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22ものの価値は誰が決めるのか?出版不況といわれている中で出版した「新しい市場のつくりかた」は、お陰さまでご評価をいただいております。この本を書くにあたって、色々な出会いがありましたので、その中からお話します。まず、三菱重工さんです。この会社は、日本を代表するような技術を持っている会社ですが、一時期、経営的な課題を感じていたというお話を伺いました。課題とは、新しい事業を興せていないということでした。約30年前、造船事業を発展させてボイラ一事業に乗り出し、新しい事業になったのですが、それ以降、新しい事業がありませんでした。三菱重工のように130年くらいの歴史がある会社は、一つのビジネスだけで企業が残れるものではないことは解っているのです。ですから、時々、新しいビジネスを生み出す必要性を感じています。そんな時に、出てきた新しい事業のきっかけがジャイロセンサーでした。ジャイロセンサーとは、物体が高速回転運動すると、一定方向に向く作用があります。それを船や飛行機などに搭載すると、同じ方向を示す役割を果たします。三菱重工では、宇宙開発事業団(JAXA)に依頼されて、高性能のジャイロセンサーを作りまし■新しい市場のつくりかた市場創造と新文化開発た。結果としてJAXAに採用されて人工衛星に搭載されました。ですが、ものづくりとしては成功しましたが、事業としてはどうなんだろうという反省があったそうです。なぜなら、人工衛星用だと、1年にいくつかしか使われませんから、ビジネスにならないわけです。ある時、イタリアの世界有数の高級クルーザーメーカーから、引き合いがきたそうです。その会社は、港にクルーザーが停泊している時に使いたいと言いました。高級クルーザーともなれば数億円します。そういうクルーザーを持っているオーナーは大金持ちです。そうした人達が、例えば地中海でクルージング中に、港に停泊してクルーザーでパーティーを開くことがあります。そうした時にグラスにワインを注いでも波立たせたくない、ピタリと止まるようにしたい。そのために、高性能なジャイロセンサーが必要だと言ったそうです。思ってもみないジャイロセンサーの新しい市場でした。このことから解るのは、物の価値と性能は別だということです。いくら三菱重工が技術の粋を集めて超高性能のジャイロセンサーを作っても、それだけでは価値がありません。ジャイロセンサーに価値を持たせるのは、社会が使いこなす生活習慣や文化があってこそなのです。ヨーロッパの富豪達が、クルーザーが停泊してい専修大学経済学部准教授三宅秀道氏何事も便利な現代社会において、新しい市場を創造するためには何が必要か。市場創造には、新しい技術や資金ではなく、問題を発明するアーティスティックな感覚が必要だという。理系出身者が多いメーカー企業の開発部門の中で、新しいものを発明するには、決められた答を探求する理詰めではなく、どんな問題があって、どのように解決できるのかを描き出す力が必要だからだ。8月21日、ホテル椿山荘東京で開催された日本フォーム印刷工業連合会の平成26年度夏季講演会における専修大学の三宅秀道准教授の講演「新しい市場のつくりかた」から要旨を紹介する。