日本フォーム工連・資材委員会・セミナー記録


粘着紙の物理特性とアプリケーション(後編)

 講師 野崎 聡 氏 リンテック(株)東日本営業本部営業技術部係長

    川崎雅弘 氏 リンテック(株)東京支店LVIP営業部サプライグループ

平成12年2月17日 東京・茅場町「鉄鋼会館」

 次にインクジェットプリンタとレーザービームプリンタのお話をさせていただきたいと思います。こちらのほうは、サイテックスを使われたり漢プリを使われたりということで、私どもはどちらかというとカラーも視野にいれてものづくりをしています。また、フォームではなくカット紙のほうが私どものお客様の市場として多いものですから、カット紙の分野を中心にお話をさせていただく形になるかと思います。
 まずインクジェットの代表的なものとして、ピエゾ素子というものがあります(図18)。こちらはエプソンの機械に使われていることが非常に多いです。これと双璧をなすという形で、バブルジェットBJ(キャノンの方式)といったものがありますが、今回はピエゾのほうのサンプルを1つだけもってきております。私たちがよく目にするものは、エプソンのカラリオというプリンタです。今は770DPIというレベルまできており、こういったものを持たれている方もいらっしゃると思います。市場で45万円ぐらいから手に入るものです。しかし大型になると何十万円、サイテックスになると何千万円というものもあります。


 こちらの設計ポイントは、カラーを視野に入れたということですので、いわゆる画像性が一番になります。インクジェットの特徴として写真のようなものができるということです。ただ、これはどうしてもプリンタの性能だけではなく、受け側である紙あるいはフィルムのほうの性能もプリンタに追いついていかなければいけないわけです。この辺の画像性をポイントとして見ております。まずインクの吸収速度が挙げられます。これは乾燥性にもかかわってくるのですが、射出されたインクがどれくらいで吸収され、どれくらいで乾くのかということです。仮にこれが遅いと、積み重ねられたときにブロッキングを起こしてしまって下の紙と上の紙がくっついてしまい、せっかくの画像が台無しになってしまいます。また、乾いたかなと思って触ってみると指紋がついてしまうなんてこともあります。
 次に、形成ドット径というものが挙げられます。ものをきれいに見るとき、これは黒でもカラーでも一緒ですが、ドットがいかに真円に近く存在するか、あるいは解像度によってその真円の大きさが直径どれくらいで一番美しく画像を得られるかということが関わってきます。あるいは文字を打ったときに、その文字がいかにきれいに見えるのかというのが、実は解像度によって違います。解像度というのは、360DPIとか、720DPIとか呼ばれているものです。私どもでは解像度にあわせた用紙を販売しておりすが、その用紙ごとに解像度を調査して真円に近いものが得られるのか、直径は適性か、こういったものをポイントにしています。
 濃度。せっかく赤いインクで印字をしても、濃度が低くなってしまって紙の色がでてしまうとピンク色になってしまいます。黒の印字でも、バーコードを打ったらグレーに近くなってコントラストが得られないということになります。こういったことが起こらないように、濃度をどれぐらいまで上げられるかというのを1つのポイントとしています。では、黒のインクを打つのなら、インクを表面上にとどめておけばいいのではないかと思われると思います。確かにそうなのですが、そうすると濃度は上がりますが、乾燥性が悪くなってしまいます。では、乾燥性を上げるためにインクを表面下まで落としてしまうと今度は濃度が得られない。こういったバランスをとりながら画像性をチェックしているということです。
 保存性。これは染料インクのほうが一般に多く使用されていますので「染料インクに関して」という書き方をさせていただきます。インクジェットは昔から耐水性が悪いと言われていますが、最近では以前にくらべると良くなっています。紙しかり、フィルムしかり、耐水性をどれぐらい保持するものなのか、あるいはお客様が使われるときにどれぐらいの耐水性を持たせてあげるのがベストなのかということを調査して製品設計をしています。
 染料インクなら、インクを受ける側のほうで何かお手伝いできないかと考えます。インクが上のほうにのっかってしまったら確かに画像はいいかもしれないですが、耐候性が落ちてしまいます。逆にしみこませてしまうと、耐候性は比較的よくなりますが、画像性が悪くなってしまいます。この辺を紙側でもなんとかできないかということを評価対象としております。
 スクラッチ性についてですが、1つだけ憶えておいていただきたいのですが、ものによって違うということです。サーマルのスクラッチ性がいいのと、熱転写のスクラッチ性がいいのとは次元が違うのです。
 その他として、先ほどの小さいプリンタはパーソナル用のもので、大きいもののようにメンテが年一回はいるというものではありません。その為、実際に搬送をしてプリンタ汚染がないか、普通の紙だけであれば紙粉はどこにたまるのか、あるいはどうすれば紙粉がたまらないのか、私どもの製品は粘着剤がついていますので粘着剤が悪さをしないかということをテストします。こういったことから、このような実送テストが一番時間がかかる作業になります。
 そのシリーズの中で、ざっとカット紙用ということで書いてしまっております。実際にはフォーム用のものも検討しておりますが、まだ上市にいたっておりません。その中で、カット紙のモノクロ対応のものは宛名ラベルのようなものになります。小さい事務所で手紙などを送付するときに、抜き加工がされたラベルに宛名を印字して貼っていくようなものです。そして、フルカラー。720DPI360DPI対応のものをそれぞれ持っております。今どき720DPI360DPIかと思われるかもしれませんが、実際には1440DPIのテストも当然行っておりまして、プリンタメーカーと話を進めているような状況です。
 それと一緒に、フィルムも上市をしております。フィルムは何に使うのかというと、コップ用としてガラスに貼ったり、下地に何か印刷してあるものの上に透明のフィルムにインクジェットで印字したものを貼ったりと、こういった用途でフィルムの透明ものが世の中に出回っていますし、使用されているようです。
 方式としては最後になりますが、電子写真方式(図19)、レーザービームと呼ばせていただきますが、こういった方式の説明をさせていただきます。トナーを感光ドラムに定着させておいて、受け側の紙のほうにさらに定着ローラー、熱や加圧といったもので、文字あるいは画像、バーコードといったものを出力します。

