■第5回:「紙とお正月」
小宮 英俊(紙の博物館学芸部長)
![]() 角基本形の凧:字凧(東京) |
今の子供達は凧揚げの楽しさが判らないのかもしれません。たまに凧をもっている子供を見かけても、カイトと云う名の洋凧ばかりで、伝統的な武者絵を描いた角凧を見かけることが少なくなりました。
凧を揚げて、思いのままに操作するなど機能的に見たら洋風に歩がありますが、日本はとんび凧、角凧、武者絵凧、字凧、奴凧など昔から、形態も図柄も実に豊富な凧の国でありました。
日本の凧、和凧には和紙が使われています。カイトに押されて、和凧が衰退し、趣味や工芸の世界に残るのを見ると、和紙と洋紙の状況が重ね合わさって見えます。伝統工芸の宿命、歴史の必然といえましよう。
江戸時代の先人は遊びの世界の凧に情熱を込め、世界にも稀な和凧を作り上げ、残してくれました。和凧は今の日本人にいろいろなことを投げかけています。
![]() 角基本形の凧:絵凧(東京) |
紀元前400〜391年の頃、中国の半伝統的工匠魯班(Lu Pan)が凧を作ったと伝えられています。紀元前200年のころ前漢の韓信は城にトンネルを掘るための測量に凧を使ったと言われています。凧は古代中国で発明され、世界各地に伝わりました。
今から二千年よりも前に、中国で発明された凧は韓国、日本、東南アジア、ミャンマー、インドとアジアの諸国には早くから伝わりました。これは凧の材料として優れている竹と紙があるからでした。またオセアニア諸国にも伝わっています。
ヨーロッパ諸国には15世紀になってから凧が広がりました。アメリカにはヨーロッパから伝わっています。16世紀にはオランダ・ポルトガルなどの人々によって日本の長崎にインド風の凧が伝わり、長崎の名物のハタ(凧)になっています。
戦後、アメリカで発達したカイトは日本に紹介されると若者にいち早く普及しています。世界各国の凧を眺めると、お国柄によってそれぞれの特徴があり、興味が尽きません。
![]() 角変形の凧:袖凧(千葉県九十九里長南) |
![]() 多角形の凧:六角凧(新潟県三条) |
1600年代になると凧あげは正月の子供の遊びとして流行しました。また各地で今も行われている大凧あげや凧合戦も行われるようになりました。日本の凧は形、絵柄の豊富なこと世界一でしよう。
斎藤氏は次のように分類しています。1.角基本形、2.角変形、3.多角形、4.円形、5.風袋形、6.袖切形、7.亀虫形、8.ハタ(菱形)、9.細工形。
次にそれぞれの凧について見てみましよう。
![]() 円形の凧:フグ凧(山口県下関) |
![]() 風袋形の凧:火防奴凧と火防凧(東京都王子) |
![]() 細工形の凧:巴凧(静岡県大須賀) |
![]() 細工形の凧:鬼揚子(山口県見島) |
日本の凧は骨組みに真竹、篠竹が使われます。紙は和紙、障子紙、ロール紙が使われます。和紙は丈夫でよい材料ですが、安物の凧にはロール紙が使われています。洋風のカイトにはプラスチックフィルムが使われています。ヨーロッパやアメリカの凧はプラスチックや木を骨組みにし、紙や薄い布を張っています。
日本では江戸時代から凧の紙として西の内紙、美濃紙、百田紙、清長紙(土佐)が有名でよく使われました。いずれもやや厚手の楮紙で、漉くとき、縦横十文字にすき枠をゆすって作られました。
和紙は水に弱いので、越後場沢では柿渋を塗った「まなぐ凧」が作られました。また大凧を作るときは薄い布で裏打ちしています。
凧に使われる和紙は縦横の強さに差がすくない、十文字漉きの紙が好まれました。縦揺りの多い和紙、機械抄きの和紙は好まれません。洋紙は弱く、重いので適しません。
和凧も、伝統工芸品としての凧を除いて、これからは不織布やプラスチックフィルムが使われていくと考えています。
【参考文献】
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