■第10回:「溶ける紙溶けない紙」
小宮 英俊(紙の博物館学芸部長)
紙を水に浸けたらどうなるのでしょう。紙を水に浸けると、水が繊維と繊維のすきまに入り、繊維と繊維を結びつけていた水素結合は解消してしまいます。かき回せばやがて、繊維が水の中に散らばり、ドロドロしたもの、パルプの懸濁液ができます。これが離解で、紙作りの逆を行っているのです。紙は水に弱い物です。
溶けるとは液体にある物質がまざって均一な液体になることです。紙の繊維は溶けないで、水のなかに散らばっています。紙が溶けると言うのは正確な表現ではありません。しかし便利な表現なので使われています。
新聞紙を水に浸けかき回すと容易に離解してドロドロになります。脱墨剤(洗剤の親類)を加えて、インキを落としたのが脱墨パルプ(DIP)です。
新聞用紙には脱墨パルプが30%から40%くらい配合されています。新聞用紙は再生紙の優等生と言えるでしよう。
トイレットペーパーは水の中で容易にドロドロになります。いわゆる溶けやすい紙の代表と言えます。
牛乳パックの紙も溶けにくい紙の一つです。表裏の両面にポリエチレン・フィルムが貼ってあります。小口から液体の浸透を防ぐために、サイジング(インキや水の浸透防止処理)されています。この処理薬品の定着剤として湿潤強力樹脂が使われています。
現在、牛乳パックから葉書を作ることがしばしば行われていますが、牛乳パックの紙の離解が困難で、デコボコな紙を作っている人が多いと聞いています。紙の博物館では、牛乳パックの紙を次亜塩素酸ナトリウムで処理して湿潤強力樹脂を分解し、よく離解したパルプを作り、日曜日の無料講習会で地合むらのないきれいな手すき葉書を作っていて、好評を得ています。
水に溶けない紙の代表に耐洗紙があります。クリーニング屋さんに出した洗濯物につけられているタグ(下げ札)は、湿潤強力樹脂などで耐洗濯性、耐ドライクリーニング性を与えられた耐洗紙です。
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水溶紙(水に浸けるとたちまち溶けていく) |
水溶紙は化学パルプを水酸化ナトリウムでアルカリセルロースに変え、モノクロル酢酸を反応させて、カルボキシメチルセルロース(CMCと略称される)をつくり、普通の化学パルプと混ぜて抄いたのち、アルカリで処理して水に溶けやすくしたものです。
カルボキシメチルセルロースのアルカリ塩は水に溶けて溶液となります。水溶紙を水に浸けると含まれているカルボキシメチルセルロースのアルカリ塩がたちまち溶けるので、またたくまに水の中に散らばります。以前、秘密のメモ用紙に水溶紙が使われました。また、アメリカでロケットの燃料タンクの漏れの検査用に使われました。
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不燃紙(水酸化アルミニウム不燃紙とドア用スペーサー) |
現在、建材や壁紙には不燃紙や難燃紙が使われています。紙を抄く時、リン酸アンモニウム、スルファミン酸アンモニウムなどの難燃剤を加えて作った難燃紙が使われていますが、近年水酸化アルミニウムを大量に含有する不燃紙がよく使われています。パルプは紙を抄くためのつなぎの働きをしています。
外見は紙そのもので、少し重いものです。この紙は温度が200度を越えると徐々に水酸化アルミニウムが分解して水を放出するので、火が消えてしまいます。自己消火型の不燃紙です。あの焼けたホテルのドアなどに不燃紙が使われていたならば、被害も少なかったと思います。紙も難燃紙や不燃紙が火災防止に寄与しているのです。
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陶紙と陶紙で作った折り鶴 |
普通の上質紙には不透明度や平滑度をよくするために原料パルプの一割くらいの填料が配合されています。填料として以前は白土(白色の粘土)が使われました。現在はタルクや炭酸カルシウムが使われています。
水にパルプを加え、かき回し、陶土を大量に加えて、ポリアクリルアミドなどのカチオンポリマーを加えてよくかき回した後、アニオンポリマーを添加してかきまぜると大量の陶土を抱えたフロック(むらがり)ができ、抄紙機械で紙に抄くことができます。この方法で陶土90%、パルプ10%の填料高含有紙〔陶紙〕が得られます。
陶紙は少し水分を与えると普通の紙と同様に、たやすく折り曲げたり、切ったりなどできます。折り鶴など簡単に折ることができます。これを乾燥させた後、電気炉で加熱すればパルプは燃えてなくなり、焼き物(陶器)ができあがります。陶土など土をこねたものでは到底できない薄い羽の折り鶴、セラミックの段ボールなどが容易にできます。用途が開けるのはこれからでしょう。

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