■第3回:「壁掛けテレビに生きる印刷技術」
「オングストローム (1ミクロンの1万分の1)」 の世界に生きる印刷技術。 ディスプレイ技術は印刷技術とともに進歩しているといえます。
マイクロエレクトロニクスの進歩にともなって、電子機器が高性能化し、取り扱う情報量は急増。 その結果として、人間と機械とのマンマシン・インタフェイスの重要性が急速に高まり、ディスプレイにもさらに進んだ表現力が求められるようになってきたのです。
マルチメディアにおけるディスプレイ技術は、その特徴によりいくつかのものが使い分けられています。
現在実用化されているディスプレイ技術は、CRT (陰極管)、LED (発光ダイオード)、VFD (螢光表示管)、LCD (液晶パネル)、PDP (プラズマディスプレイ)、EL (エレクトロルミネッセンス) などです。
これらは表示品位、解像度、カラー、表示容量、大画面化や薄型軽量化への対応性、駆動電圧、コストなどさまざまな面で比較検討され、その特徴を最も生かしたかたちで、それぞれの電子機器に採用されています。
ここではこのうち、印刷技術の関与が最も深いいくつかのディスプレイ技術について説明することにして、まず、「壁掛けテレビ」 をキーワードに考えてみましょう。
家庭のリビングルームの壁面に置かれた、絵画サイズの壁掛けテレビは、かってはSFコミックや映画など、21 世紀の家庭の未来図の必須アイテムでした。 現在では、それが実現の一歩手前まで来ています。
日本の居間の広さでは、現在のテレビよりやや大きい対角 40 〜 55 インチの画面を持ち、テレビの厚みは数センチでもちろんフルカラー。 このような条件を考えると、現在ではPDP (プラズマディスプレイ) 技術が最も適しています。
一般に現在の技術的可能性を加味して、表示画面のサイズとの関係を棲み分けしてみると、20 インチ以下のサイズではLCD、30 インチ前後でCRT、40 〜 55 インチの大画面ではPDP技術が優れているとされています。
つまり、家庭用の壁掛けテレビではPDPがもっとも適していますが、机の上のパソコンやワードプロセッサーの表示板としては、薄形、軽量、低消費電力という特徴から、LCD (液晶パネル) がより優れているというわけです。
もっとも、現在家庭用テレビの主役はCRT (陰極管) です。 この方式は、大きな真空管の後方にある電子銃から電子 (陰極線) を発射し、管の前面にあるシャドウマスクの小さな穴を通過させて、CRTの前面にある蛍光体を光らせて画像を得ています。
ただこのCRT方式では、画面サイズを大きくすると奥行きも大きくなるなど、全体が非常に大きく重くなり、(最近“フラットCRT”の開発が進められていますが) 現在では 40 インチ前後が限度と見られています。
代表的な製品としては、デジタル時計や電卓の表示板があり、最近ではパソコンやワープロの表示板や液晶テレビ等も開発されています。 かっては白黒で小型のものしかできなかったLCDも、最近ではフルカラーでしかも次第に大型な製品ができるようになってきました。
ここで、液晶を使った画像表示の原理を簡単に説明しましょう。
「液晶」 とは、固体と液体の中間的な状態のことです。 この状態においては、固体 (結晶) のように分子がある特定の配列をし、かつ液体のように流動性を備えています。 これが 「液状結晶」 すなわち液晶です。
液晶に外部電界などのある外部条件を与えると、比較的容易に分子配列を可逆的に変化させることができます。 また、電界を切るだけで、簡単にもとの状態へと戻る性質を持っています。 このような液晶の、電気のON・OFFで簡単に分子配列が変わることにより、その透明度や色などの光学特性が変化する性質を利用したものが液晶ディスプレイです。
LCDの場合、具体的には、2枚の平面ガラス基板の間に、単結晶となるようにネマチック相液晶を封入 (液晶セル) し、その上下を偏光フィルターではさみます。
偏光フィルターとは、特定方向の光だけを通す性質を持っているもので、2枚の偏光フィルターを平行に重ねた場合は光を通しますが、それぞれを 90 度にねじると光は遮断されます。
さて、90 度にねじって配置された偏光フィルターの間に、液晶セルをはさんでみましょう。 ネマティック液晶は、電界がないとき、分子方向が直角にねじれた構造になっています。 そのため、この液晶セルを通った光も、直角 90 度にねじれるわけです。 つまり、直交させた偏光フィルターに液晶セルをはさんだものは、電界がないとき、偏光フィルターのねじれを液晶のねじれが相殺することで光を透過させます。
ここに電界を与えると、こんどは液晶の分子配列のねじれが失われ、光をそのまま通過させるようになるため、偏光フィルターに阻まれて光は通過できなくなるのです。
