■第8回:「黄と宗教と音色」
戸津川 晋(東洋インキ製造株式会社・広報室)
黄色については実に様々な形容があり、自然界にも人工の場面でも、黄色は私たちの生活の身近なところに存在し、親しまれている色の一つと言えましょう。
「黄色」はまた他の色よりも宗教や哲学などとの関わりも多くみられ、古代宗教儀式にも多くの場面で用いられていたことが明らかにされています。
今、私たちが持つ「黄」に対するイメージも紀元前4千年頃の中国哲学、陰陽五行とインド宗教とが合わさったイメージ背景によるものかもしれません。
陰陽五行とは、この世は陰と陽の相反する性質の二つの「黄」から成り立っており、この森羅万象は木・火・土・金・水の五つから成り立っているという考えで、方位や季節また味覚や心情そして色についても陰陽五行に当てはまります。
例えば、方位と色の関わりを取り上げると「東を青」「西は白」「南は朱」「北は玄」そして「中央を黄」としています。
中央は「金」をも意味し、黄金(こがね)の文字の組み合わせも、こうして考えると黄と金の取り合わせの意味合いにおいても興味深いものがあります。
現在においても、相撲の土俵に下がっている房色にこの考えが生きており、「青房下寄り切り」などの相撲解説と同様、相撲用語に「土俵に金が埋まっている」などの言葉は実にそのものを言い当てていると思われます。
また、インド仏教の考えからも、黄色は神聖なる色とし、密教のマンダラでも大日如来のシンボルカラーとして鮮やかに、やはり中心に存在しており、インドにおける僧侶の着衣が「黄衣」であることも納得のいくところです。
また、面白いことにインド仏教が「黄」を聖なる色としているのに対し、中国の道教は「紫色」を最高の価値あるものと位置づけており、これも黄色の補色が紫であることと考えあわせると、意義の深さを感じます。
ところで、「笛の音色」などと普段何気なく「音色」ということを口にしますが、音に色があるのでしょうか?女性の声や相撲の行司の声を「黄色の声」と表現するときがありますが、「黄色い声」とはどんな色なのでしょうか?
クラシック音楽を趣味とされている方の中には、音楽と同時に美しい色彩や情景を見ることのできる人がいると耳にすることがありますが、音から色を感じとることは本当にできるのでしょうか?
少し難しい言い方をしますと、私たちは「共感覚」という能力を持っていて、感覚の一つの受容系で得た刺激反応と、その感覚以外の系統から得た刺激も同時に反応させることを指すもので、音の刺激から系統の違う色覚も得ることも可能ということです。
人によって、得られる度合いに強弱があるものの、音の刺激によって色覚を得ることを「色聴」と言い、心理学者の表現では「色聴所有者」と言われているようです。
それでは、ド・レ・ミ・ファの音階を共感覚ではどうなって、「黄色い声」はドレミのどの音に該当するのでしょう。
1931年 Kari Zietz の説によると、ドは赤を、レは菫、ミは黄金色、ファはピンク、ソは空色、ラは黄色、シは銅色、そして上のドも赤となっており、この内容は時間や年月を経ても同じ傾向の結果をしめし、さらに、それぞれの音にフラットが付くと暖色を、シャープが付くと寒色を連想させるという傾向が見られるということです。
また、甲高い女性の声や子供の声を「黄色」と表現しましたが、それは高低に少しの差があるものの「ラ」の音であることが判明しました。
陰陽五行やインド仏教では「黄」「黄金」が仲間の色として扱われ、同じような意味合いを持ちますが、音の世界では明確に、黄と黄金に区分けされています。
そういえばおぼろげな記憶ですが、幼児教育用の音楽器材「鉄琴」が、そのような塗色で色分けされていたような気がします。音と色、音と音楽、音楽と色彩はいつの時代であっても深い関わりがあり、ドイツのオペラ作曲家ワーグナーは色彩と音楽にふれ、フランスの作曲家ドビュッシーは印象派主義の画家や詩人たちの影響を受け、新しい音階や和音を工夫して音楽の世界で印象派主義を推進したことが、東洋大学教授 野村順一著「色の秘密」に記されています。
色と音楽で深い繋がりのある映画の世界において、特に印象深いのは、ご覧になった方もいるでしょうが、ディズニー映画の作品「ファンタジア」に用いられたベートーベンの交響曲第6番へ長調「田園」です。
また同じディズニー映画の「ド・レ・ミの歌」に用いられた多くのシンフォニーは、色彩と音楽を融合させた傑作と言われており、世界の人々に感動を与えました。
色と音。音に色はあるの?についての疑問は、どうやら「音色」の言葉どおり、共感覚として私たちにも備わっていることが分かりました。
明日からの音との関わりに、彩り豊かな情景を思い浮かべ、ひと味違った音の世界を楽しみたいと思います。

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