■第6回:「紙を離れた印刷とは」
(前回までのあらすじ)
印刷会社に勤めるA君は、印刷関連のメモをもってKさん宅を訪問しました。Kさんの話はカードから紙幣印刷の話とすすみ、A君は熱心にその話に聞き入ります。
事実この 「電子出版」 という言葉は、現在次のようなさまざまな意味で用いられています。
「いままでは情報を提供する媒体として紙を用い、ハードコピーつまり印刷物の形で出版することがほとんどだった。 『電子出版』 の場合それをソフトコピー、つまり電子媒体によって行うだけで、本質的には出版であることに変わりはない。 ただし、印刷物による提供と電子媒体による提供では、同じ情報でも機能や表現が必然的に違ってくるんだ。
提供情報の電子化は、その特徴として即時性、パーソナルニーズ対応、検索性などに優れている。 だから、そのような特性が大きなメリットとなる分野から利用が広がりつつあるわけだ。 たとえば、検索性が重視される辞書や辞典類がその典型だね。
もっとも、この電子出版の分野では印刷企業だけが出版のための加工を行うとは限っていない。 むしろ従来は出版と縁のなかったソフトハウスやコンピュータメーカー、家電メーカー、データーベース業などの異業種参入が多いから、君たち印刷業界の人たちもうかうかしていられないんじゃないか」
CD−ROMは、音楽用に利用されているコンパクト・ディスク (CD) にデジタル・データを記録して、コンピュータ用のROM (読取り専用メモリ) として利用されるもの。 記憶容量が大きく、直径12cmの普通のCDで新聞の朝刊、夕刊1年分を記録することができ、しかもプレス方式による大量生産が可能なため、低コストであるというメリットを持っています。
ただ反面、書き換えができない、つまりデータの追加・訂正ができないデメリットもありますが、最近ではそのデメリットをなくした 「追記型CD−ROM」 も開発されて、今後広範囲な応用が期待されています。
CD−ROMの場合、読み取るためにCD−ROMドライブをコンピュータに取り付けなければなりません。 ただ、最近のパソコンには本体にCD−ROMドライブを組み込んだものも各種登場。
さらに、辞書や事典類をはじめとして、膨大な情報から必要な情報 (文字情報だけでなく、画像や音声・音響も) を素早く取り出すことがメリットとなるソフトもいろいろ出ており、また、その他CD−ROMゲームソフトもいろいろ作られてきています。
「最近テレビでも取り上げられ話題になっているものにアダルトCD−ROMというのもあるな。 けっこう広まっているようだが、自主規制問題など社会的な影響もでてきている。 確かに表現の自由とのからみで難しい問題ではあるがね」
CD−ROMにつづいて登場したのが、CD−I。
通常のCD−ROMがパソコンの外部記憶媒体として利用されるのに対し、CD−Iはデジタル化した音楽、映像、文字情報、データ、プログラムなどをCDに記録したもので、これもCD−ROMの一種です。
ただ、CD−ROMは読み出し専用の一方通行ですが、CD−Iは利用者と対話しながら作業を進めることができる双方向型メディアであることが大きな特徴となっていて、マルチメディアの一つとして、発展が期待されています。
またこの他、他のタイプの光ディスクや光カードなどの利用開発も行われているそうです。
「そうだね。 これも頻繁に耳にはするけど、本当に理解している人は少ないかもしれない。 とりあえず、A君の理解している範囲で話してみないか」
そう問い返されたA君は、自分の知っている範囲で次のようなことを話してみました。
まず、これはコンピュータメーカーや家電メーカーがテレビやビデオに続く大きな商品になると期待している、文字・映像・音声などをコンピュータで複合的かつ一元的に扱うものであること。 これをシステム化したものを 「マルチメディアシステム」 と呼び、このシステムを使えば、利用者は文字・映像・音声などさまざまな情報を呼び出して、自由に加工できるという特徴がある……。
「だいたいのところは、そのとおりだ。 つまり 『マルチメディア』 とは、文字・映像・音声のどれにも対応可能で、しかも双方向性の対話型機能をもつメディアのことをいうわけだ。
世界的にもマルチメディアは、これから巨大な市場を獲得すると見られていて、ある調査ではその規模は60兆円と予測されている。 実際にマルチメディアとしてどのようなハード、ソフトが伸びるかは、まだはっきりしてはいないが、情報を加工することが主業務の印刷産業としてはきちんとチェックしておいたほうがいいだろうね」
「それから、これが電子出版の範囲に入るかどうかは異論もあるだろうが、少しずつ普及してきているハイビジョンテレビと印刷も大きな関連があるんだ。
このハイビジョンは、テレビ放送以外にも産業用、公共用などでの利用が可能だからね。 使い方としては美術館や博物館でのハイビジョン静止画活用、教育や医療での利用、ハイビジョン電子カタログ、ハイビジョン電子出版、ハイビジョン映像からの印刷物などがあって、すでに利用が始まっているものもある。
たとえば美術館や博物館が所蔵している作品を、印刷用の高精度な画像情報処理技術を活用してデジタル処理でハイビジョン静止画にし、収録してデータベース化しておけば、会場に展示しきれないものや、各地での公開もハイビジョンで高精彩な画像を見ることができるしね。
ハイビジョン映像からの出版印刷物も数年前から出ているし、商品をハイビジョン静止画として光ディスクに記録し、欲しいものを検索できるようにした販売促進用のハイビジョン電子カタログも利用がはじまっている。
ハイビジョンの普及発展がさらに進むと、もっといろいろな分野での利用も図られることになるだろうね」
あるシステムになんらかの要求 (demand) をしたとき、「ただちに」 それに応じて何らかの回答をするようなシステムをオン・デマンド・システムといい、これは日本語で 「要求即応システム」 などとも呼ばれています。
ただし、「ただちに」 ということばは定量的な言い方ではありません。 反応・回答が返ってくるまでの時間がどのくらいであればオンデマンド・システムであり、その時間がある値以上であればオンデマンド・システムではない、というような明瞭な境界があるわけではないのです。
「私の会社ではまだ検討段階ですが、あの少部数対応の印刷システムのことですね?」
「そのとおり。 ここのところ印刷技術が成熟して、大量生産には非常にメリットが出るようになった一方、個人出版などの少量生産には効率的に対応できなくなっているだろう。 反面、何かを表現したいという人たちのパーソナルニーズや、企業内出版などの小さなニーズが増加している。
そこで生まれたのが、オンデマンドプリンティング、デマンド出版といわれる1冊でも注文があれば対応出来る印刷システムなんだ。 このシステムを使えば、データベースから検索したある部分を10部程度の少部数印刷にするようなことにも対応できる」

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