■第3回:「紙の見分け方」
小宮 英俊(紙の博物館学芸部長)
さて、一枚の紙を出されて、これがどのような紙か鑑定を頼まれたならば、あなたはどうしますか?時には紙を見分けることが必要なこともあります。あなたも「紙の大道易者」になってピタリ?と当ててみませんか。
はじめに、誰にも出来る、道具も何もいらない、紙の鑑定法をお教えしましよう。
紙切れを手に持って、明るい方にかざして見ましよう。
手提げ袋、角封筒、包装用紙などはむらむらが見えます。針葉樹クラフトパルプが原料に使われています。(針葉樹クラフトパルプと広葉樹クラフトパルプの割合は紙の種類によっていろいろです)
コピー用紙、書籍用紙、便箋などは破断面の毛羽だちが少ない、広葉樹パルプが原料です。手提げ袋、角封筒、包装用紙、ティッシュペーパー、ペーパータオル、新聞紙などは破断面の毛羽だちが見られ、針葉樹パルプが原料に使われています。
また、毎日配達されている新開に織り込まれているチラシ(散らし)はきれいなカラー印刷が多く、コート紙が使われています。コート紙であるか否かの鑑別は、
フロログルシン試薬はフロログルシン1gをエタノール50mlに溶かし、濃塩酸25mlを混合したもので、新聞紙や中質紙にフロログルシン試薬を滴下するとたちまち紫赤色を呈します。化学パルプ100%の上質紙は呈色しません。
紙はパルプの組成、加工の程度に依って分類されているので、紙を正しく見分けるにはパルプを染色して顕微鏡で調べる繊維分析を行わなければなりません。
繊維分析を行うと、パルプの種類、配合割合、木材の種類が判ります。繊維分析は特別な機器や設備などがなくても出来る試験法です。ただし、顕微鏡、プレパラートを作るガラス器具と染色液、解剖針、ホットプレートなどは必要ですが。
次に、事例をあげて、繊維分析による紙の鑑別方法を紹介しましよう。
訴えによると、問題の遺言書は書かれている日付(戦争中)より後のもので、にせ物であるというが、その通りか、製造年代を調べてほしいとのことでありました。
その遺言書は事務用罫紙に似たものに、鉛筆で書かれていました。
使用している原料繊維が何であるかを調べるために、試料(遺言書)のごく一部分を切取り、離解して、プレパラートを作り、染色して、顕微鏡試験をしたところ、原料のパルプは漂白した広葉樹クラフトパルプが主体で、針葉樹クラフトパルプが含まれていました。
この紙に紫外線ランプを当てると強い蛍光を発し、螢光増白剤を使用していることを示しました。漂白した広葉樹クラフトパルプが日本で作られたのは戦後であり、蛍光増白剤の使用も戦後になって、初めて使われたものです。
これらのことから、遺言書は戦後に製造された紙で作られたもので、戦争中に作られた物ではないと判断されます。この遺言書はにせ物であろうと鑑定しました。
鑑定を依頼した弁護士がその後、この被告に不利な結果をどのように使用したかは、聞いていません。この事例では紙の繊維分析で製造年代が戦後であると推定することが出来ましたが、通常はなかなか紙の製造年代の推定は難しいものです。
上記の例のようにパルプの種類によって、戦前か戦後かわかることもあります。和紙でも明治中期以降になると化学パルプが混ぜられて使われていることが多いので、和紙を繊維分析して化学パルプが検出されるときは明治中期以降のものと判定出来ます。
試料を離解し、作成したプレパラートをこのC染色液で染めると繊維によってそれぞれ特有の呈色をするので容易に識別できます。
![]() 針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)×50 |
![]() 広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)×50 |
また、樹種によって繊維の形態がことなるので、針葉樹パルプか広葉樹パルプか、いかなる樹種かも識別できます。国産の原料か、輸入原料か、南方材か否かも慣れれば容易にわかります。
いくつかの木材繊維の顕微鏡写真を紹介します。繊維分析を行っているとき、木材繊維の構造に魅せられることがあります。とくに広葉樹の導管は樹種により異なり、樹種判定のよりどころとなりますが、その形が美しいので、造化の妙に感嘆します。
![]() マカンパの導管×100 |
![]() ミズナラの導管×100 |
![]() ラワンの導管×100 |
また、X線回析、螢光X線、赤外分析、電子顕微鏡、X線マイクロアナライザーなどの分析機器を使用出来れば、使われている填料製紙用薬品(サイズ剤、表面サイズ剤、紙力増強剤、耐湿樹脂、螢光増白剤など)が判るので、さらに確実な紙の鑑別をすることが出来ます。

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