 ここで粘着紙には何が一番必要かというと、粘着剤というのはやはり熱と光、UVですが、そのようなものに非常に弱い性質をもっております。UVがかかると劣化してしまったり、熱がかかると弾性体のバランスが流動体のほうに傾いてしまったりします。簡単にいうと、わきから糊がはみ出てしまうということですが、そのようなことが常に問題になってまいります。なるべく糊のはみ出しがないように、しかし貼るときにはきっちり貼れるようにと、そうのような工夫をしてものをつくり上げるのが一番苦労している部分です。
 いままでご説明させていただいた4品目の中で、この電子写真方式が一番苦労していると言えば、苦労しているかもしれません。プリンタの代表例としては、エプソン、リコー、京セラ、ゼロックスのものがあります。先ほどの資料添付のラベルも、種類としては同じようなプリンタで打ち出しています、。
 こういったカット紙での供給が私どもは多いものですから、プリンタに入る前のカールはNGです。プリンタから出てきた後=印字後のカールについても、カールしてしまうと作業性が非常に悪くなってしまいます。この2つがまず大きなポイントです。先ほど申しましたように、こちらのプリンタはかなりの熱が一気にかかります。紙は生き物だなんてよく言われますが、粘着剤を紙と紙でサンドイッチしているものが粘着紙でして、上紙が湿度を吸収してしまえば、上紙が伸びてしまいます。逆に下紙が吸収すれば、下紙が伸びてしまいます。こんな微妙なバランスのもとに粘着紙というのは成り立っているものです。そのような事を考慮して、印字する前と熱が加わった後とで同じような挙動を示すような紙を選定してつくりあげたのが、このレーザービーム方式の用紙の特徴になります。
 また、枚葉=カット紙の供給になりますので、摩擦係数も設計のポイントとして挙げられます。なぜ摩擦係数が関係するのかというと、摩擦係数が高いと2枚、3枚が一緒に搬送されてしまったりします。当然、作業性や効率が悪くなると同時に、プリンタの制限厚みを超えてしまいプリンタにダメージを与えてしまうということも考えられます。受け側の表面の印字されるほうと、剥離紙の裏面の印字されない側のこの2つの摩擦係数を評価しております。ただ摩擦係数といっても通電性がよければいいと言うわけではなく、イオンでの吸着あるいは感光ドラムへの転着などというのがこのプリンタの1つのポイントになってきますので、この係数のバランスをよくしないと印字がきれいにのってくれないという苦労もあったようです。
 昨今のプリンタは、カラーで打ち出すものがかなり多くなってきています。ひと昔前にカラープリンタを使用するとき、画像重視でしたらインクジェット、耐候性や耐久性でしたらレーザープリンタなどと言われていましたが、この頃では、レーザープリンタがかなりきれいな画像が得られるようになっております。その画像を受ける為の用紙ですので、電気抵抗をいかに効率よく伝えてあげるかということや、表面基材の平滑性が重要になってきます。ただ平滑性のほうはあまり平滑になると、トナーがのった後に食いつきが悪くなり、擦過性が悪くなってしまいます。逆にあまりデコボコが多すぎると、トナーがのらないということになります。こういったことが起こらないように、平滑性のテストを行っております。私どもが今までつくりあげてきたものがお客様に好評を得ておりますので、私どもの製品は間違っていなかったと自負しております。
 次に汚染性です。ご家庭にあるコピーやレーザープリンタは比較的小型ではありますが、搬送性は非常に複雑になっています。ひっくり返ったり、Rが2度3度かかったりしています。そして大型のレーザープリンタですと、さらに搬送系が複雑になっています。そのため、先ほどの粘着剤のはみ出しが本当にないのか、あるいは表面コートのコート剤が落ちてしまっていないか、紙粉がでていないかというところをテストし、プリンタを汚染しないように注意を払っております。先ほどのインクジェットとは違って、こちらのレーザープリンタは熱がかかりますのでさらに過酷なテストになっています。20003000枚を一気に流して不良率がいくつかというところを見ています。プリンタの実装テストの中で、最優先で行われるのはレーザープリンタ用のサプライになってきます。
