■第11回:「品格のある紫」
戸津川 晋(東洋インキ製造株式会社・広報室)
紫というと、東洋においても西洋においても高貴の色として尊重されてきましたが、そもそも高貴の色と言われる所以は、どういうことなのでしょうか?なぜ高貴の色は紫なのでしょう。
昔、紀元前2世紀頃人々にとっての色は、ある時は呪いに必要であったり、戦いの脅しの色であったり、またあるときは、虫や獣から逃れるためのものであったりと、いずれの場合も生命と生活に密着したものでした。
ある色は、石や土を砕いて作られ、ある色は植物の実や葉や根が用いられ、ほかにも虫の屍骸を擦り潰したり、さらには貝など海の生物から抽出するなどの方法で、色の素となるものを得ていました。
しかし、色の中でも紫色は他の色に比べ得る素材が少なく、さらに自然のなかから得るものでは、生の時の色と時間を経過した時の色の差が大きく、例えばブドウの実の搾り汁などは、酸化作用などによりきれいな紫を得ることができない、などの理由から紫色は貴重な色となりました。
紫を得るために、他にも方法は幾つかありましたが、この当時に用いられた紫は、多くが地中海沿岸に生息する巻き貝の一種が用いられました。この巻き貝が有する紫の成分を、染め物などに用い1着の染め物に必要とする貝の数は、約30万個にものぼるものでありました。
古今東西を問わず、稀有なるもの珍なるもの、美なるものを蒐集し、身の近くに備えたいのは世の常で、ローマ皇帝や教皇庁の枢機卿など、時の権力者がこの得難い紫色を布や皮に用いたことが多くの色彩に関する書籍に記されております。
これらのことからも、紫は貴重であり、やはり用いる人が高貴な人に限られていたことが、紫は高貴な色と言われる所以かもしれません。
私たちは、聖徳太子が飛鳥朝廷の改革を行い、十七条憲法を制定したことを歴史の授業で学びました。この制定の折、官吏の位を定め、それを上から紫・青・赤・黄・白・黒の6色に色分けし、官制色として定めました。
やはり、ここでも紫が位の最高位に位置することになります。
順位の色分けで、紫が高い位置にあることの例は宗教の世界でも見ることができます。例えば徳川五代将軍綱吉の母、桂昌院が信仰を厚くしていた真言宗・護国寺の僧衣などは、聖徳太子が定めた官色と同じように6色に分かれており、権僧正の僧衣は紫で、大僧正は赤の僧衣、以下浅葱・黄・緑・白と官色を定め、色の種類は違うものの、ここでも紫が最上位の色と定められています。
今、私たちが位の色分けを身近に感ずるのは、やはり日本の国技「相撲」の場面でしょう。上下関係、また規律が厳しい相撲の世界で、特に行司さんの決まりと格式は別格のようです。
しかし、この色分けの歴史は比較的新しく、江戸時代に定まったようです。厳密にいうと行司の色分けは軍配の紐の色で分けられ、烏帽子、直垂の飾り紐も軍配の紐と同じ色で統一されます。
横綱格立行司は総紫紐で、木村庄之助。大関格立行司は紫分け紐で、式守伊之助。さらに幕内格は緋白紐、十両格は青白紐、幕下と三段目は青紐。さらに、序二段・序の口・前相撲が黒紐となっています。
これらの色と衣装の色を同じにしなければならないという決まりはありませんが、カラーテレビの質の向上や、相撲界そのものの色遣いが華やかになったことなどから、紐の色に衣装の色をあわせる、いわゆる相撲界のカラーコーディネートが普及し、近年では第25代木村庄之助の総紫装束が、最盛期が昭和42年ごろであったにもかかわらず、いまだにその華麗さが語り継がれています。
もちろん現在でも、煌びやかな行司衣装は美しいものですが、階級を色によって区別されている身近な例の一つとして、相撲を見る際に少し意識して観戦すると、また違った楽しさを得ることができるかも知れませんね。
昭和23年7月20日のそれまで明治天皇誕生日を祝い明治節としていた祭日は、新憲法の制定により「文化の日」と呼称替えを行い、自由と平和を愛し文化をすすめる日となりました。
文化に功労のあった人を表彰し、讃える日ともなり、勲章の授与が行われます。文化勲章と褒章です。やはり、褒章にも色がついており、年に春と秋の2回授与される藍綬褒章、黄綬褒章、紫綬褒章、毎月行われる紺綬褒章。ここでも色によって章を区分しています。そしてここでも紫が使われています。
褒章に優劣はありませんが、紫綬褒章の授与に関して総理府賞勲局では、「学術上、芸術上の発明改良創作に関して事績の著しい者」と定めています。
ところでこの紫綬褒章ですが、フランスの文化勲章も実に美しく、鮮やかな紫色をしており、少し不思議な気もします。国を隔てても、徳があり気品を具え、勲章を戴くような高貴な人に紫は似合うようで、高貴の色と言われる所以、何とはなしに理解できそうです。
「江戸紫は品がある、京紫は格がある」と昔の囃子言葉にあったように、江戸と京を合わせるとこれはまた、紫は「品格」の色とも言え、品格を具えた人にも似合うという項目が加わり、こじつけの部分も少しありますが、尊い人、他人に影響を与える人に紫が用いられていることは事実です。これらのことからも「紫」は高貴の色と納得してしまうのです。
さて、皆様はいかがでしょう。

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