■第14回:「インキかインクか」
戸津川 晋(東洋インキ製造株式会社・広報室)
東洋インキには、コンタクトデスクという名称の部署があり、ここでは会社が扱う全事業の製品についての、質問や問い合わせなどの他に苦情やお叱りもお受けすることにしています。
この部署には、多くの職種の人と性格を異にした男性女性、お若い方からお歳を召されたであろう方から、多くは電話またFAXやお手紙、最近ではインターネットメールにて質問・問い合わせを受け、対応を図っています。
また、この部署は社外からの対応のみならず、社内の確認事の対応も図っていますが、やはり、社外からの印刷やインキに関する問い合わせが大半を占めます。
2. 職種によって違う?
ここで面白いことに気づきます。それは、社外からの印刷インキに関わる質問・問い合わせを戴く方の大部分が「インク」と発音されることです。
誤解があるといけませんから先に申し述べておきますが、「印刷インク」と言っているのが間違いであるとか、正しいと言っているのではなく、素朴に「インキ」と「インク」をどう使い分けしているのかと感じ、それらが組材などから考察すると、違いがあるのかどうかを知りたいということです。
話をコンタクトデスクの問い合わせの場面に戻しますと、「おたくのインクのことで」と「インク」という言い方は、印刷会社の方もデザイナーなど横文字職業の方も使いますが、デザイナーやレイアウターの方、特に男性よりも女性が、一日百数十件の問い合わせのなかからの感じとして多いような気がします。
現在、印刷や印刷インキ(ク) またグラフィック関連の書籍などから「インキ」と「インク」の違いの定義を記したものは、なかなか目にすることは難しいのですが、私の個人的な考えを織りまぜながら、乱暴に「キ」と「ク」の区分けをしてみたいと思います。
印刷インキの組材は、大きく分けて顔料・樹脂・溶剤・調整剤から成り立っています。これらの組材を使ったインキにはグラビアインキ、オフセットインキ、凹版インキ、孔版インキそして最近脚光を浴びている無圧印刷に用いられているエレクトロインクなどがあり、印刷に関わる全てのインキが結局これらの材料を使っています。
つまり、使用材料の違いによって「キ」と「ク」に分けることは、無理のようで、全てのタイプをインキまたはインクと言い換えても問題はないようです。
それでは、組材の一部を変更して、印刷インキとして最も重要と言われる「色」の部分である顔料を、染料に置き換えて考えてみましょう。色料を染料に変更したことで、インクとインキに分けることはできるでしょうか?
印刷インキの製造で大きなファクターを占めるものに、分散性があげられますが、染料に表面処理を施すなどの加工をしなければ、インキにしろインクにしろ、樹脂ワニスには分散せず、染料とベヒクルが易分散状態になりません。
つまり、分散性の面において、未処理の染料から単純にインキを造ることは困難であると言えます。表面処理をした染料はもちろん、インキとして捺染インキや昇華染料インキとして、プリント生地やガソリンスタンドの幟など、多くの場面で使われています。
さて、組材を変えてもインキとインクの呼称を明確に区別することはできませんでした。それでは、使い方から検討してみましょう。
インキとインク、基本に戻ってどういう使い方をされているのか、「ク」と「キ」に分けて考えてみましょう。
| インク | 万年筆のインク | 手で書く |
| インクジェット | 静電印刷 | |
| エレクトロインク | 無版印刷 | |
| インキ | オフセットインキ | 平版、水無し版、ドライオフセット、新聞印刷 |
| グラビアインキ | 凹版、スクリーン、フレキソ、パット印刷 | |
| 活版インキ | 凸版、原色版、樹脂版印刷 | |
| 孔版インキ | ガリ版印刷 |
こうやって分けてみますと、インキの形状がグラビアインキのように液体である、オフセットインキのように完全な液体ではないが外から力を加えると液体状態になる、少し難しい言い方をすると、塑性流動体のあるものも、プレスする行為があるかないかでインキとインクに分けることができるような気がします。
最初に申しましたように、キチンとした定義がありませんので、私がこじつけで「ではどうか・・・?」という感覚で、インキとインクを分けてみようという考えですから、この分類の仕方に異論があっても結構と思います。
さて、この分類ではインクの方は、万年筆のインクはさておき、エレクトロインクにしろインクジェットにしろ、版はありますが「圧」の部分がありません。反してオフセットインキにしろグラビアインキ、また活版インキなどは全て「圧」が必要です。
いわゆる「インプレッションシリンダー」または「圧をかける装置」のあるものに用いるものが「インキ」と言えるような気がするのです。そうして、「インク」は「圧」のないものということでどうでしょう。
一般的に印刷インキの概要をお話する場合、「インキは組材として樹脂と石油系溶剤、顔料、添加剤でなりたち・・・・。」という説明が多いのですが、印刷インキについての導入部分でもありますので、チョット違った切り口でスタートさせてみました。
インキとインク、普段何気なく使っている言葉です。英語のスペルはどちらもINK。どちらの言い方でも間違いではありませんし、充分意味も通じます。お好きなほうを今までどおりどうぞお使い下さい。

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