■第22回:「インキの材料 1−色料」
戸津川 晋(東洋インキ製造株式会社・広報室)
印刷インキの材料は、大きく分けると色料、ベヒクル、補助剤の三つの組材から成りたっていることを前回お話し、なかでも色料は重要ポジションを占めることを述べました。インキの材料は、この他にも天然の樹脂や蝋、化学合成品など極めて広い範囲にわたっており、約6000種程の素材が印刷インキの材料として用いられています。
今回は、印刷インキの組材として、「色を付けるという重要な役目」を受け持つ色料について調べてみましょう。
印刷インキの色料には、大きく分けて染料と顔料があり、印刷インキに用いられる色料の90パーセント以上に顔料が用いられ、染料が印刷インキとして用いられるのは、特殊な印刷用の場合に限られます。
顔料は、色料を正しく被印刷体に転移させる「ベヒクル」へ実質的に溶けない性質を持っており、ベヒクル自体も水には溶けない性質のもので、印刷インキとなった時も、細かな色の粒子として分散しているだけです。
反して染料は、ベヒクルに溶ける性質を持っており、水に溶けたりアルコールに溶けたりまた油脂に溶けたり。なかにはアルコールに溶けても水に溶けないなどの特長を持った染料もあります。
染料は水などに溶ける性質があるため、繊維などに対して着染することが特長で、これらが顔料と異なるところです。
したがって、染料がインキとして用いられるのは、その溶解性が高いところから、教科書副教材などの解答部分や籤や懸賞などに、水溶出インキとして用いられる程度です。
印刷インキの大部分の色料を担う顔料ですが、顔料も大きく二つに分類されます。一つは、環境面などから使用量が減少しました「無機顔料」と、もう一つは化学の進歩により出現しました「有機顔料」です。
無機顔料も、天然のものと人工のものに分けることが出来、天然のものは、石の粉や色のついた土がこれらに当てはまり、赤の色料としては辰砂やベンガラが、黄色の色料としては雄黄や黄土が、そして白は現在でも精製の方法は変わりましたが、胡粉や白堊が挙げられます。
この他、茶や橙さらには緑色をした孔雀石など、天然の素材から得る色材はその昔、砕き、粉にし、水や獣の脂と練り合わせ、古人の顔や体に塗り、戦いや呪術に、また古代においては男も女もこれらの色の粉を練り合わせた化粧をすることが常で、顔に塗る色の粉ということから、「顔料」という言葉もここからきたという説もあります。
話が少し横道に逸れましたが、このように今から二万年以上も前から「顔料」は存在していたのです。しかし、これらの色料は元々が天然の鉱物質などであるため、光や熱には強いものの天然であるため色に安定性が無く、また粒子が粗いため「人工の無機顔料」が出現しはじめると徐々にとって変わられました。
現在においては、比重や毒性などの面から、人工無機顔料の使用量は極めて少ないものですが、17世紀頃より発達した、錬金術の影響で金属を原料とする人工の無機顔料が盛んに造られるようになり、コバルトからコバルトブルーを、鉛とクロームから黄鉛を、銅からエメラルドグリーンを、モリブデンからモリブデンレッドなどが造られ、1704年の紺青の開発から僅か200年程の間に多くの人工無機顔料として出現し、印刷インキの色料としても用いられ、昭和40年後半頃を境に有機顔料の着色力や鮮色力の優位さにとって変わりその生産量、使用量を減らしていきました。
顔料の大きな括りのもう一つ、有機顔料について少し詳しく調べてみましょう。
顔料の話のなかで染料の見出しで、オヤと思われたかたも多いでしょうが、有機顔料と染料は親子兄弟の存在なのです。
有機顔料は、染料の合成によって造られる色料で、やはり二つに分けられ、一つはレーキ顔料といい、もう一つはトナー顔料といいます。
レーキ顔料は、染料を水酸化アルミニウムのような白く、水に溶けない粉末に染めつけたものを指し、トナー顔料は染料を染め付けずに、染料だけをある金属を用い、不溶性する、あるいは化学構造を変化させ不溶解にしたものをいいます。この二つのタイプを合わせて「有機顔料」といい、レーキ顔料を染め付ける水酸化アルミニウムや炭酸カルシウム、また酸化チタンなどは「体質顔料」といいます。
少しだけややこしくなりましたので、表にして纏めてみましょう。
| 無機顔料 | 天然無機顔料 | 赤:辰砂 黄:黄土 緑:孔雀石 白:白堊 | 人工無機顔料 | コバルトブルー、黄鉛、モリブデンレッド |
| 有機顔料 | レーキ顔料 | 染料を水酸化アルミニウムなどに染め付ける | トナー顔料 | 染料を不溶性にする 化学構造を変える |
有機顔料は、原料や反応方法によって専門的にはさらに細かく分類されますが、ここでは、大きな区分けについての話にとどめます。
最近は、顔料の用途も拡がり、紫外線を当てると効果を発揮する蛍光顔料や化粧品などで真珠の色合いを表現するパール顔料などがあります。
印刷インキに用いられる顔料は、色があれば良いというものではなく、多くの諸適性を備えていることが大切で、色相・彩度・着色力・透明性・光沢・隠蔽力・ブロンズ性比重・易分散・易練性をはじめ耐水・耐溶剤・耐油・耐酸・耐熱・耐光等々、その要求される要件は50余項目に達します。
顔料の話は「色のはなし」の第3回と第4回に話の順序として述べてあります。ここではインキの構成材という観点から併せてお読み戴きたいと思います。
印刷インキの性状に大きな影響を与える顔料、時に意識して色合いに興味をもって戴きたいと思います。

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