC記述試行において抽出された不足パラメータ(主に実績収集に関するパラメータ)の追加に留める。

 日印産連委員会では、計画立案も含めたワークフロー関連パラメータの整理までが最終的な到達目標にある。しかし、デジタルワークフローは、制作・製造する製品、使用するシステムによって異なり、各企業のノウハウに拠る部分が多い。特に、作業・日程の計画を立案する部分は、顧客要求、生産状況、実績など各種要素の情報集約を要する。このようなワークフロー関連のパラメータを標準化するのは、現段階では時期尚早だと判断した。そのため、製品仕様・製造仕様情報を企業、工程、システム間で正確に交換する仕組みを定義して、AMPACが使用される過程で、ワークフロー関連パラメータを見直すこととした。
 上記方針により、前工程分科会では、プリプレスに関わる設計仕様、製造工程、材料、システムのパラメータ群を抽出し、整理した。整理に際しては、パラメータの意味・用途を明確にすべく、パラメータの用語定義及び辞書の整備に注力した。

(2)後工程分科会活動内容

 これまでに検討されてきたパラメータの見直しと、新たなパラメータの追加を行った。具体的には、第1階層「製造」−「印刷工程」の第2階層「グラビア輪転印刷」に新たにパラメータを追加し、第1階層「材料/機械」−「印刷機械」の第2階層「グラビア輪転印刷機」に新たにパラメータを追加した。また第1階層「材料/機械」−「印刷機械」の第2階層「オフセット枚葉印刷機」と「オフセット輪転印刷機」の相違点と共通にできる項目の検討を行い、パラメータを見直した。更にWG3の記述試行過程で発生したパラメータの課題を反映させた。

 

3.印刷工程におけるデジタル情報の標準化調査研究

1)工程デジタル情報の標準化の現状

 印刷工程は、製品設計から配送にいたるまでの多くの工程から成り立っている。従来、これらの各工程はそれぞれの特性に応じて各工程が比較的明確に区分できていた。従来の標準化はこれらの区分に基づいて行われてきており、工程相互に関するものは少なかった。工程のデジタル化に伴いこの区分が変化し情報の流れも変化してきており、工程間での情報の流れは従来の工程区分では取り扱いにくくなってきている。文字、線画、CG画像、自然画像等は現在すべてデジタル処理される方向に向かい、これらが統合化される。
 また、製品設計の範疇と考えられる画像設計段階で、従来は印刷前工程として工程設計の区分に属していた作業がDTPに組込まれて、製品設計段階ですでに集版や画像加工が完了するというワークフローも現実されている。さらに、CTP(Computer to plate)の発展は、製版工程に必要な作業内容までも製品設計段階で指定するようになり、これらのワークフローが完全に機能するには多くの前提条件が必要となる。
 要素画像それぞれの固有の特性差が製品設計段階で標準化されれば、その内容を製造工程設計内容に変換するには、付加情報なしに機械的に達成出来るであろう。画像要素の特性の内容が、出力(表示系)特性を厳しく制限することを通じて平準化されているCRT表示系では、仮想的にこの目的が達成される。出力系特性に任意性がある印刷工程では、出力製品の画像表示特性や形態に応じた種々のワークフローが存在しており、CRTに見られるような理想的な単一平準化は不可能であり、さらに印刷工程では出力特性に制限を加えないところに特徴があるために、遡って入力画像の特性にも自由度が許される。これは、平均的な一定範囲を超える品質基準が要求される場合や、品質よりコストを優先する場合もある。
 したがって、印刷工程においては、印刷物製造に関わる幅広い情報が、画一的な枠をはめることなく自由に流通できる情報体系が構築される必要がある。
 相互のデータ交換や参照が許されるシステムが確立されてさえいれば、工程の切分けがどの部分でなされようと自由に必要な情報を選択して利用できる。このような自由な切分けが知恵の発動であり、真のワークフローマネージである。
 現在の情報伝達系では、この状況に十分対応できる形態になく、内容を厳格に限定した情報群を伝達することを目的としているため、情報内容の選択はできない形態となっている。

