■第5回:「豆本の世界とマイクロ技術」(後編)
ここでは前編でご紹介したマイクロブックの製造方法の簡単な説明と、マイクロ技術という印刷画像の微細化技術が私たちの生活に生かされている例をご紹介します。
この工程では、株券にほどこされているあの唐草模様などの地紋を精巧に彫っていく、熟練工の技術を駆使して印刷の原版を完成させていきます。 同時に印刷産業の持つ、IC (集積回路) などのエレクトロニクス部品を製造する電子工学技術もその作業のなかで活用しており、いわば熟練の腕と最前線の科学技術をフルに生かすことで、あの0.07ミリの文字が実現できたといえます。
用紙は、丈夫できれいなバイブルペーパーを使用します。 しかし、そのままで印刷にかけると、0.07ミリの文字は紙の表面の小さなケバだちにまぎれてしまい、じゃまされ、汚れてしまいます。 それを防ぐために、表面をより平らにする“空どおし”をほどこしました。 これは、インキを使わないで印刷機に紙を通し、紙の表面にプレスをすることです。 インキについても、既製のインキでは使いものになりません。 その本ごとに、インキメーカーにマイクロブック用のインキを注文しています。
製本は、熟練工の手作業で仕上げます。 製本は糸が使えませんので、ジグザグに折って綴じる経本折りを採用しています。 ベテランの職人が折り、のりづけし、専用のカッターで裁断していきますが、1日に1人5冊が限界といわれています。
先ほども述べたように、ウルトラマイクロブックは、印刷産業が開発したIC (集積回路) チップやLSI (大規模集積回路) の製造方法の応用など、長年培ってきた電子工学的な技術の結集であると同時に、熟練工による手作りの工芸品的な面を持ちあわせています。 また、大量生産が困難なため、市場に出回っている数が少なく、マイクロブックマニアには貴重な商品となっています。
しかしながら現在、熟練工の減少により、再びウルトラマイクロブックに挑戦することはなかなか困難な状況になってきました。 ウルトラマイクロブックという商品とともに、それに関わる熟練工の技術をいかに後世に伝え、残していくかが今後の印刷産業の課題といえるでしょう。
有価証券は、財産としての権利を持つことを証明する機能や金銭取引の機能を備え、社会的にも重要な役割を担っており、その製造や発行には細心の注意が払われています。
一般に、証券といわれるものには紙幣・株券・受託証券・小切手・手形・各種領収書などがありますが、この他にギフト券や商品券類など金券といわれるものも厳格な管理を必要とし、印刷会社では証券と同等の扱いで生産されています。
有価証券が備えていなければならない条件として、
これらの諸条件を満足させるために、証券印刷の分野では製版方法や印刷方法に通常では使用されない特殊な技術や設備を用いていますが、この中に微細化技術の一部が応用され偽造防止などに役立っています。
近年、カラーコピー技術の進歩により偽造品の精度が高くなっており、そのための偽造防止技術も高度になりました。
たとえば、マイクロ地紋という手法は、極めて微細な文字や模様からなる地紋のことで、これは肉眼では判読困難なばかりか、コピー機で複写しても鮮明に再現できません。 そのほか地紋などに“COPY”や“ニセモノ”などの文字を、肉眼ではわからないように点の構成で組み込んでおき、コピーした場合にその文字が現れるようにすることも可能です。
また、地紋の模様も、世界に数台しかない細紋彫刻機で精密かつ繊細な線による複雑なパターンを作ったり、永年の熟練による個性的な手彫り彫刻などを組み合わせます。 これを印刷用原版として使用することにより偽造防止効果が高められています。 現在、日本の有価証券類は世界に誇る品質を持っているといえます。
印刷会社は早くからエレクトロニクス分野に関わり、本来、印刷技術を基礎として発展してきた写真製版技術の長年にわたる研究の結果、機械加工では不可能な1ミクロン以下という極めて精緻なパターン (回路設計) を作り出すことに成功しています。 この精緻な技術が各種のエレクトロニクス製品の部品を生み出し、エレクトロニクス技術の発展に大いに役立っていると同時に、今では大手印刷会社の事業の重要な柱になっています。
たとえば、フォトマスクはIC、LSIの中の精密な回路の原版、ネガの役割を果たす、厚さ2ミリ、1辺が15センチ程度のガラス板です。 印刷会社では、表面にいくつもの集積回路の超微細パターンが規則的に描かれたフォトマスクを生産しています。 このフォトマスクを電子部品のメーカーで、印刷工程でいうところの製版のようにシリコンウエハー(単結晶のシリコンのかたまりを薄く切り取った板) に焼き付けることにより、集積回路の大量生産が可能になっています。
フォトマスクの製造工程は、まさにマイクロブックの製作と同様に、まず精密なパターンの設計図を、原寸の約200倍から400倍の大きさに拡大して作り上げます。 それを写真製版の技術で縮小していくというものです。 超LSIは、集積度が従来のLSIよりはるかに高く、パターンも極端に微細化されており、現在では印刷会社の持つ最新鋭の電子ビーム露光技術を利用したフォトマスクの製造方法が開発されています。
そのほか、印刷産業は半導体関連のリードフレーム、多層プリント配線板、ビデオカメラやパソコンのディスプレイに使用されている、液晶カラーフィルター、テレビのブラウン管用高精密シャドウマスクなどさまざまな精密電子部品を手掛けています。 これらの製品にはあらゆるところに印刷産業のマイクロ化技術が活かされており、厳しい基準をクリアした極めてクリーンな環境の工場で開発、製造されています。

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