日本フォーム工連・技術委員会セミナー記録


「多様な印刷データ形式への取り組みと
これからのビジネス展開」
 前編

―マルチメディア社会での生き残り作戦―

講師 尾崎 公治氏 株式会社ビィーガ取締役主任研究員

平成14年11月18日 労働スクエア東京




 ただいまご紹介いただきました尾崎でございます。(社)日本印刷技術協会(JAGAT)に10年くらいおりましたが、入社したのが86年で、ちょうどアメリカでDTPが始まった年にあたります。88年くらいからかなりDTPという技術が日本に紹介されてきました。そのあたりで印刷技術協会で今でもやっております「PAGE88」というイベントを、創立25周年記念かなんかで1回やろう、と。1回やって儲からなかったら、それっきりになるつもりだったのですが、結構儲かってしまったものですから、ずっと続いて2003年もやるという形になっております。
 その後、Macintoshを中心にしてDTPはかなり立ち上がり出しました。その途中ではいろいろつまらないこともやりました。組版コマンド研究調査業務というのがありまして、各社、写研とかモリサワとか、いろいろな組版コマンドを統一しようとしました。できもしないことですが、ただ、いろいろな組版コマンドのレベルの研究には役立ったかなと思います。強いて言えば、そういう組版コマンドというのは、最終的に使用されるDTPの機能になってくるわけですから、そういうところではかなり協会にとってはよかったのではないかと思います。

尾崎公治講師
尾崎公治講師
 その後ずっと、いわゆるMacintosh DTP、場合によるとトータルスキャナー、サイテックスあたりのウイスパーとMacintoshを結んだり、モリサワの組版機とMacintoshを結んで、モリサワの版下データをMacintoshで電子データで処理して、最終的にはトータルスキャナーでフィルム出力して印刷しましょう、というようなこともやっておりました。その後、協会を辞めまして、現状ではビィーガ(Be−GA)という会社をやっています。
 関連著書は、『実践DTP ハンドブック』とか、昔のMacintoshの本とか、『Windows DTPマニュアル』というのは、先走り過ぎまして売れなかった本です。印刷関係の本では、印刷営業向けのデジタルブックを出しています。あとは、『初めての図解Windows 2000』とか、本当にパソコンものをやっているものです。そういうふうにご了解ください。
 ちなみに、ビィーガのホームページは「http://www.be-ga.co.jp」となっています。うちは、どちらかというと、印刷関連ということではなく、業界とすれば製薬と製造向けのコンサルティングというビジネスをやっています。
 今回の後ろのほうでは皆さんの仕事と結びついてくると思うのですが、要するに普通に企業人をやっていて、ワードとかなんとかやっているわけです。例えばPDFをつくったりする。案外PDFというのは重要な技術で、ご承知のように、マイクロソフトのワードかなんかで文章をつくって、それをどこか別の支社に送る。本社でプリントしたものと支社でプリントしたものはイコールにならない。当然です。なぜかといえば、ワードというのは、プリント環境を全部見にいっています。だから、本社でAというプリンターを使っていて、支社でBというプリンターを使っていれば、もうその段階でフォントとかいろいろなものが違いますから、そのなかでもうレイアウトがずれてしまうわけです。そうすると、本来10ページのものは11ページになるかもしれないし、9ページになっているかもしれない。そういう状況があります。
 そのような形で、いわゆるMSワードを使った場合に、ある程度レイアウトを固定してデータを交換するということができません。ですので、そのへんをクリアするために、例えばAcrobatというものを使ってPDFという形で交換するということがかなり多く行われ出しています。
 皆さんのほうにお配りしてあるレジュメの表紙はPDF化したものです。たぶんゴミはゴミのまま出ていますし、余分なところで改行ということは基本的にされていないはずです。
 ということになりますと、ワードを使ってPDFというものをきちんと生成する技術が本来必要ですが、一般の製造向けとか、普通に仕事をやっている方は、そういうノウハウはもちろん持ちません。そういうものについてノウハウを持っているところは、はっきり言えば印刷業界の方だけです。ですから、そういうものを印刷業界はノウハウとしてはお客さまに売っていない。ちょっとした助言はするかもしれません。しかし、助言するだけです。皆さん方は製造側なので、お客さまの何らかの問題解決したとしても、それでお金がいただけるということは絶対ないわけです。それを私としてはコンサルティングということで仕事にしたかったのです。

