■第21回:「インキの材料」
戸津川 晋(東洋インキ製造株式会社・広報室)
先ず、印刷インキに使われている基本的な材料にはどのようなものがあるのかを見てみましょう。
印刷インキを外見的にみてみると、インキのタイプによって異なりますが、オフセットインキの場合は、非常に粘りが強く「冬に色の付いた水飴」を触っているような粘度の高い物体であることがわかります。また、一般的なグラビアインキは、「日曜大工の折に用いるペンキ」を、少し柔らかくしたような物体であることもわかります。どちらも粘度は違うものの「色のついた粘性体」であることです。私も経験したことですが、子供が4歳位の時「お父さんのお仕事はなに?」と聞かれた時、インキの説明をするのは苦手でした。
話が横道に逸れましたが、印刷インキを最も極端に、そして簡単に説明すると「色の付いたチヨット粘ったもの」といっても間違いではなく、皆さんが良くご存じのペンキは、印刷インキにもっとも近い仲間です。お気づきのとおり、ここでお気に留めて戴きたいことは、印刷インキは一部のものを除いて、必ず「色」がついています。使っている材料は『顔料』ですが、インキを構成する材料のなかでは極めて重要な位置を占めます。顔料そのものにつきましては別の項でもう少し詳しくお話ししますので、ここでは省きますが、その昔、漢字が示すとおり、儀式や戦などの折、色石などを砕いて粉にし、顔に塗ったことが顔料の名の由来です。
顔料は、色を持った粉で水や油に溶けないものを指し、水に溶ける染料と区別されています。顔料は、その組成によって鉱物や金属を主とした無機顔料、化学的に作られる有機顔料、そしてゴムや油を燃やして得るカーボン顔料などがあり、特に化学が発達した最近では有機顔料が多く用いられています。
顔料の次の大きな括りのインキの組材としては「ベヒクル」が挙げられます。あまり日常では使わない言葉が急にでてきましたが、インキ構成の上では大切な組材です。ここ迄の話のなかで、印刷インキは「色の付いた粘性体」という言葉を使いましたが、顔料は粉ですから、粉のままでは色々な物体に安定して付着することは出来ません。色々な物体に安定して顔料を付着させるには、適度の粘りを持った「粘性体」が必要になります。ベヒクルの話の前に顔料の話をしましたが、この顔料を巧く、安定して色々な物体に付着させるものがベヒクルです。ベヒクルは、ビークルまたはビヒクルともいいますが、英語の「荷車」という意味で、まさに顔料を色々な物体に運ぶ役目をします。一般的にワニスといわれているものも含まれ、インキに流動性を与え、顔料と共に大切な組材の一つです。
ベヒクルの内容は、大きく二つになります。一つは樹脂で、もう一つは溶剤です。ベヒクルの良し悪しを左右するものは、多くの種類の樹脂と溶剤で、印刷インキの適性や問題事の大半はこのベヒクルを原因とすることが多いのです。
樹脂の種類には松脂のように天然から得られるものと、フェノール樹脂のように科学的に作られるものがあり、また両方をまぜても用いられます。次に溶剤ですが、溶剤には石油系溶剤やアルコール系溶剤などがあり、一般的には樹脂の溶媒やインキの調整溶剤として用いられます。樹脂を溶剤で溶解し、適度の粘度を得たものがベヒクルで、一般的にはワニスと名前を変え、顔料の練り込みや粘度調整に用いられます。樹脂と溶剤も、後で詳しく述べますが、印刷インキを造る上でベヒクルは、極めて重要な部分となります。
ベヒクルには、この他に植物油や蝋などが仲間として挙げられ、印刷インキを構成する組材として用いられます。しかし、ベヒクルは、ただ顔料を運ぶだけで、印刷インキとしての機能を果たしませんから、印刷インキとしての機能を付与する必要があります。それは、顔料を包み、運び、乾燥させ、色々な物体に固着させる役目を持ち合わせていることが必要です。
そこで、インキの組材の大きな三つ目が『補助剤』です。印刷物には色々な適性が求められ、例えばお米を入れるクラフト袋用のインキは、倉庫に米袋を積んだ時、滑って崩れることを防ぐため、スリップしづらいインキが求められますし、病院等でレントゲンフィルムを入れる箱などは、インキが擦れて白衣に付着しないよう設計する必要があります。乾燥の速化や反対に遅延させること、摩擦性を向上させることなど、用途に合わせた補助剤と、作業を行い易くするための補助剤があり、印刷インキを構成する上でやはりなくてはならない材料となります。
細かな話はまた別の機会にお話しますが、印刷インキは大きな括りで捉えると『顔料』『ベヒクル』そして『補助剤』という3つの材料群で成り立っているのです。これらの材料は、オフセットインキ、グラビアインキなどインキの種類、材料のタイプなどに異なりはありますが、基本的にはどのような印刷インキでも、材料群の構成は同じ構成となっているのです。

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