■第12回:「再生紙のお話」
小宮 英俊(紙の博物館学芸部長)
江戸時代、東京は京都、大阪とともに三都とも呼ばれ、大都市、大消費地でありました。特に江戸は消費都市で、生活必要物資は上方などから船で運ばれました。
数少ない江戸の生産物、名産品に再生紙、浅草紙があります。江戸市中から集めた屑紙を漉返す紙漉町が浅草の観音に近い所にあり、そこで作られた再生紙が浅草紙で、江戸の名産物の一つでした。
紙漉職人が屑紙を煮てドロドロな紙料にするとき、紙料が冷えるまで近くにあった江戸の歓楽街「吉原」に出かけ、格子の窓の女性をからかって来たことから、冷やかすという言葉が生まれました。
江戸時代の再生紙として、江戸の浅草紙、京都の西桐院紙、大阪の港紙が有名でした。2年前、江戸末期の港紙を調べたことがあります。汚れた色を目立たなくするために、青色に染めてありましたが、地合のよくない紙で、髪の毛やゴミが入っていました。当時、再生紙は悪紙と言われていたことが納得されます。
写真@は明治30年頃の浅草紙です。塵が多く、髪の毛、離解していない紙の破片が認められます。写真Aは透過光で写したものです。塵が多く、地合の悪い厚みむらの多い紙であることがよくわかります。
| ![]() |
|
| 写真1 明治30年頃の浅草紙 | 写真2 明治30年頃の浅草紙 (透過光で撮影) |
科学者寺田寅彦が浅草紙について書いています。[大正十年(1921)東京日々新聞]鈍い鼠色で、赤や青、紫などの色彩の斑点、白地に黒インキで印刷された文字のある破片、毛髪、鉛筆の削り屑などが漉きこまれている様子が述べられています。浅草紙は漉返し紙の代表で最下級の粗悪な紙でした。
入手した戦後の浅草紙の品質も昔と変わっていませんでした。[写真B、C]
| ![]() |
|
| 写真3 浅草紙「戦後のもの」表面 | 写真4 浅草紙「戦後のもの」裏面 |
1980(昭和55)年、神奈川県庁と本州製紙の共同開発したPPC用紙「やまゆり」が再生紙の第一号です。それまで印刷情報用紙の内、上質紙系の紙の製造に古紙が使われていなかったのですが、省資源、省エネルギー、環境保全が強く求められる時代になり、開発されたのが、古紙を原料に使っている紙、すなわち再生紙です。
昔から古紙は製紙原料として使われてきました。漉返し紙の歴史は千年以上前の平安時代に遡ります。
家庭、商店街、駅、オフィスビル、デパート、スーパー、新聞社、出版社、印刷会社、製本会社、紙器工場などから集められた古紙は、直納業者から製紙会社に納められ、再生使用されています。
古紙の利用状況を見てみましょう。次の表は日本製紙連合会が作成した1992年の「紙・板紙品種別リサイクル」をもとに作成しました。
| 1992年の紙・板紙生産量 | 28,310千トン |
| 古紙回収量 | 14,466千トン |
| 古紙品種別消費量 | 14,798千トン |
品種別の消費量と利用率
| 新聞用紙 | 1,606千トン | 49% |
| 印刷情報用紙 | 1,567千トン | 16% |
| 包装用紙 | 30千トン | 3% |
| 衛生用紙 | 910千トン | 62% |
| 雑種紙 | 28千トン | 28% |
| 段ボール原紙 | 7,783千トン | 92% |
| 紙器用板紙 | 1,820千トン | 83% |
| その他板紙 | 1,054千トン | 97% |
この表からわかるように、古紙は製紙原料の半分以上を占め、古紙利用率も1992年では52%に達しています。
古紙利用率の低い印刷情報用紙の原料に古紙が使われ始めたのが、再生紙という言葉の使われ始めでありましたが、もともと古紙は木材チップとともに製紙の主原料です。日本は古紙利用率の高い国です。
![]() |
写真5 宿紙(天正4年(1576年) 朝廷より出された辞令書) 塵の多く見られる漉返し紙である 「紙の博物館提供」 |
今の再生紙は脱墨パルプが使われています。戦後、急速に発達した石鹸や洗剤が古紙のリサイクルに使われました。古紙を水の中でドロドロにし、洗剤を加え、印刷インキを洗い落とし、漂白したものが、脱墨パルプです。再生紙は脱墨パルプが使われます。最近の脱墨パルプは品質がよくなったので再生紙の品質はチップから作ったバージンパルプのみの紙の品質と変わらないくらいです。
再生紙かバージンパルプの紙か見分けるのには、印刷インキの粒子やひげ(髭)パルプ[繊維の内腔に印刷インキが入り黒く見える]の有無で判定しますが、近ごろの再生紙は見分けるのに苦労します。多くの再生紙は新聞古紙が原料に使われているので、リグニンの検出と印刷インキ粒子、髭パルプの有無で見分けています。
新聞のチラシ、パンフレットやカタログ、ファッション誌、写真週刊誌などのカラフルな印刷物に使われる塗工印刷用紙に再生紙が使われています。資源保護の社会的要請に呼応していることを示すため、「この印刷物は再生紙が使われています」と誇らしげに印刷されています。
はたして、再生紙を塗工原紙に使っているかどうかは、外見ではわかりません。この場合は、試験する紙の両面にセロテープなどの粘着テープを貼り、剥がすと、紙は原紙の部分で2枚に分割されますから、得られた原紙の割断面に印刷インキの粒子や髭パルプがあるかルーペなどで調べて判断します。
昨年、スイスに行く機会がありました。公共施設、レストラン、ホテルなどで使われている使い捨ての紙、ペーパータオル、ペーパーナプキン、トイレットロールなどは無漂白か少し染色した再生紙でした。日本は紙を無駄に使い過ぎるとつくづく考えてしまいました。リサイクルのできない使い捨ての用途には、再生紙を使うようにしたいものです。
【参考文献】
Chapter Index

(C) Copyright The Japan Federation of Printing Industries < info@jfpi.or.jp >