■第18回:「印刷インキと文化」
戸津川 晋(東洋インキ製造株式会社・広報室)
「文化とは何か」と改めて考えるとそれは広く、多く、しかも時間とも関わりを持っていることなどから、簡単に一纏めにすることは難しいことです。
なぜなら、私達の日常そのこと自体が一つの文化であり、生活が文化だからです。難しい文化哲学はさておいて、ここでは私達が身近に接する「文化」と印刷インキについてお話しましょう。そもそも印刷は、文化の出発点と言われるように、一般的に「文化」と言われている大部分に印刷は関わりを持ち、印刷の後押し役として、常に印刷インキが存在します。私達日本人が「文化」と位置づけるカテゴリーと印刷インキとの関わり、どの様なものがあるのでしょう。
今、私たちが身近に文化と歴史、特に印刷物と結び付けるものを尋ねるとしたら、それはさほど難しいことではなく、特に日本にあっては歴史文化として、育まれ守られてきたため身近で接することができます。
例えば現存する世界最古の印刷物は7世紀後半、称徳天皇が完成させた奈良法隆寺の「百万塔陀羅尼経」であることは多くの方がご存じのとおりです。
少しおさらいをさせて戴きますと、やはり世界的に印刷技術が最初に発明されたのは、中国で、なかでも印刷インキの元ともなる「墨」は、魏の時代(300年頃)松の木を燃やした煤と、獣の爪や骨を煮詰めて作った膠液を混ぜて練った「膠墨」が作られており、この技術は、6世紀の中頃推古天皇の時代に日本へ伝えられました。
中国での墨の活用は、筆を用い水に溶く手書き用が主でしたが、木を彫った活字がやはり中国で発明され、木版の印刷技術が行われるようになり、隋の時代・唐の時代には多数の印刷物が作られるようになりました。
6世紀の中頃、日本への膠墨の伝来と時期を同じくして印刷技術も伝わり、770年に完成されたとする「百万塔陀羅尼経」は何と100万部も印刷されました。
現存する世界最古の印刷物というのは、中国で作られたとされる印刷物で、度重なる内戦で焼失したことにより、法隆寺に残されている「陀羅尼経」が、世界で最も古いとされている理由です。
そして、この印刷物にも当然のことながら印刷インキが用いられており、ここに用いられたインキは膠墨を水で薄めた、「水溶膠墨インキ」ともいうべきものでした。
印刷の最初は、42行聖書を印刷したドイツのグーテンベルグと思っている方も多いのですが、42行聖書が印刷されたのは、「百万塔陀羅尼経」が印刷されてから700年経った1453年のことでした。
さて、前述した「百万塔陀羅尼経」ですが、奈良法隆寺にて実物をご覧になれると同時に東京の上野国立博物館にてもご覧になることが出来ます。
時間の許す折りに「世界最古」に触れてみてはいかがでしょう。
「文化」のなかで趣味に関わるものも、また大きな位置を占めますが、印刷インキとはどのようなものがあるのでしょう。
一口に趣味といっても、それは種類が多く幅の広いものです。印刷インキと文化の結びつきでは、絵画が最も近く感じますが、今回は最近女性を含め同好人口を益々増やしているといわれています賭け事、いわゆる公営ギャンブルについての文化・印刷インキに的を絞り探って見ましょう。
ギャンブルのなかで、最も参加人口の多いのはやはりパチンコで、最近はパチンコといわずレストランと間違いそうな〇〇パーラーと名付けられている店も多く見られます。
さて、このパチンコの機械ですが、一昔前の単に幾何学模様や花の絵が描かれたものは今では見ることは出来ません。
「大工の源さん」「モンスターハウス」などユニークでユーモラスなネーミングとキャラクターが台の表面を彩り、コンピュータ仕掛けのイロものとマッチし、音ともマッチさせ、いやがうえにも射幸心を煽ります。
コンピュータで制御される最近のパチンコの機械は、大当たりになると一回に約2000発の玉が出て、あちらに跳ね、こちらに飛び。
この鋼鉄で出来た銀玉が、綺麗に彩られた「大工の源さん」の印刷面を転がり、跳ねるわけですから、余程強固な印刷が施されていないと、印刷面が痛んでしまうわけです。
グラビア印刷で印刷されたパチンコ台の表面の印刷、この印刷インキには「シルクスクリーンポリエステル系インキ」が用いられ、さらに表面を保護する場合のコーティングにはやはり、「ポリエステル系メジュウム」印刷が施されます。
また最近は、パチンコ玉の貸し玉の購入方法も、現金で購入するのではなく、パッキーカードというプリペイドカードを使用して購入される方が多くなっているようですが、このパッキーカードの印刷は、大半がオフセット印刷で行われており、用いられる印刷インキも「紫外線硬化型オフセットインキ」が使われています。
貴方の趣味は?の問いに、迷わず「パチンコです」と答える方。それは立派な趣味であり、日本が世界に示す文化です。
比較するものが相応しくないかもしれませんが、柔道の国際ルール語「wazaari」「mate」と同じように、「pachinko」は、世界に通用する文化の言葉でもあるのです。
国際的趣味「pachinko」。
故に時には、少しゆとりの目で台に印刷された、「源さん」とユルリと会話をされてはいかがでしょう。

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