液晶は、自らは発光しないため低消費電力で低電圧駆動のスイッチの使用が可能という優れた表示装置です。
現在、この液晶パネルに求められている技術要素は、フルカラー化、大画面化、高精細化などの高機能化です。
このうちフルカラー化は、液晶、薄形トランジスタ、駆動回路とカラーフィルターのミックスされた技術開発が必要です。 とくにカラーフィルターは単に“色を付ける”ものと簡単に考えがちですが、実際には、コントラストや表面反射に大きな影響を与え、画像そのものの品質を左右する大きな要素となっています。
これは各画素電極について、1対1で対応した各色のパターンを配置して、表示光を色変換するものです。 ここで使われるカラーフィルターが液晶カラーパネルの生命であり、このフィルターをつくる技術はまさに印刷技術の応用なのです。
カラーフィルターをつくる方法には、レリーフ染色法、顔料分散法、電着法、印刷法などさまざまな種類があります。
「レリーフ染色法」 は、感光性レジストを使って所定の形状にパターニングした後、染料液に浸漬して着色する工程を3回行ってRGB3色の着色パターンを得る方法です。 感光性レジストは、フォトレジストとも呼ばれ、光が当たると固くなったりする性質を持ったものです。
「顔料分散法」 は、感光性レジストに顔料を分散させておき、それを基板上に塗布、露光、現像する工程を3回繰り返してRGB3色の着色パターンを作り出します。 また、顔料を分散した非感光性ポリマー材料を基板上に塗布した後、レジスト層を別途形成して、露光、現像する方法もあります。
「電着法」 は、透明電極を所定の形状にパターニングしておき、この上に電着を3回繰り返して所定の着色パターンを作成。 その後、各RGBの色の間に、ブラックマトリックスという黒の格子模様を形成させることでできあがります。 この方式は、耐熱性、耐薬品性、平坦性、パターン精度等が高いのが特徴となっています。
最後の 「印刷法」 は、顔料が分散されたインキをオフセット印刷方式によって基板に3回印刷する方法です。 この方法は低コストでできますが平坦性が悪く、パターン位置精度も感光性レジストなどを使用した写真的な方法より1桁低下。 この精度は機械的な限界でもあり、大型ディスプレイ化と高精度化には苦戦を強いられる技術となっています。
以上の他に新しいカラーフィルターの着色方法も提案されてきていますが、いずれの方法をとるにしても、液晶ディスプレイを得る最大の課題であるカラーフィルターの製作には印刷技術が最大限に活躍しているのがおわかりでしょう。
壁掛けテレビの本命とされるPDPの特徴は、パネルの大型化、低コスト化、高速応答化、広視野角化などが図れることにあります。
この方式はすでに、モノクロームのディスプレイとしては一部実用化が進んでおり、カラーディスプレイについても寿命が大幅に改善され、発光効率も向上しています。 残された問題点は、駆動電圧が高く、解像度もあまり高くないことにあります。
プラズマディスプレイの原理は、2つの電極の間に特種ガスを封入して一定の電圧を付加。 発生したプラズマから出た紫外線が、側壁にある蛍光材を刺激して発光する現象を利用するものです。
その製造方法は、まずガラス板に一方の電極となる金ペーストをストライプ状に印刷します。 その上にガラスペーストを塗布し、さらにその上にサンドブラスト (微粉を使ったやすり) に耐える層を、先の金ペーストの印刷とは重ならないように印刷します。
その後、アルミナ (酸化アルミニウム) の微粉末を用いてサンドブラストにより、金ペースト上のガラスペーストを除去すると、先に印刷した金ペーストが露出してきます。
さらに、サンドブラスト耐層を焼却するとともに、残ったガラスペーストを焼成して一方の電極 (背面板) が完成します。 この背面板のストライプ状の溝の壁面に、RGBに対応した蛍光体ペーストを塗布し、焼成します。
次に、(詳細は省略しますが) 別のガラス基盤上にストライプ状に透明電極が設けられた前面板を、先の背面板とは直交する形で配置し、その間にHe (ヘリウム) − Xe (キセノン) の混合ガスを封入することにより、AC−PDPができあがります。
ここにおける技術のポイントは、電極と側壁を印刷技術を用いて高精細にパターン化することにあります。
印刷技術とディスプレイの技術は、相互に影響を与え、技術力を向上させながら、ついに、今では 「オングストローム (1ミクロンの1万分の1)」 の世界へと足を踏み入れています。

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