■第2回:「美術館で力を発揮しはじめたハイビジョン」
ハイビジョンの高精細・高画質を生かして、美術館では所蔵する絵画や美術品などの作品を、館内で紹介しています。 実はハイビジョンも印刷と大きく関わっています。
これは、現行の放送方式であるNTSCの普通のテレビの走査線が、画面の上から下までの間に 「525」 本しかないのに対して、ハイビジョンの走査線は 「1,125」 本と、普通のテレビの2倍以上もあることによります。 また、アスペクト比と呼ばれているテレビ画面の縦と横の比は、従来の 「3:4」 から 「9:16」 と横長になっているため、画面が横に大きくなり、ワイド感が出て迫力も増しています。 最近は、現行の放送方式でワイド化されたテレビも発売されていますが、あのワイドテレビ画面がきめ細かくなったと思えばいいかもしれません。
カラー映像の鮮明さは画素の細かさに左右され、画素密度はシャドウマスクの孔数によって決まります。 20インチのテレビの孔数は現行テレビが 「約26万個」 に比べ、ハイビジョンでは 「約140万個」 にもなるのです。
サッカーや大相撲、野球、バスケットなどのスポーツ番組の中継や、動物の生態、自然の風物詩などを紹介するドキュメンタリー番組などでは、この鮮明さでより生き生きした画面が見られると期待が寄せられています。 しかし、この方式の最大の特徴である高精細・高画質が、もっとも威力を発揮するのは大画面テレビ。 美術品や工芸品などを、大きな画面で紹介するには最適です。
すでにいくつかの美術館では、所蔵する絵画や美術品などの作品をハイビジョンに収録し、館内で紹介するという方式を採用。 一度に展示しきれない作品をハイビジョン画面を通して観賞したり、肉眼では確認できない細部を拡大して鮮明に見せるなど、さまざまな利用方法が考えだされています。 自治省などの後援もあって、現在では100館以上の美術館がハイビジョンディスプレイを持ち、今後さらに増加する傾向にあります。
ただ、ハイビジョンソフトの製作本数は平成6年で約500本と非常に少なく、放送関係を除き、そのほとんどが地方自治体や美術館関連のものに限られているのが実情です。
一方、最近の印刷会社では、情報産業の一端につらなるものとして、最近話題となっている“マルチメディア”への取り組みも進めています。 とくに力を入れているのが 「ワンソース・マルチメディア」 です。
情報のデジタル化は急速に進み、印刷の版を作る工程では、印刷すべき情報をコンピュータに電子化して蓄積し、各種の画像処理等がなされています。 昔はフィルムなどで保存されていた印刷のための情報は、現在ではフロッピーやCDに記憶させているのです。 当然、これらに収納された情報は、他の各種のメディアでの利用や展開が可能となります。 これが 「ワンソース・マルチメデイア」、つまり、印刷のために構成された文字、画像情報という、単独の情報源 (ワンソース) を、CD−ROMなどさまざまな媒体 (マルチメディア) へと展開していこうという戦略です。
放送用に作られたハイビジョンを印刷分野に応用しようというのがそれで、印刷が持つ画像処理技術とハイビジョンの持つ綺麗な画像とを結び付けて、画像と印刷物の両方からその良さを紹介していこうとするものです。
これは、ハイビジョンの持つ高精細なデータを、印刷用の製版データとして用いることから始まります。 具体的には、光の3原色で再現するハイビジョンデータを、色の3原色で再現する印刷データに変換するというもので、さまざまな実験が行われた結果、現在では商品化され出版されるまでに育っています。
一方逆に、印刷データをハイビジョンデータに変換し、電子出版番組として展開してゆく方向もあります。 ただ、多くの実験を経て、文字を含めたディスプレイ出版を作る技術は完成したものの、当初興味を示す部門はなかなかありませんでした。 その有効性が認められるようになったのは、先に紹介した美術館への応用からです。
現状では、静止画のバックにナレーションが入る表現形態が中心ですが、ハイビジョンのもつワイドな表現能力と、NTSCの映像素材、文字、図形などの異なった情報を一緒にすることにより、さらに多くのことができるようになるものと期待されています。
現在、ハイビジョン・グラフィックスの有効性をシステムとして具現化したものに、岐阜県立美術館や町田市立国際版画美術館の 「ハイビジョン・ギャラリー」 があります。 110インチのリアプロジェクターによるシアタータイプのギャラリーでは、利用者が自由にデータベースを検索し、番組にアクセスすることが可能となっています。 利用者の反響も 「美術観賞が楽しくなった」 「実際の作品と映像を交互に見ることにより、作品をさらに詳しく理解することができた」 と、ほぼ満足すべきものでした。
ただ、このようなハイビジョンテレビも泣き所はあります。
まず第1は、テレビ受像機の普及が全国でも2万8,000台と低迷していること。 この原因は、価格が50万円前後と高いことに加えて、ソフトが十分でないことにあります。 さらに、郵政省が将来の放送形態としてデジタル化志向を依然として持っているために、アナログ形式を採用している日本のハイビジョン方式に対して、機器メーカーが及び腰の対応となっている点も影響しているでしょう。 2007年には放送衛星によるデジタル放送が始まる計画もあり、欧米でもデジタル伝送の採用が主流となってきています。
その一方で、追い風としては、実用化放送が進むにつれて生番組が増え、放送ソフトの内容が広まり、面白いソフトが増える可能性が高いことであります。 実際、次期放送衛星 (BS4) が打ち上げられる1997年には、本放送に移行する計画が決まっています。
前に紹介した岐阜県立美術館や町田市立国際版画美術館のほかに、高知県立美術館や秋田県立近代美術館でも、大型のディスプレイで世界の有名な美術品を映し出す展示手法を採用しています。 これはハイビジョンが、色や質感を肉眼で見るより忠実に再現できることから、美術品の観賞には最適な方法だと考えられているからです。
こうしてハイビジョンは、学校の完全週休2日制への移行など、余暇を重視する傾向がますます強まる中で、生涯教育の観点からも大幅な普及が見込まれています。 このような観点から、各電気メーカーでも遅れているソフトの面を補強するために、ソフト製作システムの整備に力を入れてきており、今後ハイビジョンの素晴らしい映像を生かすソフトがぞくぞく登場することが期待されています。

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