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 でも、製造という会社のなかに入っていると、そういうコンサルティング・ビジネスというのは成り立ちません。ですので、うちの会社はコンサルティングしかしませんという会社にしたのです。コンサルティング会社がしかるべき仕事をしてお金をいただくのは当然の話です。そういうことでいえば、私が今やっていることは、正直いって、皆さま方でもすぐできることではないかと思います。要するに、どういうフォント環境を使って、ワードを使っていったらいいか、そこからPDFをどういうふうにつくっていったら、どこにいっても文字化けがしないPDFがつくれるかという技術は印刷業にはあるわけです。そういう種類のものを私どもは一般企業さんに向けてコンサルティング・サービスという形で提供しております。
 それだけでうちの社員はあまり人数はいませんが、十分食っていけます。1年かかって少なくとも増資を2倍以上していますし、一時期は新宿区の天神町にいたのですが、今は渋谷とか恵比寿とかという割合高いところに転換できました。そういうふうなものでも、ビジネスというのはずいぶんチャンスがあるのです。そういうところをちょっと頭のほうで覚えておいてください。
 今、私どもがやっている仕事というのは、外目から見ると比較的印刷とは関係ないことかもしれませんが、使っている技術とか応用していることは基本的には印刷業界で得られた知識にすぎません。それをお客さまにどういう形で提示していくか、そういうようなことだけだと思っていただいていいと思います。
 そんなところを頭でお話しした上で次のテーマに入っていきたいと思います。

