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23る時は揺れていてもいいと、自分達の賛沢なこだわりの実現に妥協していたら、超高性能なジャイロセンサーの価値がないわけです。つまり、物の価値とは、機能や性能ではないのです。社会に性能を活かす文化があることが価値を支えているのではないかと思います。例えば衛星には、気象衛星や放送衛星など色々あります。そういう衛星を打ち上げて、情報をやりとりして暮らしに役立てる文化が人類にあるから、人口衛星を打ち上げる価値があるのです。利用できる文化があってこそ、価値が生まれる物の価値、商品の価値には、その大前提として文化が必要だということです。世の中に、それを使いこなして、メリットを引き出せる社会側のポテンシャルなどがあることが必要です。文化が衰えたり、廃れると価値はなくなります。でも、こうしたことは、同じ技術者の中にいると気づきにくいことなのです。ここで、日本史における大きなリストラの事例を紹介します。今年から約400年前、1614年、大阪夏の陣がありました。大阪夏の陣で100何十年か続いた戦国時代が終わりました。大阪夏の陣で豊臣家が徳川家に滅ぼされるまで、戦国大名たちは鉄砲職人を育てて、打撃の精度や製造技術、あるいは使い方の技術を磨いていました。でも、徳川家が天下をとった瞬間に、日本のコンセプトがガラリと変わります。最後に強いものが残るという勝負の時代から、平和な時代へと社会基準、コンセプトが変わったのです。だからといって、これまで磨いてきた技術をなくすことはできません。そこで鉄砲職人は、これまで水平方向に打っていたものを、上に向けて打つようになりました。つまり、鉄砲職人から花火職人に配置転換をしたのです。鉄砲も花火も火薬を扱いますから、ちょっと用途を換えて、綺麗さを競うようになったのです。これと逆の例が西洋史にあります。フランス革命の時代、ブルボン王朝に雇われてベルサイユ宮殿で花火を打ち上げていた人達がいます。しかし、フランス革命でフランスを追われるのですが、この時に追われた貴族達が向かったのは、新大陸のアメリカでした。当時のアメリカはネイティブアメリカンがいたり、原野が広がっていた時代です。そこで、それまでの花火の技術を、仕事変換して火薬の職人となり、銃を作るようになります。それが広がって、今では総合化学メーカーになっています。その一族が、デュポン一族です。その会社だから生まれるヒット商品がある。例えば、品川区にファイン株式会社という会社があります。同社はもともと、衛生資材という単なる歯ブラシ屋さんでした。この会社が5〜6年前に発売してヒットしたコップ「Uコップ」があります。普通のコップとは違うところが、飲み口です。コップの飲み口は普通、水平ですが、これは片側が少し斜めになっています。このコップは、ある特殊な事情や状況にある方に大変役立つコップです。例えば交通事故にあって鞭打ちになって首を固定しないとならない、寝たきりになって体を起こせない、障害などで関節が固くなって首が曲がらないなど、首を曲げられない方が結構いらっしゃいます。そういう方が水やジュース、液体の薬などを飲むときに役立つコップです。普通のコップだと、首を曲げずに何かを飲み干そうとすると、コップの縁に鼻がぶつかってしまいます。首を曲げることができる人には問「Uコップ」を説明する三宅秀道氏