■第4回:「遠い外国での競技の感動を伝える技術」
印刷は速報性ではテレビにかないませんが、その画面の美しさ、精緻さの面では比較にならないくらい優秀。 そして、画像伝送技術により速報性も改善されてきました。
最近の新聞は、オフセット輪転印刷化が進み、白黒写真もきれいになり、カラーページが急増したこともあって、以前に比べて各段に美しくなっている。 しかし、この日の一面に載った浅利純子選手の写真は、なぜか不思議と迫力がない。
その日の午後、銀座を歩いていたら、速報写真ニュースのコーナーで、同じシーンをとらえた鮮明で高精細な写真が目に入った。 しかもこの写真からは競技場の感動が強く伝わってくる。
同じ写真でも、このように読者に与える印象に大きな差があることを知らされ、あらためてスポーツ、特に外国におけるスポーツイベントとその報道記録写真についてすこし考えてみた。
世はまさに情報化社会のまっただ中にある。 町にはさまざまなメディアによる情報が氾濫し、次の世代の主流を奪おうと、あの手この手でニーズを模索し喚起している。 映像の世界では、テレビからクリアビジョン、ハイビジョンへ、その精緻さを求めてさらに高精細へと技術開発が進められている。
テレビ全盛の時代、地球の隅々からさまざまなニュースがテレビ画面を通してただちに茶の間に伝わってくる。 私たちはいながらにして世界の動きを知ることができる。 この情報化社会の中で私たちはより新しいニュースを求めているが、同時にその中で綺麗な画像をも求めているのに気がつく。
ハイビジョンの受信装置が 100 万円の大台を割り、放送も本格化してきた。 これからはさらにこのハイビジョンが普及し、高品質化へ欲求はますます高まっていくだろう。
テレビやビデオにより優れた映像を求める気持ちの裏には、何があるのだろう。 単に綺麗な画像が欲しいだけではなくて、その中で演じられている本当の姿を知りたいと思っているのかもしれない。 だからこそ、自然現象やスポーツイベントに、より綺麗で鮮明な映像を求める傾向が強いのか。
綺麗で、高精細な画像を得るには現在のところ写真がもっとも優れている。 そしてその写真の画像をできるだけ忠実に再現し、より多くの人に安価に提供するために 「印刷物」 はまさに最適な媒体である。
ハイビジョンが綺麗で高精細な画像の再現が可能であるとはいっても、それは一般のテレビ画像と比較したときの話であって、印刷物とはまだまだ比べものにならないのだ。
次のデータを比較してみるとその違いがよくわかる。
カラー印刷物のデータ量は、A4サイズで 47 メガバイト、ハイビジョン画像の1画面は 6.4 メガバイト、一般のテレビ画像の1画面は 1.1 メガバイトの情報量でしかない。 つまり一般の印刷物はテレビの数十倍のキメ細かさを持っていることになる。
写真がスポーツの感動シーンを伝えるのに最も優れているならば、その写真をより早く印刷物として提供する方法が求められるのは当然である。 国際競技大会などにおける感動的シーンをいち早く読者に提供することは、出版やマスコミの強い要求となり、印刷会社にとっては解決を急がれるテーマとなる。 特に、先のバルセロナ・オリンピックのように地球の反対側のような遠隔地でのイベント報道となると、時間というファクターが最大の問題となる。
もし、写真を飛行機で送ったとしたらバルセロナ〜東京間で約 30 時間以上もかかってしまい、速報性が失われてしまうからだ。
このシステムを利用するには、まず、撮影された感動的で劇的なカラー写真を競技場近くの送信センターに持ち込み、そこで入出力スキャナーという写真を処理する機械にかける。 この機械はカラー写真を印刷に必要な黄、赤、藍、墨の4色に色分解し、そのそれぞれの単色情報をデジタル化するためのもの。
さらに、このデータを効率よく伝送するために画像圧縮が行われる。 圧縮されたデータは、現地に設けられた地上局からインテルサットを介して日本の地上局へ伝送され、その後は国内の通信回線を通じて印刷工場に送られる。 印刷工場ではデータの復元作業が行われ、印刷版が作られるのである。
このシステムを使えば、写真がバルセロナの送信センターに持ち込まれてから印刷工場で印刷版が製造されるまでの所要時間は、およそ2時間ほど。 写真空輸での 30 時間に比べると約 15 分の1の時間となり、日本の国内と同じ感覚で原稿を扱えることになる。
これまで技術的に多くの解決しなければならない問題点もあったが、それがほぼクリアされた現在、より多くの読者に、より早く、より鮮明な画像を送るという目的が達成された。 さらにこの技術の開発は、印刷産業の未来に大きな影響を与えるものと考えられている。
その影響とは次のようなものだ。しかし、先の画像伝送がナマの写真原稿と品質的に遜色なくなり、コスト的にも割高でなくなれば、 印刷工場に必要な立地条件は全く変わってくる。
工場の立地には、用紙の受け入れや印刷物を供給するための物流が最優先され、交通の便利な場所がまず求められる。 つぎに従業員、安価な土地、電力、水などが確保できるかどうかが要因となる。 そして印刷に必要なデータや情報は、通信回線を通して送られ、印刷版が作られるわけだ。
このように印刷工場は都心型から郊外型、そして地方分散型に変わることになり、印刷産業の構造も大きく転換するかもしれない。
今後もこの画像伝送技術を使って、世界各地で催されるさまざまなイベントの躍動する写真が、鮮明に、いち早く私たちの手元に送られてくることだろう。
そこには、印刷技術が大きく関係している。 写真から印刷物を作成する作業は、印刷会社にとって日常の仕事であるが、この日常の作業を利用して地球の反対側から、高精細の画像を通信衛星を通して送り、印刷物とする試みは、きっとスポーツの未来にも大きな影響を与えるに違いない。

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