■第7回:「赤の効力」
戸津川 晋(東洋インキ製造株式会社・広報室)
色から連想されるものをまとめた書物はたくさん出ていますが、抽象的なものであれ具体的なものであれ、赤い色から連想する項目数は他の色に比べると圧倒的に多く、紫などに比べると3倍ほどの項目になります。
リンゴ、バラ、太陽、ポスト、血、消防車、いちご等々。また情熱、感動、禁止、危険など感情や感覚に訴える場面でも赤い色が連想されるようで、実に多岐にわたっています。
他の色でも同様のことが言えますが、特に赤の場合はそれぞれに赤の位置づけの範囲が広く、異なっており、場面や時間また立場などでも微妙に違いがあるようです。
大方の人が赤と感じている範囲を可視光域で見ますと、そのバラツキの広いことが良く分かります。590ナノメートル付近の橙の域から、日本伝統色の紅色780ナノメートルまでが赤の範囲と感じているようです。
少数になりますが、赤紫の一部も赤色の範囲とする人も存在し、これらのことからも赤については、他の色とは違う感覚をもっているのかも知れません。
また、幼児に色を教える時、最初の色に赤を用いる人が多いこととも、関係しているのかも知れません。
範囲の広い色はまた、私達が「生きる」と言う生命の部分とも深く関わりを持っている色で、赤は「原始生命の力の色」といわれていることはご承知のとおりです。
人間はまさに赤の色でできていると言っても過言ではなく、太陽に掌を翳かして見ると実に鮮やかで綺麗な赤でできていることに気づきます。生命の源「血液の赤」です。
また、原始的生命の力の色という括りの関連から、生理学に発展させますと、何とも不思議な、赤い色と病気の治癒の関係の話にもつながります。
外科的治療の一つに、赤色光の照射による処置を受けることがありますが、赤色光照射の治療は本当に効果があるのでしょうか。
答えはyesです。これは、赤色光の照射により、ビタミンBを補給することができ、例えば足の裏に赤色光を照射すると、血液の循環が良くなり、貧血症の治療に用いられることがあり、心臓の後ろの部分に照射することで赤血球を増加させるなどの効果のあることが証明されているようです。
同じく、臍に照射すると腸の働きを活発化させることも知られており、赤色光は医療の面でも活躍していることがわかります。
しかし、全てが良いことばかりではなく、例えば患部が赤く炎症を起こしている場合などでは赤い色は有害となり、特に発熱時や興奮時には良くなく、不調をきたすということが真島英信の「生理学」に述べられています。
赤色光とは違いますが、健康面から似た話に赤いスカーフを首に巻くと感冒に効果があると言われており、感冒にかかることはあまり望みませんが、是非実際に実験してみたいと思います。
それでは、心理の面からはどうなのでしょうか。
一杯飲み屋さんを赤ちょうちんと称する方を多く見受けますが、赤ちょうちんはいつ生まれたのでしょうか。またその目的は何だったのでしょう。
大阪で紅ちょうちんと呼ばれている赤ちょうちんは、意外にもそれ程歴史は古くなく、江戸時代の中頃から使われていたと言う記述が、早稲田大学文学部の暉峻康隆教授の文献に記されております。
また、作られた目的もそれ程深い理由はなく、単にお祝いなどの場所を目立たせるために作られ、堤灯本来の照明用ではなかったようです。それがー杯飲み屋さん等に下げられるようになり、いつしか定着したようです。
小料理屋さんや横町のやきとり屋さんの赤提灯の誘惑には弱い、とおっしゃる方が多いその理由も、飲み屋さんの目印としてのプラスチック看板やネオンとは一味違う、人間が本来持っている心理的な部分と、赤ちょうちんの波長が旨く噛み合っているからかもしれません。
赤ちょうちんがもっている「赤」の独特の雰囲気はまた、手作りであることに加え、ニワカに溶かれた朱の色に、薄れかけてきている人の心の暖かさの復活の心理が働いているようにも思え、これが「赤い誘惑」に弱いことと結びついているのでしょうか。
最近、新しい照明装置や器具が次々と生まれてくるなかで、赤ちょうちんが需要を伸ばしているのも、ボンヤリとした温かさをなくしたくないという願いが、形として現れているからかも知れません。

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