■第6回:「昔の紙、今の紙」
小宮 英俊(紙の博物館学芸部長)
国力を使いつくし、疲弊の極みにあった敗戦前後の新聞紙はタブロイド判で、単色刷、写真がわずかに載っていたのを思い出すと、今日の新聞紙の紙面のきれいで読み易いことは感嘆の外ありません。
では昔と今で新聞紙はなにがどのように変わったのでしよう。素材である紙を中心にして見てみましよう。
![]() 明治18年2月27日 朝日新聞 |
![]() 平成7年1月17日 朝日新聞 |
新聞の印刷は以前は高速凸版輪転印刷が主でした。紙型取り、鉛版の高速凸版輪転印刷機械の操業は時間と勝負の新聞製作の華でした。
重く、有害な鉛の版に代わって、現在では軽く、作業性の良い樹脂凸版輪転印刷やきれいな印刷のオフセット輪転印刷が主体となっています。
かつて活字が紙面の大部分を占めていた新聞も、今では大量に印刷されている大新聞の朝刊の第一面には、きれいなカラー写真がいつも載っています。
高速凸版輪転印刷に耐えるように作られた新聞用紙がオフセット印刷にも耐えるために、表面加工を施したものも使われています。
紙の取引では新聞巻取紙は重量紙(52g/m2)、普通紙(49g/m2)、軽量紙(46g/m2)、超軽量紙(43g/m2)に分けられています(( )内は坪量)。
ここ20年くらいの新聞用紙の坪量の移り変わりを見てみましよう。
1976年坪量52g/m2の重量紙が99.0%であったのが、新聞用紙の軽量化に伴って、1980年には坪量49g/m2の普通紙が91.2%になりました。
1985年には坪量46g/m2の軽量紙が88.0%とたちまち普通紙に置き換わりました。重量紙は1.1%で、かろうじて残る程度です。
1992年には時代の趨勢から坪量43g/m2の超軽量紙が28.2%、軽量紙は69.1%になりましたが、一年後の1993年には超軽量紙が75.0%、軽量紙が23.3%と逆転しています。普通紙、重量紙は併せても1.7%とごくわずかになっています。
1973年のオイルショックに端を発した世界的な、省資源、省エネルギーの動きに対応して、新聞用紙も軽量化が求められました。用紙の軽量化によって、薄く、軽くなるので、一本の巻取の用紙の長さは増え、印刷時の紙継ぎ作業が減り、生産効率は増し、新聞の増ページも可能となりました。
坪量43g/m2の超軽量紙は重量紙に比べて2割くらい軽くなり、送料、輸送費も軽減でき、取り扱いも楽になるなどメリットが大いにありました。
新聞紙は透き通しや、しみ通しがあってはなりません。十分な不透明度を薄い紙に持たせるためにホワイトカーボンなどの填料も使われています。また新聞は両手で持って読まれます。薄くて腰の強い紙でなければなりません。これほど早く超軽量紙の時代がくるとは思いませんでした。
外観ではそれほど変わったと見えませんが、大きく変わったのが、原料のパルプです。
明治4年(1871)横浜で、日刊の「横浜毎日新聞」が発行されました。輸入の洋紙に鉛の活字で印刷しました。木綿のぼろを原料とした紙と思われます。和紙は江戸時代、木版印刷の瓦版に使われましたが、活字印刷には不適当で使えません。日刊新聞は始めから、洋紙に印刷されました。
明治8年(1875)に王子製紙王子工場が操業を開始し、新聞用紙も作られました。原料は木綿のぼろです。
明治14年(1881)に王子製紙の大川平三郎はわらパルプの工業化に成功し、わらパルプとぼろパルプの新聞用紙を作りました。品質は輸入の新聞用紙より劣りましたが、値段が安いので、各社で使用されました。
この頃、欧米で木材パルプが工業化され、新聞用紙に使われ始めました。これを聞いて、王子製紙の大川平三郎は欧米のパルプ技術を調査し、明治22年(1889)王子製紙気田工場で亜硫酸パルプの製造を開始しました。翌年富士製紙で、砕木パルプの製造を開始しています。
この後、各社は本格的な木材パルプ工場を建設し、新聞用紙は砕木パルプ主体でつなぎに亜硫酸パルプを配合したものとして定着しました。新聞用紙が国産の紙で自給出来るようになったのは明治時代の末です。
![]() 砕木パルプ(GP)×40 |
![]() リファイナー砕木パルプ(RGP)×40 |
またつなぎに使われる化学パルプはほとんどが原料樹材の種類を問わないクラフトパルプに転換しました。亜硫酸パルプは製造時の排水処理が困難で公害の元になっていましたが、クラフト法に転換することによって公害産業から脱皮することが出来ました。
チップを120度くらいに加圧・加熱してから軟らかくして、リファイナーでパルプ化したのがサーモメカニカルパルプです。砕木パルプやリファイナー砕木パルプより繊維が長く、強い紙が得られます。新聞用紙を薄く、軽くすることが出来たのもサーモメカニカルパルプが使われるようになったからです。
![]() サーモメカニカルパルプ(TMP)×40 |
![]() 針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)×50 |
古紙パルプも忘れてはなりません。最近の新聞用紙は古紙脱墨パルプが40%くらい使われています。新聞用紙は再生紙の代表とも言えます。
表と裏の違いのない紙を作ることは製紙技術者の夢でした。ツィンワイヤーマシンの成功はすばらしいことと考えています。
新聞用紙は単一の品種として紙のなかで最も多く作られています。あまり目立たない新聞用紙ですが、時代の先端技術を取り入れて作られているハイテク製品の一つと言えるものです。

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