2)工程デジタル情報の将来展開

 従来の情報伝達のための標準は、対象を厳しく制限した情報伝送であり、情報内容を組合わせて形態を変えるようなあらゆる生産分野にまで拡張して適用することは難しい。
 本調査研究で適用試行の対象としたAMPACの戦略と挑戦は、インターネットにみられる文書化された知識伝達標準とは異なり、交換が容易な知識利用のための本質的な知恵情報蓄積を目指している。知識利用はすなわち知恵であり、知恵の蓄積のためには知恵内容の分析と知恵表現の形式が必要である。知識のみの処理を脱した枠組み作りの戦略が必要である。
 AMPACは、知恵を、「知識の明確化」、「知識の選択抽出」及び「抽出知識の関連づけによる行動指針の決定」と定義することで種々の工程に対応した知識選択と結合を可能とした体系をなしている。知恵の抽象的な対象とせず、技術的に利用できる範囲に限定し、曖昧な知識表現を排除し、技術的に利用可能な知識要素を明確な形で表現し、利用する対象に応じて必要な知識を選択、組合わせることで最終的な判断に結びつけることができる。
 知識を知恵に展開し活用する過程総てを交換したり、知識を蓄積した後拡張したり縮小したりできる道を開くことに主眼点が置かれている点で、設計工程のような創生過程の明示が要求される記述法として最適である。
 AMPACでは、知恵に展開できる知識の自由な結合及び分解を簡単に実現し、上記の知恵に発展できるような要素の表現法を提案している。特に、製品規格、製品設計、工程設計、機器初期設定、機器制御、メンテナンスといった広範な知識集積と知恵が同時に必要な分野での知恵蓄積と伝達に適するよう工夫されている。
 実際のAMPACデータベースによる基盤整備の位置付けは以下のように考えると従来規格との違いが明確になる。デジタルデータの実体は単なる符号であり、どのような順序で数値データがならんでいるか、それぞれの数値が何を表現するかは予め厳密に規定しない限り内容を理解することはできず、この約束を明確にするのが現在のフォーマットを定める規格である。この規格は実体形式をパラメータ要素まで含めてすべて固定化することで数値あるいは符号列の意味を単一化しており、実体要素化し伝達するので、その内容は知識のみに限定され、利用する上での知恵を付加することはできない。
 一方AMPACデータベースは、知恵の素片として知識を取扱い、送られる知識の結合と使用法を蓄積伝達する。すなわち基本的には知識を含めた知恵の取扱いを対象としている。AMPACデータベースの共有部分は、このような知恵利用が可能な知識集合体を形成している。

3)将来展開への歩み

 将来展開への具体的提言として、種々の現用規格及び将来現れるであろう規格の情報基盤としてのAMPACデータベースの利用が推奨される。一般性と知識蓄積及び知恵への発展性が直結した普遍システムとしてAMPACの有効性を示すことは、AMPACの意義と実用性を結ぶ上で重要な試行である。

4)工程情報標準化試行事例

 Database AMPACは、印刷関連産業にて利用される「設計」、「製造」、「機械/材料」に関するすべてのパラメータを階層構造にしたがって分類した『階層構造モデル』と、その構造モデルに記述されたパラメータにしたがってデータベースファイルを構築するための『データ記述書式』を定義したJIS標準規格である。
 平成12年10月20日に、「印刷工程管理のためのデータベース構造モデル及び制御パラメータの符号化−第1部:構造モデル及びデータベース記述書式」がJIS X 9206-1:2000として制定された。Database AMPAC構造モデルは、生産工程に関するすべてのパラメータを設計、製造、材料/機械、そしてパラメータ検索のための辞書を加えた4つのカテゴリーに分類し、各カテゴリーに属するパラメータの次元が等しくなるように階層化したものである。あらゆる生産工程に適合可能であるが、ここでは特に印刷産業に関するパラメータを分類した階層構造モデルを以下に示す。各階層の意味は次の通りである。

