■第15回:「食とインキ」
戸津川 晋(東洋インキ製造株式会社・広報室)
印刷インキを分かり易く理解するためには、一般的に印刷方式や印刷の乾燥方式、また被印刷体・インキの成分などで分類し、一般的には大きく6つに分類されています。
しかしこの分類は、印刷やインキ製造に関わる、いわゆる「その道で仕事をしている人」の分類法とも言えますので、印刷などに直接関係ない人には専門過ぎて、あまり理解できない面もあります。
印刷インキは、種類が非常に多く、種類によって全く異なった材料を用いますので、専門的な技術の話をする前に、まず私たちはどのようなインキと接しているのかを見てみましょう。
ここでは、私たちが普段の生活のなかで、いかに印刷インキまたは印刷物に接しているかを改めて認識していただくために、衣・食・住・文化・情報という5つの切り口からお話したいと思います。
毎日の生活のなかで欠かすことのできない「食」。この分野にも多くの印刷物があり、相応しい印刷インキがあります。
食と印刷インキというと、最初に思いつくものに食品パッケージ用のインキがあり、内容物を考慮し、また印刷効果や効率を勘案し、食品パッケージだけでも多くのインキの種類があります。
チョコレートのパッケージを例にとると、まずチョコレートの美味しい匂いを損なわないような「低臭タイプ」であることがあげられます。チョコレートという華美で嗜好性の強い食べ物であるため、箔押しなどの加工耐性も保持する必要があります。
チョコレートのパッケージ印刷は、大部分がグラビア印刷とオフセット印刷で行われていますが、チョコレートメーカーに違いはあるものの、両インキとも前述の適性が要求されることになります。
インキのそれぞれのタイプについての詳細は、別の項にて改めてお話しますが、グラビアインキの最近の傾向としては、環境面から、徐々に溶剤タイプから水性タイプ、さらにはノントルエンタイプに関心が高まってきていますし、オフセットインキに関してもグラビアインキ同様、使用溶剤に炭化物を含まない、アロマフリータイプのインキや大豆油ワニスを用いた、環境に優しいインキに高い関心が寄せられ、チョコレートパッケージなどの食品関係の包装材に使用されはじめました。
また、チョコレートをサックインする前、印刷されたパッケージ自体にわずかに紙やインキの匂いをときに感ずることもありますが、これらは内容物がサックインすると感じなくなるものです。
しかし、チョコレートメーカーによっては、これら紙自体が保有している極々わずかな匂いを消去し、製品価値を向上させるため、チョコレートの匂いのする「香料インキワニス」を印刷物にコーティングするなど高い気づかいを施しているパッケージもあります。
個別のパッケージのインキは、前述したとおりオフセットインキや、グラビアインキが多く使われていますが、製品となって20個、30個とまとめて入れるダンボール箱のインキには、フレキソインキが用いられます。
フレキソインキは、液状の水性または溶剤タイプの液状インキを用い、版材もゴム凸版や樹脂凸版を用いて直接クラフト紙などに印刷します。
こうして見ると、私たちが普段何気なく食しているチョコレートだけでも、何種類かのタイプの異なるインキに接していることがわかります。
チョコレートの部分だけで、ずいぶん誌面を使ってしまいましたが、もっと食に関わりのあるインキをご紹介致しましょう。
それは、「可食インキ」です。このインキは、漢字からお分かりのように、直接口にして食べられるインキのことです。
もちろん安全衛生的に問題のないインキで、現在私たちの一番身近にあるものとしては、これもやはりチョコレートの表面に、人気キャラクターを印刷したものが市販されており、白インキや黒インキで描かれています。
また、変わったところではお茶うけ用の煎餅に、日本の季節の草木を「可食インキ」で印刷したものが、デパートの菓子売り場を賑わしています。
この印刷煎餅は、食べるに惜しいほど綺麗な色を呈しており、印刷技術と可食インキがうまく調和した例の一つでしょう。
デパートやスーパーマーケット、またコンビニエンスストアーには、本当に豊富な食品が並べられ、私たちの食生活を満たし、購買意欲をかき立て、その種類の多さには驚くばかりです。
日本人の主食である米を入れる袋にはクラフト袋があり、ビニール袋があり、それぞれフレキソインキやグラビアインキが用いられています。
また、パンの包装はグラビアインキが特性を活かし、広く用いられていますし、飲料用ペットボトルの印刷インキには、これもグラビアインキが使用されています。
野菜の輸送用のコンテナー、鮮魚の搬送箱にはダンボールと発泡スチロールまたはプラスチックが多く用いられていますが、これらの印刷にはグラビアインキが主として使われているのです。
食の文化を陰で支えている印刷物と印刷インキ、今後さらに新たに出現するであろう新素材に相応しい印刷インキ。ここでは食の分野についてのみお話しましたが、印刷インキが私たちの生活の全ての分野で、活躍している姿を、ときに意識して印刷インキの存在を確かめてみては如何でしょう。

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