日本フォーム工連・技術委員会セミナー記録
やさしいEビジネス 中編 ―業種別事例に見る印刷業とEビジネスの共存― 講師 堀田和雄 氏 日本ユニシス(株)asaban.com事業部 事業部長 平成12年11月15日 東京・茅場町「鉄鋼会館」
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では、情報活用の主体が顧客に移ってしまうと一体どういうことになるか。まずインターネット自体の効用、これはもう既にご存じのとおり、これ自体があるものですから、情報の取得から始まって、閲覧、取得、活用というのは、かなりこれで光明が出てきたわけです。それから、特に米国では情報公開というものがかなりかっちりと決められていますから、ものすごくオープンになっています。それから個人、法人問わず、ホームページみたいなもので主張、その他、問いかけるといったことはありますし、それをもう少し大がかりにしたポータルがある。それから、インターネットを主体に友人、知人の中のコミュニティが非常につくられている。この辺でもさらに騒がしくなるわけです。それから、年末からもう始まりますが、デジタルテレビのすさまじいチャンネル数があります。ですから、映画とかスポーツのみで満足される方はいいことばっかりだと思いますけれども、実にすさまじい情報量が出てくる。したがって、顧客サイドとはいえ、明らかに情報過多になるに違いないというふうに置いています。
置いたはいいけれども、どうなっちゃうのということになるわけですが、たくさん例があるので、とりあえず4つぐらい書いてみましたけれども、1つは投資信託。何で投資信託と書いたかといいますと、株とか、為替とか、この辺はもういささか、皆さんご存じだと思うので、投資信託というとまだ割とひっそりしたような金融商品なわけですが、インターネットを活用して生きている投資信託を見ようとしますと、市場に出ている商品は8,000本もあるんです。ですから、幸い5〜6個しか知らなければ、その中の優劣で満足して買ったかもしれないけれども、8,000もあったら比較なんかもうできないんですね。ちょっとしか知りませんと、その中で、貯蓄性に富んでいる、確かに富んでいるね、これを買ってしまうわけです。でも、8,000なんてあると、そこで貯蓄性に富んでいるといったって、本当にどうかというと、また違うその比較が要るということになるわけです。そうしたら、だれかに聞かないとわからないなというふうにきっとなる。
それから、2番目にB to C商品と書いてありますが、町の中で買える品物について情報過多になる。どういうことかということですが、低価格表示って、絶対額だけでしたら、買いたい目的がある以上は、これが安い、これがいいというふうに一発で決まるわけですが、あいにくそうではありませんで、季節キャンペーンですとか、日時の特定キャンペーン、この日時というのも、受け付ける日時特定もあればあ、実行する日時特定もありますし、それで躊躇しているうちにどんどんそれが終わってしまったりもするわけです。そういうようなことがあったり、それから抱き合わせのキャンペーンがあったり、マイレージのボーナスがあったりといったことで、本当は有利な話ですけれども、情報過多ぎみから見ましたときに、これはやっぱり難儀なことなんです。
それから、違う種類でいきますと、車。日本の車はまだこうなっておりませんが、米国は徹底的にここの書いたようなことになっていまして、ユーザーからそのメーカー、もしくは、車種に対してクレームというのはもともと出ているわけです。企業が預かる顧客からのクレームデータベースはもうだいぶ前から公開をしているわけです。そうすると、買う人は、こういうものが好きな人は自由に見られるわけです。そうすると、重箱の隅をつっつくようなたぐいから、ブレーキを踏んだときのレスポンスなど、いろんなことがわっと書いてあって、その中で自分が活用したいものをつかみとっていくことになるんだと思いますが、まあそんなことなんですね。それから、友の会の掲示板みたいなものがあったり、車の私的コミュニティもあったり、とにかくあら探し当然の情報がわっとある中で、ヒントをつかみとろうとするわけです。
先ほどの投資信託で言い忘れましたけれども、投資信託に限らず、金融とか生活に関係する分野について今言われていますのは、やたら情報が過多になったときに、指針がないものですから、自分の指針をだれかに委託しても、何とも言えないんですね。したがって、問題意識を持つ人が希望していますのは、自分が関係するテーマについて健全なディスカッションの場がインターネットで、広場になっているとありがたい。その広場の中の健全なディスカッションをわきで聞いていて、自分流儀を探したい、こういう感じが随所にあります。ですから、これを見たときに、ただ自然の話でもってほうっておくのか、積極果敢かといったあたりに差が出てくるんだと思うんです。
