■ページ本文テキスト■

25ものを使う文化まで生み出す墨田区両国のフットマーク株式会社という会社があります。この会社の会長の頭のサイズは、日本中の小中学校の生徒がプールの授業で被る水泳キャップのLサイズと同じです。1970年頃、日本中の小中学校の生徒が、水泳の時に水泳キャップを被ったらいいのにと開発した方です。その時に自分の頭をLサイズの基準にしたのです。昔はスイミングキャップといえば、髪の長い女性が被るもので、あとは水泳の選手が被るぐらいでした。でも、今は当たり前のものになりました。その理由は、約40年前、そうなるように仕掛けたからです。当時は磯部商店という従業員8人くらいの“零細家族企業”だったといいます。磯部商店は、オムツカバーをつくる会社でした。昔のおむつは布製ですから、赤ちゃんがしたものが漏れると大変なので、それをカバーするゴム引き布を作っていたのです。それが1970年頃、黒船がきます。アメリカのP&Gが作ったパンパースです。最初は、同業者の人も日本には普及しないと思っていました。でも磯部さんは、手も汚れないし、これはおそらく普及すると思って、その時から布製のおむつが前提になっている自分達の商品が、駄目になるのではないかと危機感を持ったそうです。第二次ベビーブームの頃です。ある時、第二次ベビーブームの子ども達が小学校に上がるくらいまでの聞に、全国の小中学校にプールをつくって、全国の夏の体育をプール教室にしていくという方針が打ち出されたという新聞記事を読みました。それで磯部さんは、これだと思ったのです。磯部商店の得意な素材がゴム引き布です。それまでも、細々とですが、髪の長い女性向けのスイミングキャッフを作っていました。そのスイミングキャップを女性以外も被るようになれば、需要が大きくなって、オムツカバーの需要減少をカバーできるだろうと思ったそうです。でも、待っているだけでは、世の中の生活習慣は変わりませんから働きかけようと、新しい暮らしの価値観、評価軸を作ったそうです。つまり、全国の小中学校で夏の体育教育が新しくなるなら、問題が定義できるだろうと考えたのです。プールで泳ぐようになれば、先生は指導するために一緒にプールに入ってなどいられません。つまりプールサイドから見下ろさないといけない。その時に、子ども達を識別する問題があるのではないかと。子供の力量の差にあわせて指導するためにも、1人1人を識別する必要がある。そのときに、水泳帽を使ったらどうでしょうかという提案ができる。今、水泳キャップは当り前のものですが、磯部さんが仕掛けたから今があるのです。磯部さんも、他の人が仕掛けたら、他の可能性もあったとおっしゃっています。もちろん当時、ダイレクトメールの業者はなかったので、家族総出で全国の小中学校の校長先生に向けて手紙を書きました。できるだけ効率をよくするために生徒数の多い学校から送っていき、反応のよい学校に営業に赴いたそうです。手紙を受け取った校長先生は、面白そうだと反応すれば、体育の先生に見せます。体育の先生は、どうやって指導したらいいのだろうと思っているところへ、カリキュラムに必要な水泳帽のサンプルが送られてきて、こういう使い方ができたら、指導がラクではないかなと思うわけです。送った内容には、水泳帽の紹介だけではなく、このように使えますということまで書かれている。つまり、水泳教育文化まで伝えていったのです。ここから夏の体育の授業に使う習慣が広がって、新しい市場ができたわけです。一度、全国の小中学校に広まったら、仕入先を変えるということもあるかもしれませんが、ファーストランナーとして市場を作ったので、後から大手が参入してきても、マーケットシェアを守り通しました。やがてベビーブームが去り、少子化の時代になると、大手企業はあまりおいしい仕事ではないと判断して撤退し、今の学校用水泳キ