 第1階層:設計、製造、材料/機械の最も広い範囲を定義する。

 第2階層:第1階層で定義された項目の仕様及び名称を定義する。

 第3階層:第2階層で定義された項目の要素及び機能を定義する。

 第4階層:第3階層で定義された項目の指示、設定、特性などのパラメータを定義する。

 第5階層:第4階層で定義されたパラメータのカテゴリー間の関連を定義する。

 第6階層:第4階層で定義されたパラメータの値もしくは導入関数等を定義する。

5)データ記述書式

 Database AMPAC記述フォーマットは、15種類の要素から構成されており、各要素は「;」で区切って記述する。1レコードで1データを表すため、各要素の並び順を変更することはできない。下記に示した書式では文章表記上途中で改行されているが、実際にデータを記述する場合は全て続けて記述し、最後に改行を加える。また、[ ]付きで示した要素は省略可能であることを示す。

(Database AMPAC記述フォーマット)Manufacturer;[model identifier];[information group];parameter name [:reference:];[identifier in parameter];n1;[PR1,PR2,…,PRn1];[Q(mame)];DIM;[DIMN];[DIML,DIMM,DIMT,DIMA,DIMK,DIMMOL,DIMCD];[DIM10];[n2];[DATA1,DATA2,…,DATAn2](改行)

 (1)manufacturer:機械、材料などの製造者の名前。設計者又は創作者の名前。
 (2)model identifier:製造番号、製品名など。
 (3)information group:関連するパラメータをまとめたグループ名。
 (4)parameter name:パラメータ名またはコード番号。
 (5)reference:パラメータ参照要素。または辞書検索語。
 (6)identifier in parameter:パラメータ識別ID
 (7)n1:関連パラメータPRの個数。
 (8)PR1,PR2,…,PRn1:パラメータ関連要素。
 (9)Q(mame)パラメータ導入関数。
 (10)DIM:パラメータの単位指定要素。
 (11)DIMN:ISO1000、共通単位定義ファイル又は利用者が定義する単位の名称。
 (12)DIML,DIMM, …,DIMCD:ISO1000による基本単位に対する指数。
 (13)DIM10:DATAの乗数。
 (14)n2:DATAの個数
 (15)DATA1,DATA2,…,DATAn2:parameter nameで与えた要素の値。

6)コーティング例

 日印産連委員会で検討されたサンプル印刷物の仕様に沿って作成されたAMPAC階層構造モデルとパラメータデータに基づき、AMPACコーティングを行った。しかし、コード化されたデータは通常コンピュータによって解読され、人の目に触れることはないため、コードを示す程度にとどめる。

(1)設計仕様

受発注情報、ラフデザイン指定、割付指定、製品ページ構成、版作成仕様、印刷仕様、製本仕様

(2)プリプレス工程

文字入力、画像入力、画像加工・編集、線画・図形入力、画像編集、面付け、色校正、校正刷り、フィルム原版作成、刷版作成

(3)印刷工程

(4)印刷物加工工程

断裁、枚葉折り、中綴り

(5)被印刷材料

(6)印刷材料

インキ

(7)印刷機械

オフセット枚葉印刷機、オフセット輪転印刷機

 

4.まとめ

 印刷産業でデジタル技術が導入されてから約30年が経過しており、デジタル技術は印刷工程では一般的技術になっている。しかし、印刷におけるデジタル化は個別の工程で進んできたため、工程間でのデータ交換、あるいは顧客、印刷会社、広告代理店といった企業間で管理情報も含めた交換は十分であるとは言い難い。
 今回印刷に関するデジタル情報の標準化という観点から、電子送稿、AMPACJIS化、印刷工程におけるデジタル情報標準化という3つの切り口で調査研究を総合して行った。電子送稿ではネットワークを利用してデジタルデータを送る場合の現状と課題の抽出さらには提言を行うことができ、またAMPACではPart1で規定されたAMPACの構造モデルに蓄える情報を制御パラメータの規格化に向けた活動を行いながら、印刷工程デジタル標準化で実際の工程を想定して、そのパラメータのシュミレーションを行い、AMPACへフィードバックするといった連係をとりながら、印刷工程のフルデジタル化に向けた有意義な調査研究ができた。
 今後、顧客、印刷業界、メーカーやベンダー等一体となってさらに印刷の高品質化、効率化を実現する仕組みに取組むべきであることが提言できたことは大きな成果といえる。

−了−

 

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