多彩なデータ形式とアプリケーション
 Macintosh ベースのDTP システム

 「多彩なデータ形式の取り組みと、これからのビジネス展開――マルチメディア社会での生き残り作戦――」ということですが、いくらもできます。現にうちはやっています。そういうなかでどういう方向性をとっていけばいいのかというところをお話ししていきたいと思っています。
 まずはおさらいから始まって、これから転用していきたいと思っています。「多彩なデータ形式とアプリケーション」です。
 例えば今のDTPシステムを考えていただくと、いまだにMacintoshは多いはずです。その上で使用されるアプリケーション、データ形式は多彩です。最近はWindowsベースでのDTP も稼働するようになり、お客さまが作成するアプリケーション・データ形式も絡み、作成フローを複雑にしています。
 といいましても、従来、我々がDTPの教育を印刷業の方にしていた場合には、昔はWindows は関係なかったと思っていただいていい。Windowsは関係あるかもしれないが、いいところ、ワープロなどでつくった文字データだけを持ってくる。その意味であれば大した違いがない。Macintoshに放り込めば文字データとして読めるので、その意味からいえば大した問題はない。だから、文字データは、エディターとかワープロ。ワープロだったら何でもいい。そのかわりテキストという形式にして利用しますよというふうなことになっているわけです。
 テキストというデータ自体は、内容はJISで定義されているコードだけですから、日本で売られているコンピューターですから、ほとんどのものがテキストデータとして文字データを使うことができるようになっています。したがって、それらをレイアウトソフトに入れて組んでいくということが簡単だったわけです。
 図版に関しては、Adobe Illustratorが一般的です。画像に関してはAdobe Photoshopというものが一般的です。それらからでき上がるものは、IllustratorからはEPSFというデータ形式ですし、PhotoshopからはEPSFもしくはTIFFというデータ形式に書き出せば、QuarkXPress をはじめとしたレイアウトソフトで組んでくれます。そういうのが基本的なMacintosh DTP の流れでした。
 このことからすると、もう定番が決まっている。以前私が関係した日本グラフィックサービス工業会(JaGra)の記事でも、「3大ソフトを覚えましょう。Adobe IllustratorとAdobe PhotoshopとQuarkXPressを覚えましょう。これだけできればDTPはできますよといって何ら問題ありません」という話をしていました。これは現実です。何年も前、当時の労働省のほうが、今でもやっていると思いますが、製版職種のDTP検定という国家試験を起こしたい、と。以前は版下検定というのがあったのですが、さすがにそれはもう古いので、版下検定のかわりにDTP検定とCEPSの検定を一緒にやったのです。
 もちろん我々は試験問題をつくったり、受講者のレベルを確認するためにテストなどをするのですが、たしか初回実施したときにびっくりしたのは、それぞれのソフトの使用率です。いくつかのソフトが使えるようにはできていたのです。だからIllustratorと一緒にフリーハンドも置いてあったりいろいろしたんですが、日本全国じゅうでAdobe Illustrator以外のソフトを使った方が一人もいらっしゃらなかった。つまり使用率は完全に100%Photoshopも同様です。Photoshop以外のソフトを使った方というのは日本全国で一人もいらっしゃいませんでした。したがって、IllustratorとPhotoshopの使用率に関しては100%。少なくともMacintoshのDTP においては100%です。QuarkXPress に関しては97%くらいです。今はもっと下がっていると思います。
 そういうことからいえば、ことMacintosh DTPというある程度固まってしまった世界のなかでは、Illustrator、Photoshop、QuarkXPress が使えれば、それで仕事が済んでしまうというような言い方になっているはずです。これは、あくまでもDTPのおさらい的な話だと考えていただいてよろしいでしょう。
 こういう感じのものが少しずつまた違ってきております。図1の上のほうを加えなければいけないです。最近は特にそうです。私も、従来はMacintoshベースの話が多かったのですが、私の仕事はすでに完全にWindowsになってしまいました。もちろん自宅には古いマック2もありますし、いろいろありますが、仕事ベースではMacintoshとは違った世界です。何かといえばWindowsです。もちろんWindowsといってもいろいろあります。Windows 95、98、98SE、2000ME、XPとか、それぞれ非常に細かい違いがあります。それはともかくとして、一括りにすれば、Windowsという世界です。一般の方はこういうものを多く使われます。

