■第7回:「サイズのお話」
小宮 英俊(紙の博物館学芸部長)
サイズ[Size]@大きさ。寸法。A紙にインクがにじまないように、製紙の際、紙料に加えまたは紙面に塗布する料。膠(にかわ)・ロジン・水ガラス・カゼインなど。[広辞苑]
これからお話しするのはAのサイズ、にじみ止めのことです。
パルプを水に分散させて、金網や簾(すだれ)で濾し分け、乾かすと紙ができます。得られた紙はインキや墨がにじみます。ヨーロッパでは文字などをペンで書くので製紙法が伝わると間もなく、にかわ(膠)をにじみ止め(サイズ)に使いました。
製紙工場ではにかわを自分の所で作り、それを使いました。にかわは牛や羊の骨、皮、ひづめ(蹄)などを煮て、抽出します。にかわの抽出は臭いので、別棟の小屋で作ったりしました。にかわは腐るとさらに臭くなります。多くの製紙工場では悪臭をさけるためにサイズ小屋を別棟にしました。
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第1図 紙のサイズ (ドゥ・ラ・ランドの製紙術 [Karl Trobas;ABC des Papiers より) |
第1図はドゥ・ラ・ランドの製紙術に出ている18世紀の製紙工場でのサイズ(サイジング)の様子です。
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第2図 タブサイズの様子 (Bo Rudin: Making Paper より) |
煮出されたにかわは中央の所で布で濾して汚れを除き、右手の桶に移します。この桶に入れられたにかわに水を加え、腐敗防止と粘度の調製のためにミョウバン(明礬)が加えられました。女子工員が両手に紙を拡げて持ち、にかわ液の中に浸そうとしています。
にかわ液に漬け、湿った紙は右手のスクリュープレスで締めて、余分なにかわ液を除き、剥がします。2〜4枚を一緒にして紐に掛けて乾かしました。
第2図はにかわ液でサイズしている様子です。紙の束を両手に持ってにかわ液に漬け、片手の紙の端からパラパラと拡げてにかわ液(サイズ液)がよくいきわたるようにします。
桶を使ったので、タブサイズ(タブサイジング)とも呼ばれます。紙をにかわ液に浸すと破れ易くなるので、破損紙が多くでました。そのためにサイズ室は殺生小屋(Slaughter House)と呼ばれました。臭いのと紙が破れる所、サイズ室の評判は良くありませんでした。
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第3図 ロジンサイズについてのイリッヒの小冊子 ([Henk Voon; The Paper Maker Vol.30,No1,47] (1961) より) |
1807年、ドイツのイリッヒはロジンサイズを発明しました。イリッヒは1777年に生まれました。13歳の時、スイス時計職人の徒弟になり、時計の製造技術を修得しました。彼の作った懐中時計はへッセンの大公のコレクションに収められました。優れた時計職人でした。
1800年に製紙工場を経営していた父親の下に帰り、製紙に携わりました。ここで新しいサイズ法を発明し、1807年、小冊子「確実で、簡単、安価な紙のサイズ実施法」[Anleitung ; auf eine sichere, einfache und wohlfeile Art Papier in der Maβe zu leimen]を著し、製紙家に知らせるように努めました。(第3図)
イリッヒはマツヤニ(松脂)[ロジン]をかせい(苛性)カリまたはかせい(苛性)ソーダに溶解し、樹脂液を作り、ビーターで紙料に加え、パルプと樹脂液を完全に混合した後、ミョウバン(明礬)溶液を加えて、樹脂(マツヤニ)を繊維に定着させました。この紙料で紙を抄くとサイズの効いた紙が得られます。
手間がかかり、破損紙の多く出る、悪臭のするにかわサイズに比べると、悪い臭いが無く、生産性が良く、優れているこのロジンサイズ法は、しかしながらなかなか普及しませんでした。ロジンサイズは内添サイズ、エンジンサイズとも呼ばれます。
ロジンサイズは1850年頃には一般に知られ、実用化され始めました。製紙の世界では、画期的な発明をした人々の多くは生前、称賛され、栄誉を与えられていません。イリッヒも生前は余り称賛されませんでした。
ロジンは松の幹の外皮を傷つけて得られる生松脂(なままつやに)を水蒸気蒸留してテルペン油を除いて得られたもので、コロホニウムとも呼ばれます。
各種のアビエチン酸が主成分です。アビエチン酸を苛性ソーダに溶かすと鹸化して、サイズ液となります。これを紙料に加え、パルプとよく混合します。
次いで定着剤の硫酸アルミニウム(硫酸バンド)を加えロジンを繊維に定着させます。ところで、昔から染色や医薬として使われていたミョウバンは、ほどなくより有効な硫酸アルミニウムに置き換っています。
定着剤、硫酸アルミニウムにより、紙料液は酸性を示します。酸性の紙料液で抄紙されるので、得られる紙も酸性を示します。いわゆる酸性紙です。
紙の酸性は保存性を悪くし、紙を劣化させる原因の一つであることはよく知られているとおりです。
また石油化学の発達により、各種の石油樹脂系サイズ剤(合成サイズ剤)が開発されました。これらはいずれも定着剤に硫酸アルミニウムを使用しています。
ケテンはアセトンから作られる反応性に富む化合物で、昔から知られていました。化学の進歩発展によって、このケテンに疎水性の長鎖アルキル基を付け、二つの分子を一つにまとめたものがアルキルケテンダイマーで、セルロースと反応してサイズ効果を示します。
またASA(アルケニル無水コハク酸)という中性サイズ剤も工業的に使用されています。カチオン化デンプンが定着剤として使われています。これらは中性から弱アルカリ性で行います。得られる紙も中性から弱アルカリ性を示します。
最近、中性ロジンサイズ剤も開発されました。中性抄紙で填料に炭酸カルシウムが使われます。中性サイズ剤を使った紙が中性紙です。紙の保存性はよくなりました。
【参考文献】

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