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24題ありませんが、首が曲げられない人には大変です。でもこのコップであれば、鼻がぶつからずに飲み干せます。この商品の性能や技術は、普通の樹脂のコップと変わりません。でも、一般的な樹脂製のコップの何倍もの値段で販売されています。なぜなら、このコップでしか解決できない問題があるからです。今ここでお話を聞いた方は、このコップの使い道を知ることでこのコップの価値がわかったと思います。つまり、なるほどと思ったことで、モノの見方が変わったと思います。ということは、このコップの価値を支えているのは、知識、認識、ものの見方なのです。物の価値は、文化であると同時に、その文化を頭の中に知識・認識として持っているということなのです。世の中には困っている人がいて、問題を抱えているという問題認識があるかどうかです。そこで、どういう問題を見出すかです。例えば、世の中に首を曲げられない人がいて、コップで水を飲み干すのに苦労しますと言われるまで、このコップには価値がありません。問題を知り、このコップで解決できると思った時に意識の中におきている変化が、思う側のグレードアップなのです。世の中にはそういう課題があり、それを解決する商品があるという認識ができることで価値が生まれます。つまり、物や技術を磨いても、使う人の認知・認識がグレードアップしなければ価値がありません。また、世の中の問題に対して、どう把握するか、定義するかということがあります。答えは一つではないのです。このコップは、たまたま歯ブラシとか衛生器具に関係のあるファインという会社が提案したものです。老人ホームなどに営業に行ったときに、飲み干すのが大変だというのを知ったことから生まれました。それがもし、食器屋さんだったらストローでいいんじゃないかと思うかもしれませんし、薬品会社の人だったら、液体の薬を飲む時にはカプセルにしてもいいじゃないかと思うかもしれません。「問題」とは、発見される対象ではなく、発明される対象なのです。自分が今までどういう業界にいて、どういうものづくりをしてきたか。どういう職業でも、人は引き出しを持っています。それぞれが持っている引き出しの中で、ものの見方が決まり、ものの見方に照らし合わせます。問題を見る時、背負っている人生、それまでの教養が反映されてくるのです。発見と発明は違う発見と発明の違いは、人間が意識化する前から決まっているのかもしれません。例えばコロンブスのアメリカ大陸の発見とか、ニュートンの万有引力の発見などは、人間が知る前からあったものです。発明品というのは、発見する前からあったのではありません。人間のクリエイティビティの産物です。問題意識自体は、人間のクリエイティビティでいかようにも、色々な可能性を持ち、設定・定義し得るものなのです。製品開発の一番最初のプロセスは、どういうものでしょうか。こういうサービスが世の中にあったら素敵だねとか、こういう幸せが生めるじゃないか、というのは企画です。企画とは、世の中にこういう問題があるということを設定することから始まります。その設定は、自分の人生の引き出しから絵を描いていくようなものなのです。だからクリエイティビティなのです。絵を描いたり、作文を書いたり、作曲をしたりするのと同じように、どういう世の中にしたい、この問題を解決できたらいいと、問題を定義できること自体がアートなのです。その問題設定に照らして、どうやったら問題解決できるのかを考えることが理詰めのプロセスで、サイエンスの部分です。でも大半の製造業の開発部の方々は理系の方です。理系の方々は、すでに人間が知る前から、あらかじめ決まっている自然法則について、知ろう・解ろうというものの見方に染まっています。だから商品開発の一番最初はサイエンスではなく、アートですと伝えると驚かれます。でもそれは、否定しようのない事実です。