■第10回:「食べ頃は朱くなる」
戸津川 晋(東洋インキ製造株式会社・広報室)
初冬を迎えると八百屋さんと果物屋さんの店頭は、柿や蜜柑が売場面積を拡げ、いつもより店内を明るく彩ります。
柿色、蜜柑色と直接物の名前を色名にするこの色は、若い人は“オレンジ”、すこし年を召した方は“朱色”、その中間に位置する年令の人は“橙”と、そして絵画を行う人は“バーミリオン”と色々な表現をするようです。
橙(オレンジ)と表現するこの色は鮮明になると赤に、濁ってくると茶色にと、割と狭い波長域にあります。
赤と黄の間に位置するこの色は、JISの色名としても「黄赤」という二つの色名の合成色名が用いられています。
英語やフランス語の標準色名でも果物のオレンジがそのまま用いられており、オレンジの表皮の色という固定色名で「オレンジピール」が用いられています。
オレンジ色の性質は、他の色相の色よりも手前にとび出して見える「進出色」であると同時に、印刷物などでは実際の印刷面積より大きく感じられる「膨張色」でもあります。
この色を好む人の性格は「にぎやかで陽気で明るく、社会的」と言われますが、その中の一つの「表現をするときに人より少々オーバーになる」というのも、膨張色と関わりがあるからかもしれません。
また、オレンジ色の進退については、車社会の現在においても大きな影響が出ています。近年の車の塗色アンケートを行ったところ、白や青系統の車に人気があり、赤や橙、黄色系統の車は人気が薄いとされています。しかし、交通事故の発生状態を見ると、赤やオレンジ系統の車は青系統の車より事故遭遇率が低く、逆に青系統は他の色の車より多いというデータがあります。
これは赤やオレンジ系の車が青系統の車と同じ位置にいると、赤系統の車の方が約7メートルも近くに見えるということからです。
そういう観点から東京都内を走っているタクシーの色を見ると、黄・オレンジなど赤系統の車が多いことに気づきます。これは他の車より少し大きく見えるため、乗客が他の色の車より早く見つけられるという特点と、先ほどのより近くにいる車に乗ろうという心理とが、橙や赤色がもたらす色彩の魔術とうまく組み合わさっているからと言えましょう。
さて、柿や蜜柑など初冬の食べ物がオレンジ色であることから、少しこじつけも含めて食欲と色の関係を探ってみましょう。食欲を誘う色とはどのような色を指すのでしょうか?
一番わかりやすいのは、スーパーマーケットにお出かけになり、カレーライスの素の売場を見てみることでしょう。
ここには赤系統とオレンジ系統のパッケージが所狭しと並べられ、メーカーやカレーの種類に関わりなく赤とオレンジのパッケージが陳列されています。
食べ物には橙や赤など暖色系の色がたくさんありますが、暖色系の色は私たちの自律神経を刺激して消化作用を活発化させます。これにより「おなかが空いた」という空腹感を覚えることにつながります。
従って、食べ物のパッケージに赤や橙や黄色など空腹感につながる色を用いていることになります。またポテトチップスなどスナック菓子売場も橙色や赤系統のパッケージが圧倒的に多いことがわかります。
このように食欲を誘う色をスペクトル色で見てみますと、橙、赤橙、つづいて黄、緑、青の部分に人気が集まり、紫や黄緑は嫌われる色となっています。
そう意識して食品とパッケージを見てみますと、実に多くの商品パッケージに橙(オレンジ)が使用されていることに気づかれることでしょう。
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この図は食欲訴求の色彩を表している。 赤、橙、黄、緑に見られるピーク、さらに黄緑と紫の最低点に注目。 青は直接食品を連想させないが、食品を引き立てるには優れた色彩とみなされている。 | |||
| (快) | 赤橙と橙の領域 | … | 最も快い感覚を喚起する |
| (やや快) | 黄橙 | … | 若干低下する |
| (快) | 黄 | … | 回復 |
| (不快) | 黄緑 | … | 最低に落ち込んでいる (衣服や家具に流行性、食物には嫌悪感) |
| (快) | 緑と青 | … | 快い感覚 |
| (不快) | 紫 | … | 低下 |
| (やや快) | 短波長末端 | … | 若干回復 |
| 日本映像出版(株)「色の秘密」野村順一(94.7) | |||
最近食卓全体が“食事”という考え方が多くなり、食器の色やランチョンマットなど食事を楽しむための小物を揃える方が珍しくなくなりましたが、このランチョンマットも料理が負けるような派手すぎを避け、食欲を起こさせ、また増進させる薄いオレンジやクリーム色などを用いると、美味しい料理がさらに一段と美味しく感ずることでしょう。
合成着色料開発の技術が進み、固定観念を打破させようと、ある食物が持っている色を変化させる実験が行われました。アメリカ・セントルイス郊外で卵の黄身の部分を青くしたものや他の色のものを作ってみましたが、やはり卵の黄身は半熟色のあのオレンジ色が一番美味しそうで食欲をそそるという報告がなされています。
電子レンジで鯖などの青身の魚を「チン」するとあまり美味しく感じないように、“食”はやはり橙や赤などが美味しい色としてアピールしているのかもしれません。
熟すると赤くなる。食べ頃は朱くなる。この自然の食欲色にならって人工の食べ物の色も赤や橙系統の色が多いのかもしれませんね。

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