■第1回:「Jリーグの"おもしろデータ"は誰が作っているのか」
爆発的な人気を呼んだJリーグは、プロ野球を超えて日本の国民的スポーツとなる勢いを見せています。その人気スポーツに印刷会社はどう関連しているのでしょうか。
平成5年5月15日干後7時、東京神宮の国立競技場は5万5,000人の大観衆でぎっしりと埋めつくされた。多くの若者は、これから始まるJリーグの開幕試合、ヴェルディ川崎と横浜マリノスのキックオフに先立つセレモニーの雰囲気に酔いしれている。
10代前半から20代前半の若者をこれほどまでに熱狂させるサッカーの魅力は、どこにあるのだろう。ラグビーや野球、その他のスポーツとサッカーとは、どこが違うのか?そのスピード? あるいはファンをサポーターと呼ぶ雰囲気作りのうまさ?
これについては、大人たちは色々解析しているが、本質的な若者の気持ちなど言葉では説明することが難しい。結局は今、この会場にいて、この雰囲気の中で、試合に溶け込める人種でなければ理解できないことなのかもしれない。
さて、このサッカーファンの中心となるファミコンで育った世代にとって、「印刷」はコミック雑誌を作るための技術であり、本を読むということは、本の1ページを画像としてとらえて内容を解してしまうということに他ならない。
サッカーにおいても、事情は同じように思える。競技場を一つのテレビ画面としてとらえる彼らにとって、そこで演じられる試合は、まさにファミコンゲームに登場するドラマと同じであり、球技場全体のムードを丸ごと感じることで試合を楽しんでいるかのようだ。
この同じ時期に関西を中心に「にせ1万円札事件」が発生した。
印刷の技術が大きく関与した事件であったが、これすら印刷との関わりはほとんど話題にならず、私たちの身近にあるCD(現金自動支払機)との関係に興味が集まりクローズアップされたのである。
ましてやJリーグサッカーの試合に「印刷」が大きく関与していることを知っているのは、5万5,000人の観衆、いやテレビを見ている3,000万人以上の人々のうち、関係者以外では1人もいないのではないか・・・。
翌日の新聞には当然、試合の結果が報道された。試合の先発メンバー、試合結果、チームランキング、得点ランキング、観客動員数、今後の試合日程などについては、どの報道機関とも同じ内容だ。それも当然のこと、これらの情報はすべて、じつは、東京の大手印刷会社が一手に配給しているのである。
社団法人日本プロサッカーリーグ[Jリーグ]はこの印刷会社と、公認データセンターとして、同リーグが所有する加盟チームの選手、試合、ファンクラブなどに関する情報や、その周辺情報を原データとするデータベースを構築して、その運用業務を委託する契約を結んでいる。
もう少し詳しく説明しよう。
毎週行われる公式試合の試合会場で、公式記録員が専用のコンピュータ端末を用いて、得点の経過やシュートを打った選手など公式のスコアを入力する。
入力は試合を見ながらリアルタイムで行われ、シュート、ゴールキック、コーナーキック、間接フリーキック、直接フリーキック、ペナルティキックなどの情報が試合経過に則してデータ化されているわけだ。だから、試合が終わると同時に記録は完成していることになる。
会場で入力されたデータは電話回線を使ったオンラインでこの印刷会社のデータセンターに送られ、ホストコンピュータに蓄積される。データセンターでは、新聞社や放送局、出版社などのマスコミ約50社に対し、このデータをもとにした速報データを無料でサービスする。
一方、ホストコンピュータに蓄えられたデータは色々な切り口で加工され、パソコン通信でも提供されている。
たとえば、
これら"面白データ"は、コンピュータ上でいくらでも簡単に作ることができる。この面白データ集と、試合結果などの直接情報とを組み合わせてパソコン通信用の番組を編集し、ネットワークを通じて提供しているのである。さらに将来的には、ファックス通信や文字放送などの会社向けにも提供されるようになるという。
ここで簡単に「電子編集システム」という技術を説明しておこう。
20年前までは、「印刷」は鉛で作られた活字を1文字ずつ拾って組み合わせて文章を作り、それを印刷版として紙に印刷することがほとんどだった。ところがコンピュータの急速な発達により、1文字ずつ拾っていた活字に代わって、キーボードで簡単に文字を入力して文章を作り、印刷版として出力するようになった。
活字を使っているころは、印刷が終わると、組んだ活字を溶かしてただの金属に戻し、再度活字として作り直して使っていたが、一度コンピュータに入力された文章はフロッピー・ディスクなどの形でデータとして蓄積・保管され、色々な条件を変えることにより、何度でもどのようにでもデータとして加工し、利用することが可能となった。
たとえば、小学校の同窓会名簿を考えてみよう。
一度各人の住所、氏名、年齢、職業などの情報を入力しておくと、名簿としての印刷はもちろん 会費未納者の一覧や、勤務地が大阪の人だけの一覧とか、会社別一覧なども瞬時に打ち出すことができ、それを印刷することもできる。また、CD-ROMの形の出版物に加工して電子出版したり、パソコン通信に乗せてより多くの人に直接利用してもらう・・・といったマルチメディアへの展開も一般的になってきている。
これまでの「印刷=書籍・本」といった概念からはますます離れて行き、いまや「印刷=情報」というイメージでなければ理解できないくらいに印刷の世界は進化し、広がっているのだ。
また、会場で若者が口にするキャンデー、ガム、ポテトチップなどの包装紙にも当然Jリーグのマークが印刷されているし、小冊子、カレンダー、月刊誌、ポスター、選手年鑑、スコアーブック、会員カード、ステッカーなど、「印刷」が多くの部分で関連している。
しかし「印刷」それ自身が若者や、生活のなかに自然に受け入れられているのに、現実には「Jリーグと印刷との関係」は、多くの人に認識されてはいない。
もちろんJリーグに限らず、「印刷」は私たちの身の回りのあらゆるところで、私たちの生活がエンジョイできるように支えてくれているのである。

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