もともとこのEビジネスとか何とかという言葉の中に、実は双子で産み落とされているのが、Eビジネスと一緒にくっついているのが、Eコミュニティというのが言われるわけです。ですから、あっちこっちで、廊下でもって話し合うなんていったことと同じなものが、インターネットで飛び交うわけで、自分の私的広場があるわけです。Eコミュニティです。
何年かすると、確実に日本でも言えそうなのは、あらゆる企業のホームページの大きな場所に、自分の取引先からの文句を掲載する場が出ると思います。それは勇気のあることですが、今だって知らないとこで言ってるわけです。例えば、お世話になっている電車、どこかから乗っておりますけれども、褒める人というのは基本的にいないんです、必須極まりない輸送機関ですが、やっぱりどちらかというと文句があるわけです。同じように、どんなことを営んでいても、文句というのはあるわけで、知らないで過ごしているのか、知った上でやるのかという差があるわけです。ここまで来ますと、今後の企業活動は、自分のホームページのど真ん中に、顧客がこう言ってますということを残らず書いてしまう。書いて、その顧客がぶつくさおっしゃってることに対して、インターネットだからぶつくさ言ってきてくれるんで、インターネットだからこそすぐ返してしまう。それで、対症療法というのはなくて、せっかくある観点で文句を言っているわけですから、その文句に要相談だと。相談を繰り返すうちに、それが製品のサービスに生かすような仕掛けをつくろうじゃないか、この仕掛けが商品じゃないかと言われているんです。まだ実感はありませんが、ほとんど米国ではこんなぐあいになってます。こういうふうに取り上げないだけなんですね。こういうことで、顧客側に情報活用の主体が移るというのは、まず身の回りではそういう現象になるだろうというふうに考えています。
それから、4つ目ですが、昔は商売するときに、面談とか体面とか、フェース・トゥ・フェースで、実感をもって商売するわけですね。これは、インターネットですとそういうわけにいきませんから、ワン・トゥ・ワンという言い方に変えていますけれども、ネット越しですけれども、1対1でやるわけです。ここには、インターネットストーカーって、随分悪口を書いていますが、本当はコンピュータ屋さんはこういう言い方をしなくて、こういうものを愛さないといけないわけですが、しかし、相手のEメールアドレスがわかったが最後、どんどん提案するわけです。それで、役に立った場合は提案ですけれども、見境なくいろんな人が提案してきたという、これはもうストーカーに似てるわけですね。この辺も、これから明暗を分けていく1つの技術がもたらした現象なわけです。
この辺もまだシステムが脆弱ですから、ちょっとしか買ってない人は、見込み客であると同時に、重要客ではないんです。1週間前でも少し買っていれば、見込み客よりも、実績豊富な大取引先なんていう、やむをえずバイナリなとり方をするわけです。今までは肌で感じたり、TPOの中でもって、今後のお客になってほしいということで、指導もされましたし、一生懸命やるわけですけれども、そこのぐあいがそげおちてるわけです。今の技術は、今までやっていたようなことを、もっと巧みに情報を整理しようじゃないかというので、飽くことなく技術開発も進んでいるわけです。
技術開発が進んでいるといった行く末は、人間同志でやるような、多感で多彩なことに、コンピュータシステムが近づくようなことになっているわけです。だから、なかなかうまくいかないと思いますが、そういう現象だと。したがって、情報過多の時代に明らかになる以上は、情報の整理とか仕分けの代行業が例外なくふえるだろう、こう思います。括弧内に「新たな仲介機能」と書いてありますが、大昔の商社だと思うんですけれども、それがインターネット時代の情報過多の顧客サイドに対してはこうなるだろう。そうすると、自分がいつも気にしたいような内容とレベルと項目をだれかにお金を払って委託すると、何か送ってくる。自宅に帰って、盲目的にテレビを何チャンネルかぴょんとひねることが多いと思いますけれども、同じように、自分が委託した代行業者の画面を出して、自分が気にしているものがどうなったかを見ようということにきっとなるに違いないという議論がかなり多くあります。あるいは、マイチャンネル機能とありますけれども、言い方を変えただけで、自分が希望するものをセットしておくと、それを、だれかが運んでくるというような寸法になります。こういう時代だということで、私どもはそういう仕事をするという専門業体をつくっていまして、これがasaban.comという名前の事業になっております。
