■第16回:「衣とインキ」
戸津川 晋(東洋インキ製造株式会社・広報室)
印刷インキの話は、一般的に、印刷インキとは……的に、素・組材の種類、スペック、製造方法や検査などでまとめられており、この種の技術書は多くの場面で目にしますので、このシリーズでは、印刷インキが私たちの身近なところで広く用いられている実状を、生活の基本である「衣・食・住・文化・情報」の切り口から活用の状況とインキの種類や特長を織りまぜながら、お話していきたいと思います。
前回では、「食」を中心に印刷インキとの関わりをお話しました。今回は「衣や装」を中心にお話したいと思います。
夏の浜辺や街中での若者のファッションの主流は、彩り鮮やかなTシャツ姿です。
このTシャツに用いられている印刷インキ、一見皆同じように見えますが、実はTシャツの素材にあわせ、大きく2種類のインキが用いられています。
一般的に繊維に印刷した場合、水洗や蒸熱などの後加工が必要となりますが、ここでは後工程を必要としない繊維用インキについてお話します。
繊維用インキには、2種類に大別して染料を用いた染料インキと顔料を用いた顔料インキがあります。
染料インキの場合は、表面が平滑な紙に印刷し、布地と印刷した紙を重ねてアイロン等で180〜200度の熱をかけ、分散染料を昇華させて、布地に絵柄をつくります。
この種のインキの名前を「昇華転写捺染染料インキ」といい、綿100パーセントのものよりポリエステルが少し混ざっているようなTシャツで、印刷数量が少量のときに用いられます。
最近、子供の名前を英文字でプリントしたり、キャラクターを入れたオリジナルTシャツを見かけますが、これらの大部分に「昇華転写捺染染料インキ」が用いられているのです。
また、大量に市販されているTシャツの印刷インキは、大半が顔料インキを用いており、少し難しいかもしれませんが、「水中油形エマルジョンインキ」で印刷されています。
エマルジョンという言葉に戸惑う方もいらっしゃるかもしれませんが、最近の化粧品に良く使われている言葉で、平たくいうと乳化させた……と理解されると分かりやすいかもしれません。
また、Tシャツと似た素材にトレーナーがあります。基本的にはTシャツと同様のインキが用いられ、これらの印刷方法はシルクスクリーン印刷が大部分を占め、数量や絵柄また素材の違いにより、グラビア印刷やゴム凸版印刷、さらにはオフセットで印刷することもあります。
また、単に文字や絵柄を印刷するだけではなく、より特殊効果を出すために発泡処理を施す場合があります。このような特殊な効果を出すためには「繊維用プラスチゾル発泡インキ」が使用されます。
Tシャツに関わる話に文字数を費やしていますが、衣服に用いられるインキには紙やフィルムへの印刷とは異なった特性が求められます。例えば、乾燥性や転移性、また着肉性などの一般特性に加えて、洗濯堅牢度や摩擦性、生地が持っている風合い、さらには柔軟性や弾力性など、衣服であるがための特性が要求されます。
クリーニングから戻って来たお気に入りのプリントのブラウスの色が変色する等の問題は、あまり適確な印刷インキを用いなかった例の一つと言えましょう。
衣類、衣服など「衣」の世界は、従来の女性独占の場から価値観の多様化により、男性自身が価値観や趣味を活かし、場所や季節を考慮しながら衣服の調整を図る時代を迎え、デパートでプリント柄のシャツを買い求める姿も珍しい光景ではなくなりました。
さて、衣服と深い繋がりをもつものに「装」があります。
衣服をより際だたせて表現するための装飾品が数多くありますが、最近は革製品をT・P・Oに合わせて用いることがトレンドのようで、以前のように鉱物を加工した、いわゆる「光もの」といわれる、服装にかかわる装飾品の人気は少し弱まっているようです。
皮と備前焼きを組み合わせたネックレスや、皮にオリジナルキャラクターを印刷したブローチ。花弁形に加工し彩色した皮の指輪など、落ち着きやさり気なさを強調した「皮加工装飾品」に人気があるようです。
従来、皮革の印刷物は需要がうすく、皮革インキとして確立することは極めて少ないものでしたが、将来的にこのようなニーズが増え続けると、何らかの対応も必要になることが予想されます。
このような嗜好の変化により、現在皮装飾品の印刷には、皮の特性を考慮し、かつ美しい印刷を行うために「シルクスクリーン・ウレタン系二液タイプインキ」が用いられているのです。
衣服と印刷インキ、少し意識して周りを見渡すと、実に多くの品々に出会います。
靴下の底のサイズの印刷、子供のパジャマに描かれた可愛いキャラクター、スリッパの幾何学模様、帽子の横のワンポイントマーク、ズック靴に描かれた漫画のヒーロー達。数え上げればきりがないほど、衣服の世界でも印刷インキが用いられています。
もちろん、食のインキと同様、大切な衣服を包むパッケージ類にも素材にあわせた印刷インキが使われているのです。

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