■第25回:「インキの性質 1−乾燥性」
戸津川 晋(東洋インキ製造株式会社・広報室)
前回まで印刷インキを構成している顔料や樹脂など、組材についてお話しました。今回からは、印刷インキの性質についてお話しましょう。
印刷インキの性質のなかには、乾燥性・流動性・耐性・転移性・混和性等々があげられますが、乾燥性のところから始めましょう。
インキの分類の項でもお話しましたが、印刷インキにとって乾燥は、大きなファクターを占めるもので、印刷適性・印刷物の品質があげられ、乾燥の状態で納期限やパッケージなどの後工程に影響を及ぼす生産性の他、乾燥不良によるトラブルなどで品質劣化を因とする、大きな損害に繋がることも多くあります。
一般的に乾燥が甘い、遅い、速すぎるなどの言葉が用いられ、対応が図られていますが、印刷インキの乾燥はどのようなメカニズムになっており、どのような乾燥形態があるのか探ってみましょう。
印刷においての乾燥は、インキそのものの乾燥も大切ですが、被印刷体との関わりで大きく異なります。また、印刷インキを構成しているベヒクルなど、組材による影響も大きいもので、大局分類すると、物理的変化による乾燥形態と化学的変化による乾燥形態に分けることができます。
物理的変化による乾燥には、繊維質被印刷体などへのベヒクルなどが浸透して乾燥する「浸透乾燥方式」、使用される溶剤が常温若しくは、加温によって蒸発させる「蒸発乾燥」が主なものとしてあげられるほかに、組材にワックスなどを用い、温めたのち冷却することで紙面上で固化させる「冷却固化乾燥方式」などがあります。
また、日本の気候が多湿であり適さないことから、最近は少なくなりましたが、この他に印刷紙面に水蒸気を当て、水分との接触で樹脂が固化し乾燥する「沈殿乾燥方式」もあります。物理的変化による乾燥方式といいますと難しく感じますが、浸透乾燥方式を例にとると、新聞や週間漫画本のような束高の紙に用いる印刷インキの乾燥方式は、大半が「浸透乾燥方式」で、乾燥のメカニズムは、印刷インキを構成している顔料・ベヒクル部分の、粘度の低い油分などが、毛細管現象で紙の繊維部分に浸透し、顔料や樹脂の一部分の固形物が紙の表面に画線を形成する乾燥方式ということになります。
最近の印刷においては、物理的変化による乾燥方式より化学的変化による乾燥方式が多く、特に「酸化重合乾燥」は、1951年頃を境に合成樹脂ワニスを用いた印刷インキの出現によって、酸化重合乾燥方式が急増しました。
化学的変化による乾燥方式のなかで、最もポピュラーで代表的な「酸化重合乾燥」を最初に取り上げましたが、化学的変化による乾燥方式に含まれる乾燥形態にはこの他、金属板用印刷インキなどの乾燥にみられる「熱重合乾燥方式」や、最近省エネルギー策で注目を浴び、UVインキの名で活用が拡がっています紫外線硬化型インキの乾燥は、「光重合乾燥方式」ですし、光重合乾燥の仲間ともいえる電子線硬化型インキの乾燥は「電子線重合乾燥方式」になります。
また、化学的変化による乾燥のなかで、この言葉を象徴する乾燥方式に「二成分反応乾燥方式」があり、これはメラミン樹脂などにアルキッド樹脂を加え、加熱することで両者を共重縮合反応させ乾燥する方式で、まさに化学的変化による乾燥といえましょう。
物理的変化による乾燥で、代表的な乾燥形式についてのメカニズムを述べましたので、化学的変化の乾燥でも、代表的な「酸化重合乾燥」について簡単に記します。
酸化重合によって乾燥するインキのベヒクルには、ベヒクル分子の中に空気中の酸素と緩やかな速度で反応する二重結合基のあるものが用いられており、この二重結合基を持ったベヒクルが印刷され、紙などの被印刷物となって薄い印刷膜を形成すると、ベヒクル分子は、空気中の酸素を吸収し、酸化重合反応を起こします。
酸化重合が起こると、ビヒクルの分子は網の目構造の高分子に変化し、架橋反応を起こし、ベヒクルの動きが止まり、インキは固化状態となり乾燥となります。
酸化重合乾燥にふさわしく、二重結合を持ったベヒクルには、亜麻仁油や桐油、パーム油などの乾性油、またこれらの重合油や乾性油で溶解したロジン変性フェノール樹脂やロジン変性アルキッド樹脂で造られた、合成樹脂ワニスがあげられます。
さて、今回は印刷インキの乾燥の話をしておりますが、乾燥の仲間とも言うべき言葉に「セット」という言葉が印刷・インキを扱うなかで多く用いられますが、セットについて少し触れてみましょう。
「セットした」という言い方が多いようですが、セットのメカニズムを簡単にいいますと、印刷インキのベヒクルは、毛細管現象で紙の繊維に吸い込まれていく過程で、インキ中の顔料や樹脂の粒子が少しずつ寄り集まり、細かい隙間を形成して紙と反対方向にベヒクル部分を強力に引っ張るようになります。
紙とビヒクルの引っ張る力が丁度釣り合った時、ベヒクルが紙へ浸透するのが止まり、この状態の時、印刷したインキ面を指先で軽く触る程度では、指先にインキが付かない状態が起きます。
この時を「セットした」といいます。この状態から乾燥が始まることになり、この状態で製本や製函などの後加工をすることはできませんが、乾燥の目安をつけることができます。
印刷インキの性質で、大きなファクターを占める乾燥は、印刷作業においても重要な項目の一つでもあるのです。

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