このパートの最後になりますが、顧客サイドに主権が移るという以上は、企業にとっての研究の同盟とか、提携はどんなものになるか。目下のアライアンスは企業間同盟ということが主体ですが、情報主権が顧客サイドにシフトするのであれば、研究のアライアンスは企業対顧客だねということにないます。そうすると、すごく極端なことを言いますと、顧客がセールスマン的になると一番いいだろうな、こうなります。これは、先ほど触れたことにもかかわりますが、企業に執拗に食い下がるお客さんが自然にふえるわけですが、しかし、ネットでしかできない対応で、まあ仲間に入ってもらいましょうよということで、いずれ、ファンになっていただくという気持ちで臨むかどうかが違う。CRMという言葉がありました、カスタマー・リレーション・マネジメントですが、これを積極的にEでもって進めるということを、学問的な枝葉を全部とってしまいますと、文句を言う人にはやがてファンになっていただくよという気持ちが、そんなことになっているわけです。
こういうように、ネット革命、それからネットビジネス、Eビジネス、IT革命、全部同じことを言ってまして、さっきから申し上げましたとおり、情報通信技術も目を見張るものになってきているわけですが、情報を活用する主体が相手に移っているといったことがもたらす変化はどんなものかといったあたりは、業種・業界によって個性がありますから、何とも言えないわけです。でも、そういうトレンドだというふうに今考えています。ここでは、幾つかのビジネスモデルの類型ということが言われていますから、少し触れておきたいと思います。
まず、図5の上の左ですが、セラー・セントリック・モデルと書いてありまして、文字どおり、売る企業です。サプライヤにとって非常に都合のいいビジネスモデルといったものが世の中にやっぱり最初に出ました。あっちこっちですぐ言われますのは、例えば運送のフェデックスです。本当は、24時間、いろいろなお客様から今、自分の荷物はどの段階にあるかを知りたいと、答えたい。だけど、ありとあらゆるところをポイントにして答えないといけない。相当なシステムづくりと人間が要る。しからばということで、内部システムを開放してしまったわけです。ですから、社員もお客も同じことを使いますから、だったら問い合わせ、追求はやってくださいということなんです。ですから、売り手にとって都合がいいといっても、身勝手というのではないんです。高級な意味で売り手にとって都合がかいいということです。したがって、サービスコストがかからないわけです。最初のサーバーの開発は要るにしましても、運転については、開放してしまいすから、社員もお客の同じように使ってくださいということになります。その分だけ安い料金でやっていけそうだということになります。
これが、パソコンのモデルとか、あっちこっちで似たようなものがいっぱいありまして、いずれにしても、人手をかけないで、パソコン屋さんについても、お客さんに好きな機器構成を全部決めてもらって、意思表示もしてもらう、あとは届けるだけだというふうにするわけです。したがって、製品体系も、そういう簡単な手法に合うようなつくり方をしていくわけです。当然これはこれでブームを持ちました。
次の時代に出てきたのが逆で、借り手主体のモデルがやはり浮上してきた。これは、生い立ちとスタンスが違うので、いい悪いの話ではありませんで、時系列にこういうふうに出てきたという話です。バイヤ中心ですから、当然買うほうにとっては、比較検討したいわけで、したがって比較検討するには、自分にとって納得できるような競合商品の比較ができるようなカタログがどこかにあるといったことが条件になるわけです。そういうことを提供するということになります。
そして、一番右は、アグリゲター・モデルと言われていますが、文字どおり、集めてくるというモデルです。買う側でも片方の情報しか持たない、売る側も片方の情報しか持たないのであれば、両サイドの情報を真ん中に位置付けて集めてくるというお話になります。この辺は、きょう現在の総合商社が物理的にこの機能を持っているわけです。ですから、売る側、買う側の情報を持っていますから、コンテナもむだに走らないでもって、満載で行く可能性があるし、いろいろなことができるわけです。
余談ですが、米国については、特に総合商社とか、スーパーゼネコンという業態は存在しないんです。総合商社は存在しませんから、ネットビジネスをするときに、そういうとりまとめ機能を一生懸命開発しているわけです。企業においても、総務部というのは特にはないんです。ですから、売ったり、買ったり、管理するといった機能を、非常に重宝がって使うためには、ネット上に、自分にとって都合のいい総務機能がつくようなものが非常に多いです。そこを吟味しないで、米国ではやっているからと日本に持ってきても、それ自身はあまりインパクトはないんですね。こんなようなことでもって、それぞれがすみ分けて、今おおよそ3つぐらいがアメリカにいるわけです。ここではこの程度にしておきます。
(次号へつづく)