■第8回:「填料のお話」
小宮 英俊(紙の博物館学芸部長)
この対話をしている時、以前、会社の製品でカッターの刃の持ちが悪いとのクレームがあり、原因を確かめて、対処したことを思い出しました。日本ではすでにカッターが長持ちしない紙は過去のことと考えていたのに、現在でも存在する可能性があるのに驚いています。
そこでカッターの刃の持ちを悪くする原因となる紙の填料についてのお話しをしましよう。
和紙ではわずかな種類の紙(名塩紙、宇陀紙など)以外は鉱山物質の粉末を入れて作ることをしません。燃やしてもほとんど灰が残りません。和紙は嵩高で軽く、包丁で切りやすい紙であると言えます。
しかし、不透明度が低いので、片面しか印刷できません。和本が袋綴じであるのはこのためです。両面印刷は厚い紙でないと難しいと思います。表面強度が低くて、繊維取れが起こりやすく、紙の腰が低いなど印刷適性の低い和紙は印刷用紙に不向きですから、明治の初めから印刷用紙には洋紙が使われました。
第1表は、紙の種類と填料の使用量です。古いデータですから、おおよその使用割合として見てください。
| 紙の種類 | 紙の中の填料の割合(%) |
| 新聞用紙 | 0〜5 |
| 低級筆記用紙 | 5〜10 |
| 普通書籍用紙 | 10〜20 |
書籍に使われる上質紙では填料が10〜20%の割合で使われています。
主に使われている填料は白土(クレー、白色の粘土)〔比重2.5〜2.6〕、タルク(滑石)〔2.6〜2.8〕、炭酸カルシウム〔2.2〜2.7〕、二酸化チタン〔3.9〕、水酸化アルミニウム〔3.3〕、などがあげられます。〔 〕内の数値は比重です。
昔の和綴じの本は軽いのに洋紙で作られた本が重いのは比重の大きい無機質の填料が10〜20%も含まれている紙を使っているからです。主にコート紙で作られた美術書などは上質な白土(カオリン)の塊とも言えましょう。重いわけです。
白土は白色の粘土です。クレーと呼ばれます。花崗岩などの火山岩が風化作用、堆積作用を受けて生成したものです。日本の白土には石英の粒子が含まれているものが多くあります。
製紙用白土は値段の安いものが使われるので、ことに石英の含有率が高いものも使われました。石英がふくまれている白土を填料として使うと、抄紙機の金網(ワイヤー)の摩擦が激しくなります。また、紙を裁断するとき、カッターの刃の切れ味が悪くなります。製紙会社に勤めていたとき、会社の製品にカッターの刃が長持ちしないものがあるとクレームがあったのはこのためです。
早速、X線回析装置で調べたところ、これではカッターの刃が摩耗して切れ味が悪くなるわけだと分かりました。
そこで、填料の受け入れには、金網の摩耗度試験とX線回析で石英含有率を調べて、石英含有量の低い白土を使用することにしました。これにより、その後、カッターの刃が長持ちしないクレームはなくなりました。
これも以前、製紙会社に勤めていたときの話ですが、ある事件があり、どこの製紙会社の上質紙であるか鑑定を依頼されたことがあります。鑑定依頼の試料の紙に使われているパルプはいずれもLBKP(広葉樹晒クラフトパルプ)が主体であり、事件にかかわる紙はどれであると特定出来ません。紙質試験も類似していました。
X線回析で試料の填料を調べたところ、いずれもタルクが使われていました。しかし、テストチャートをよく調べると、タルクの随伴物であるクロライトの含有量に違いがあります。このことから、事件の上質紙に似ている紙のグループはこれであると報告したことがあります。
タルクを走査型電子顕微鏡で見ると、薄片の粉末の集まりであることが判ります。タルクのモース硬度は1ですから、ワイヤーの摩耗性の低い填料です。
炭酸カルシウムは石灰石として国内に豊富にある資源です。白色度も高く、不透明性に優れ、吸油性が高いなど紙の印刷適性が良くなります。また値段が安いなど利点があります。
上質紙、中質紙、コート原紙などが中性紙化されるに従い、炭酸カルシウムの使用量は増えています。
填料として炭酸カルシウムが使用されはじめると、抄紙機のプラスチックワイヤーの摩耗が激しくなるという問題が起こりました。石灰石を粉砕して作った炭酸カルシウムは重質炭酸カルシウムと呼ばれています。やや緻密で角張っています。
重質炭酸カルシウムを走査型電子顕微鏡で見ると、細かくなっても角張っている粉末であることがよく判ります。このためプラスチックワイヤーが摩耗します。高速の長網抄紙機では使えませんでした。
石灰石を焼き生石灰としたのち、水に入れ、石灰乳(水酸化カルシウム)にしてから、炭酸ガスを吹き込むと軽質炭酸カルシウムが得られます。軽質炭酸カルシウムを走査型電子顕微鏡で見ると、細かい柱状の結晶の集まりであることが判ります。軽質炭酸カルシウムはワイヤーの摩耗度が低く、白色度、不透明度が高いので、コストはかかりますが、中性紙の製造にはほとんど軽質炭酸カルシウムが使われます。
最近の上質紙はカレンダー(光沢つけ)が掛けられているので、紙の表裏の判断がつけにくくなりました。紙が抄かれるとき、金網に接する面が裏です。ワイヤー面と呼んでいます。表面はフェルトで抑えられるのでフェルト面とも呼ばれます。
走査型電子顕微鏡の反射電子像を紹介しましょう。第1、2図の白点はタルクです。表面は全面にタルクが分散しているのがよくわかります。裏面ではタルクの白点が少なくなっています。裏面は抄紙機のワイヤーパートで真空に引かれているのでタルクが少なくなります。また微細繊維も抜け落ちます。そのため、紙の裏面は平滑度が低くなります。
![]() |
| |
第1図 上質紙の表面 (×100) |
第2図 上質紙の裏面 (×100) |
昔の紙はカレンダーが掛けられていないものが多く、裏面に金網の跡が残っていました。紙の表裏の鑑別は斜めから光を当てて観察すると金網の跡があるほうが裏ですが、最近の上質紙は判別に困ります。
紙を水に浸したのち、乾かしてから、観察するとカレンダー処理で潰され見えなかった金網の跡がはっきりと見られます。
紙を折り重ね、机の上にのせ、一円アルミ貸で擦ると裏面は濃い跡が着きますが、表面は薄い跡で判別出来ます。この方法は填料が硬度の低いタルクでは判ります。
近年、ツインワイヤーマシンやオントップマシンなど二枚の金網で挟んで抄くことが行われています。この方式で抄いた紙は表裏差が小さく、長年の製紙技術者の願いが適えられたものと言えましょう。

(C) Copyright The Japan Federation of Printing Industries < info@jfpi.or.jp >