■第26回:「インキの性質 2−流動性」
戸津川 晋(東洋インキ製造株式会社・広報室)
前回からインキの性質についての話に入っていますが、なかでも乾燥は大きなファクターを占めるところから、乾燥の種類やメカニズムについて前回お話しました。今回は、印刷を行う際に把握しておかないと作業効率や、不良品発生事故に繋がるインキの流動性についてお話しましょう。
印刷インキの流動状況には日常作業のなかでも接することが多く、例えば冬の時期、倉庫から出してきたばかりの印刷インキは、硬くてインキ壺にインキを入れる作業に手間取った経験をお持ちでしょう。反して夏の盛りは、インキが柔らかく、版汚れが生ずる等の不都合を経験した方も多い事と思います。
これらはある意味で、印刷インキの流動特性によるものといえます。印刷インキの流動形式には、塑性流動・擬塑性流動・ニュートン流動・ダイラタント流動の4つの流動形式がありますが、印刷インキの場合一部のスクリーンインキを除いては、オフセットインキのような高粘度でペースト状のものは塑性流動形式で、グラビアインキやフレキソインキのような低粘度のものは、擬塑性流動形式となります。
塑性流動を分かりやすく例えますと、冷蔵庫に入れておいた瓶入りケチャップは、冷蔵庫から取り出したそのままの状態では、瓶の中からケチャップを出すのに苦労しますが、瓶の中に箸を入れてかき回すと、急に柔らかくなり、瓶から容易に出しやすくなります。これが塑性流動で、ある物体に外力を加えた時、一定の限界に達するまでは、流動は起きませんが、限界に達すると外からの力と流れる速さが比例してきます。
流動学の技術書のなかに、降伏価と言う言葉を良く目にしますが、この降伏価は外からの力が加わり、流動が始まる初期点を言います。
また、流動が始まったのち安定して流動することをビンガム流動と言い、印刷中はこのビンガム流動が安定していることが、印刷インキには大切な要素です。
さて、これらの流動性を踏まえて、印刷インキに当てはめると、「チクソトロピィ性」という言葉の理解が必要です。オフセットインキなどは、缶から取り出すときは高粘度であるため、硬くネバイ感じがします。このインキを練り盤に出して力を加えて練り始めると、徐々に柔らかくなって流動性を増してきます。 しかし、柔らかくなったインキをそのままにしておくと、乾燥とは異なった以前と同じ固い状態に戻ります。
このように、外からの力が加わると流動性を持ち、放置すると元に戻るという、軟化・硬化を繰り返す現象を「揺変性・チクソトロピィ」と言います。
印刷インキのなかで、個々の顔料粒子はビヒクルの膜に包まれて、微細に分散していますが、粒子は電気的な力で引き合って、お互いに寄り集まろうとする性質をもっており、従って流動性をもった印刷インキも時間が経過するにつれて、缶の中で次第に顔料が寄り集まり、蜂の巣のような構造をつくり、ビヒクルを抱き込んだカタチになるため、流れを失い、「しまった」状態になります。
逆に流れる時は、顔料粒子が寄り集まる力はごく弱いため、練り盤の上に出して、外からの力を加えることで、寄り集まっていた顔料粒子がバラバラに離れて、インキはは元の柔らかい状態に戻ります。実際、印刷の現場で、缶から取り出し「硬いナー」の一言で、練り戻す前に、ニスや腰切りコンパウンドを添加する方を見受けますが、これらは印刷インキの基本的な流動バランスを壊すことにもなりますので避けるべき行為です。先ず良く練り戻し、印刷インキが本来持っている流動性を活かし、その後印刷条件によって、ニスなどを添加することが大切です。
次に印刷インキの性質に、インキが引きちぎられる力、一般的にタック、又はタッキネスといわれています「印刷インキが引きちぎられる時の内部抵抗値」があります。
印刷インキの技術資料などにI・Rの記号が書かれているのを見かけられた方も多いと思いますが、インコメーターリーディングの略で、粘着性の強いインキの方が高いタック値を表し、適性タック値を得られない場合は、被印刷体及び機械上の転移性・版汚れ・紙剥け・多色印刷時の転移性など、不都合を生ずることがあります。
最近は、印刷室の恒温恒湿技術の向上により、条件温度差でタック値の上がり過ぎ、下がり過ぎがなくなり、温度を因とするタック値の変化での、不都合が生ずることは少なくなりましたが、インキの流動性と同様タックにつきましても、安易に腰切りコンパウンドなどの添加は避けるべきでしょう。
日本においては、地理的条件により従来は、春秋タイプ・夏タイプ・冬タイプを各インキメーカー固有の数値で生産されていましたが、最近においては印刷室の品質管理の徹底に伴い、標準・軟口・硬口・超軟口・超硬口など寄りきめ細やかな、タック値の設定が求められています。

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