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14と、企業にとってコスト増になるため悪影響はさけられない。打つ手のない八方塞の状態になっているが、AMAが米国郵便事業のリストラに神経質になっている理由は、カナダの郵便事業の前例があるからである。カナダの郵便事業のリストラカナダでは、65年から97年にかけ郵便事業が19回のストライキを起こそうとしたが、企業の代金回収や消費者の年金小切手の受け取りに大きな支障をきたすため、企業と国民から政府に強い圧力がかかり、7回のストライキを強制的に阻止させた。しかし、2011年6月のストライキでは、政府の強制的な動きはなく、企業も国民もまったく関心を持たなかった。カナダでは、もはや郵便事業を不可欠なサービスと見なさなくなり、依存度が下がっている証である。今カナダでは、年金給付の91%は電子振込みとなり、95%が電子決済(AutomatedClearingHouse)されている。米国に先駆けてカナダは郵便事業のリストラを断行し、その結果、利便性が低下し、不のスパイラル連鎖を招いてしまった。土曜日配達を廃止し、さらに1985年以降に新築された家屋への配達を停止、街角に緑色のメールボックスを設けるシステムに変えた。そのため、企業から送られる請求書や通知物の電子化が加速し、郵便箱を開けても入っているのはDMのみになった。郵便物はほとんどが読まれず、家に持ちこまれる前に、ゴミ箱へ捨てられてしまっている。家から離れた場所にある街角のメールボックスを、毎日掃除に行くようなものになった。何のための郵便事業かと、その存在意義が疑問視されつつある。カナダCarlton大学のLee教授は、カナダの郵便事業は、もはやビジネスモデルとして成り立っていない。カナダ国民の10%にとっては郵便事業は不可欠なものではあるが、残りの90%にとっては無くても生活に支障をきたしていない。しかし、郵便事業のユニバーサルサービスを維持するために、人口は増加傾向にあるが取扱量が減少する中、インフラを整えなくてはならないジレンマを抱えている。郵便事業のユニバーサルサービスが廃止されると、UPSやFeDexを使うことになり、配送料金が現状の1.60ドルから4.00ドルに跳ね上がってしまう。このように人々に欠かせない郵便物の配送事業を、DMなどのバルクメールによって支えているモデルは、健康的なものではないとLee教授は指摘している。そもそも郵便事業が国営となったのは、英国の王室が国民の革命を恐れて、通信手段を監視するため、ロイヤルメールとして国営化したのが発端。その後、政府が国民の対話を監視する手段とした国営モデルが、英国から世界へ広がっていった。それが今、ユニバーサルサービスの議論に入れ替わった。カナダも米国もユニバーサルサービスが理由で民営化が進んでいない。民営化で成功しているドイツポストのように、様々なサービスを付加しようとすると、民間企業との不公平が発生すると強い抵抗にあってサービスの拡大ができない。そこで、事業の合理化により規模を縮小し、サービスを削減するしかない。サービスをカットすれば不便を招き、利用が減少していくというネガティブスパイラルに陥ってしまう。米国とカナダの郵便事業は、このままだと破綻することは間違いないとLee教授は危惧する。郵便事業はインフラビジネスである。インフラが衰退すれば、その周辺のビジネスも衰退は避けられない。