 シリーズとして5品目。個々のものを細かに説明させていただきたいと思います。LN1100連続紙用です。表面基材、剥離紙とも再生紙となっております。表面基材が100%、剥離紙が50%の古紙を含んでいます。こういったものは、LN6410という上質系のものを凌ぐ勢いで伸びております。お客様のほうもやはりエコロジーにかなり関心を持たれているなという感想を持っております。
 FN3461とFN1261はフィルム基材です。糊は再剥離タイプで、一度貼って一定期間後に剥がしてしまうものです。では、レーザービームプリンタで印字したものを貼って、一定期間後に剥がすというものはどういうものに使われるのかというと、POPがまず1つ挙げられます。先ほどのように窓ガラスに透明のものを貼ってあげたり、あるいは電飾用のものに貼ったり、ある一定期間セールが終われば剥がしてしまい次のラベルを貼るという用途があります。例えば大手スーパーであれば、こういったものを使う必要はないのかもしれませんが、中小のスーパーではこういったプリンタで印字されたものを使っています。棚札と呼ばれている値段の札は、商品が変わったときや値引きをするときに、以前のラベルを剥がして新しいラベルを貼ってあげるという用途で使われているのがフィルム基材のラベルです。昨今レーザービームプリンタが普及してきた為だと思われますが、かなりの枚数が出るようになっております。
 ざっとお話してきましたが、特徴的なものをいくつかお話しさせてください。
 ラインアップについてですが、今までお話しましたようにインクジェット方式、電子写真方式、ダイレクトサーマル、溶融型熱転写方式という分類をしています。LVIP製品では、溶融型熱転写方式がラインアップとして一番多くなっています。これらの使われかたは、紙系は物流用、フィルムは銘板用やコーションラベルといったものが非常に多くなっています。なぜこういったものを多くラインアップしているかというと、銘板とかコーションラベルというものは昔はほとんど印刷でしたが、この頃では使われ方が若干変わってきています。銘板用に何かのロットNo.を刻印したり、あるいは日付をいれたりするようになって、以前のように印刷を1版ずつ行うというのがなかなかできなくなってきています。そういったものをすべていっぺんに打ってしまおうという使い方もできますし、印刷で行うような細かい文字もプリンタで打ち出せるような時代になってきています。完全に印刷から印字へ移行されているわけではないのですが、先ほどお話したような銘板用、コーションラベルなどは印字のものが増えはじめています。
 先日、プリンタメーカー、リボンメーカーと私どものようなサプライメーカーが話をしていた中でも、これからはコーションラベルというものはかなり伸びてくるでしょうという話になりました。そして、リボンメーカーは、銘板用、コーションラベルを狙って新しいリボンを作りはじめ、プリンタメーカーはそれを狙った機種をプリンタの市場に投入していき、私どもサプライメーカーは溶融型熱転写のラインアップをさらに加えているという形になっております。
 ざっとリンテックの粘着剤と情報用紙ということでお話をさせていただきましたが、何かご質問はございますでしょうか。
質問 前半のお話の中で、接着力の表現の中でスリップステックというものがありましたが、これはどういう状態のことでしょうか。
川崎 スリップステックというのはいくつか呼び名があって、ジッピングと呼んだりもするのですが、通常ラベルを剥がすときれいに滑らかに剥がれると思いますが、ジッピングというのは、ある一定の距離を保ちながら急に剥がれたりとまったりし、剥がした後に横の線が入っているような状態になります。そういった現象がおきてしまうものに関しては、組み合わせが悪いということが多かったりします。
質問 シリコーンの剥離剤で、無溶剤型を使われるようになってきているということですが、この無溶剤型というのは、例えば時間経過などで反応して固化するというものなのでしょうか。固化のメカニズムはどうなっていますか。
野崎 固化のメカニズムについては、印刷と同じです。UV硬化です。中には、EBもありますが今はほとんどUVです。
質問 溶剤型とエマルション型で、どういう性能が要求されるときにはどちらが適しているという選定基準のようなものを簡単に教えていただければと思います。
野崎 ほとんど溶剤型だと思っていただいて良いと思います。エマルションについては、量的には少ないと思います。

―了―

 

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