図1 MacintoshベースのDTPシステム
MacintoshベースのDTPシステム

 現実にいろいろなお客さまの話を聞いてみると、正直いって、一般企業のなかにMacintosh というものが入っていくというのは基本的には不可能に近い。ネットワーク環境だけ取ったとしても、WindowsベースにつながっているネットワークにMacintoshをつなげても、つながりもしない。もちろん電気的にはつながります。でも、見えないだけで、結局、仕事にはあまりならない。
 それから社内で、多く使われるワープロというのは、MSワードです。MSワードでつくられた場合、Macintoshを使う場合にはマックワードを買わなければいけない。それから若干バージョンが違うものだから、レイアウトがちょっと変わるとか、それからフォントそのものが違うから、フォントを置き換えなければならない。そういうような形になると、いろいろな意味で互換性が悪い。そういうことになるので、やはり社内的にはWindowsベースでいろいろ作業をやるということになります。
 そういうことになりますと、やはりお客さまはWindowsマシンを使ってOffice2000もしくはXPというデータを使う。例えばIllustratorの場合でも、Adobe IllustratorのWindows 版を使わなければいけないし、Photoshopにしても、Adobe PhotoshopのWindows版を使わなければいけない。
 そういうことになりますと、Windows版からMacintosh版に受け渡す必要がどうしても出てくるわけです。そうすると、どうしてもそのデータのネイティブデータがなければいけない。例えばワードでつくられたものをテキストデータで持ってきてもう一度ということもできますが、特にWindowsのお客さまは面倒臭がってやってくれない。ワードでつくったら、ワードのファイルを渡し、「はい、これでつくってくれ」というようなものです。
そういうことになると、そこから出てくるのはドキュメント・データ。ワードの標準形式がdoc、エクセルの標準形式がxls。もちろんパワーポイント(ppt)というのもあるのですが、こういう種類のデータを処理しなければいけない。その場合には、Macintosh側には Office-mac、オフィスのMacintosh版を入れざるをえない。結構な値段がします。そういうような形をして、そこからいわゆるテキストデータを抽出してという形を持っていかざるをえない。そういうような一手間入っています。
 Illustratorの場合ですと、標準形式はAI。何とかドットAI、そしてPhotoshopのPSDデータ。これらのデータを、呼び込んでしまえば比較的簡単に変換処理はできるのですが、Windows からMacintoshに持ってくれば、当然のように、色見がちょっと違うだの、フォントが違うだのという問題は必ず起こってくる。そういうものは手作業で吸収して、いわゆる従来のMacintosh DTPの形式に入れていくというふうな形になっていると思います。現状、これはこれで何とかなっている形だと思っていただければよろしいでしょう。
 Layout Softwareに関しても若干の変更があります。例えばQuarkXPressというソフトウエアは、3.1、3.3という時代が圧倒的でした。9割以上のシェアを持っていて、他のソフトを駆逐してしまった時代です。もちろん今はもうあまり人気がない。うちも昔、3.3を使っていまして、今も使っていますが、正直いって、うちでDTP制作の仕事をやることもあるのですが、いまだに3.3で全然困らない。印刷屋さんも3.3でいいというし、4.xにしようという話はあまり聞かないです。3.3は、少なくとも私が技術協会を辞める前からずっと使っていたような気がします。
 その理由は、QuarkXPressがちょっと値段高く取りすぎてしまったというわけです。バージョンアップ料もずいぶん高いことやったものですから、若干人離れ起こして、一時的にいったのがEDCOLORというソフトです。住友金属さんのEDIANをベースにしてMacintosh版をつくったEDCOLORです。広報誌の類のものはEDCOLORを使っていたと思います。
 しばらく前にAdobeさんのInDesignというのが出ました。1.0が出ましたが、あまり評判がよくなかったです。私も、「InDesignの1.0はいかがですか」と話をされることがあったのですが、あまりお勧めはできませんでした。なぜかといえば、英語版と日本語版の互換性がない。必ずしも日本でつくったものを英語版で読ませる必要があるかどうかというのはありますが、ちょっとそういう問題がありました。それから1.0 は、その昔のQuarkXPressがやったように、トラッピング機能を外してきたのです。要するに、トラップができない。そういう話になりますと、結局、トラップをかけるところがどこにもない。
Adobeさんの言い方というのは、RIPのなかで処理できないこともない。もちろんそういうことができるRIPもありますが、すべてのRIPがそういう処理ができるとはかぎらないものですから、ちょっと1.0というのはあまりお勧めではなかったわけです。
 この間、2.0が出てきて、基本的にはMacintosh版、Windows版、両方そろった形で稼働するようになっています。2.0はかなりお勧めかなという形になっていますし、値段的にも10万円切っているくらいですから、そういうことを考えますと、現状では、QuarkXPressとかEDCOLOR でいったものから比較的InDesignのほうに移りつつあるのかなという感じになっています。
 それと、従来は、どういうものでつくられようと、結果的にはPostScriptのジョブデータになって、それがRIPに流れて、ImageSetterを出している場合もあるでしょうし、CTPに出している場合もあるでしょうし、あるいはOn Demand Printerといわれるカラープリンターに出していくという流れももちろん現状でも確立されていると思います。
 それ以外に、PDFというラインがかなり確実になってきました。Illustrator、PhotoshopからPDFをつくる。あるいはQuarkXPress、InDesignのほうからPDF をつくる。あるいは直接PDFをつることもできるソフトもあるし、Distillerというプログラムを介してPDFをつくっていく。いくつかの流れがあります。要するにMacintosh DTPを使って、印刷物制作プラスこういうPDFというデータにも対応できるような形に今はなっています。
 図1では、あくまでもこれはMacintosh DTP に若干Windowsが入りましたねというようなおさらいにすぎません。そんなふうにご理解いただければいいと思います。


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