■第5回:「カー・ナビゲーションシステムの地図」
最新技術の結晶であるカー・ナビゲーションシステムにも、印刷技術が大きく関係しています。 印刷技術は、このシステムをさらに安価にする可能性をも秘めています。
都心における交通渋滞は慢性化されているから、それなりに覚悟をしているのでイライラの度合いも少ないが、レジャーでドライブに出かけてひとたび渋滞に巻き込まれると、そのイライラはピークに達する。 何とかして渋滞から逃れようと、すいている迂回路探しに地図帳を開き、より早く目的地に到着したいという気持ちになるのは当然だろう。
あるいはまた、知らない土地で、食事時なら食堂はないか……、眠気が出てきたら喫茶店はないか……と、周囲をキョロキョロしながらの運転はけっこう危険だ。
このような車を運転している状態で、安全性を確保しながら、より効率的に地理情報を得たいという要求に答えたのが 「カー・ナビゲーションシステム」。 現在の自分のいる位置が地図上に明示され、周辺の道路はもちろん、求めに応じて、その位置から最も近い駐車場なり食堂、レストランなどを教えてくれるシステムである。
“ナビゲーションシステム”とは、移動する物体を安全に効率よく目的地に導くための 「航法技術」 のことで、もともとは船舶に使われる用語だった。 ポイントは現在の位置を把握し、目的地に向かっていかに効率よく導くかということにある。
現在、自分の位置を測定する方法には色々あり、外部から得られる絶対位置情報を利用する方法や、地磁気センサーなど車内に設置したセンサーを使用する方法などが提案されている。
外部からの絶対位置情報を利用する方法の一つが、人工衛星からの電波で位置測定を行う 「衛星航法」。 これは、アメリカ国防総省が打ち上げた軍事衛星が発する電波を位置測定に利用するGPS (Global Positioning System=全地球的側位システム)を利用したもので、経度、緯度の測位ができる
GPS衛星は現在、地上2万kmに23個打ち上げられており、1日24時間の位置測定がほぼ実現している。 最終的には6つの軌道に4個ずつ、合計24個の衛星が打ち上げられ、常時3つの衛星で2次元、4つの衛星で3次元の情報が得られることになる予定だ。
もう1つの方法は、磁気センサー (コンパス)、ジャイロ (回転機) センサー、左右車輪速差センサー、ガス流方位センサーなどを車に装備し、そのセンサーを利用して、車の動きを判断し、位置測定を行う自力 「推測航法」 である。
これらの位置情報にCD−ROMやICカードに収められた地図データベースを突き合わせることにより、正しい現在位置を知ることができる。 現在のマップマッチング技術では、自分の位置を地図上に十数mの実用的な誤差範囲で表示できるほどの精度になっている。
まず位置情報を表示するには、地図が必要となる。 この地図をCD−ROMやICカードに記録させる技術は、やはりこれまでに蓄積された印刷技術を用いるのが最も効果的でしかも安価に行うことができる。 地図を作成し、コンピュータに読み込ませ、データを加工し、利用のための読み出す技術は、じつはこれまでに印刷会社が印刷物を作製する工程の一部とほとんど同じなのである。
また、ハードの面においても、画像表示にはほとんどが液晶表示装置が用いられている。 この液晶表示パネルの製作には、印刷技術が多大に利用されているわけだが、この辺については別の機会で紹介することにする。
ただ現在、このシステムは徐々に普及してはいるものの、もうひとつパッとしていない。 その大きな理由として、アプリケーションソフトの開発の遅れと機器価格が高いことがあげられる。 この種のカーアクセサリーはふつう、高級車から順次普及していく性質のものだが、この商品の場合普及の中心はやはり若者で、その点では安価であることが大きな理由になる。
それにアプリケーションソフトの充実も不可欠であり、その基となる規格の統一化など、業界としてこの問題に取組む体制を早急に強化する必要がある。
このアプリケーションソフトの充実を目的として、最近トヨタ自動車、日産自動車が中心となって 「CD−CRAFT」 という規格をきめた。
この規格は、CD−ROMディスク読取り装置を組み込んだ 「車載情報表示システム」 の上で作動するCDソフトのフォーマットを決めたもので、各種車両情報のうち現在位置、方位、車速、走行距離、標準地図データベースの呼び出し、目的地などのメモリー機能、カレンダー情報などを利用できる。 そのほかに文字情報、自然画像情報、音声情報などを付加したシステムも利用が期待できる。
さて、最近の記憶素子はマイクロエレクトロニクスの発達により、記録できる情報量の急激な増加が見込められるようになってきた。 しかしそれでも、その記録容量には自ずから限界があり、「印刷物」 の情報量に比べたら、まだまだ劣っている。
地図情報をデータベースとして保有するといっても、あの道路地図を全部デジタルデータとして保有するとともに、駐車場情報、食堂、レストラン情報、公共機関、その他の情報をデータベースとして持つとなると、それは膨大なメモリーが必要となる。 その点、これらを紙なりフイルム状の印刷物として持っていて、必要な時にそれをセットし、この上に位置情報が表示されるようになれば、あえて大量な情報量を必要とする地図情報をデータベースとして保有する必要がなくなる。
また、情報の加工も印刷物として扱うことができるため、多様化するニーズへの対応も比較的容易に、しかも安価に作成することが可能となり、普及に拍車がかかるはずだ。
さらに表示装置もカラー液晶パネルなどのような高価なディスプレー装置は必要なくなるので、価格も従来の1/2程度と安価になる。 この技術開発はやはり印刷の技術が中心に応用され、印刷会社の出番なのである。
この道路交通情報通信システムは現在、道路の混雑状態をリアルタイムに把握し、交差点の信号機をスムーズに連動させて混雑の緩和に役立てるほか、「道路情報」 としてラジオやテレビなどの媒体を通して運転者に混雑状況を提供するために利用されているもの。 同じ情報をカー・ナビゲーションシステムと連動させ、目的地までの最も空いている道路を地図上に自動的に表示させることを可能にしようというわけだ。
とりあえず渋滞から逃れられる抜け道を教えてくれるだけでも、ドライバーにとっては救いの女神のようなシステムになるはずだ。

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