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26ャップの9割以上がこの会社の製品です。文化を作ると商品は拡張する技術力ではなく、自分からそれを使う文化を開発して普及させたのです。そうなると、水泳用品ならこの会社だねと信頼ができてブランドになる。一つの文化を最初に創ると、そこからお客様との関係を通して、もっとこんなことできないか、こんなことやったら便利になるのではないかというコミュニケーションのパイプが確立できます。それがブランドとして確立すると、問題点は自然と転がり込んできます。なぜなら、商品を使いこなすエンドユーザーが、もっとこうしてほしいと、新しい商品企画開発のヒントを丁寧に寄せてくれるからです。こうしたお客様がたくさんいれば、リサーチなど不要です。まるで茶室の茶道具をそろえるように、ある一連の商品が整っていく。つまり、文化の家元になるわけです。エジソンがシャワートイレを作れなかった理由なぜ、エジソンはシャワートイレをつくれなかったのでしょうか。ポンプとヒーターさえあれば、形は違ったかもしれませんが、同じものがつくれたはずです。医療用の便座はアメリカにあったようですが、1980年にTOTOが発売するまでありませんでした。製造業の課題は製造特許の問題があります。しかし、世界でたくさん特許をとっている企業は経営が順調だと決まっていません。そのうち特許貧乏ということになりかねません。つまり、技術ばかり開発して、用途開発できていないことがあるからです。新しい文化を開発するときのプロセスは4つです。それをウォシュレットで考えると、最初に「問題開発」です。トイレでお尻を洗いたいという構想です。次が「技術開発」です。温水器とポンプをつくりますが、今の時代は、既存の技術である程度がまかなえることが多いと思います。必ずしも純正でなくても、自分でやらなくてもいい。その後には、「環境開発」です。トイレに電源があるとなしでは全然違いますから、TOTOではハウスメーカーに、トイレの中にコンセントの穴をあけてくれたら、話題のウォシュレットが楽につけられるのでPRになりますと説明したそうです。こうした環境整備です。そして最後は世の中の「認識の開発」です。「おしりだって洗ってほしい」というCMがありましたが、この頃はテレビでトイレや便座とかいうのはタブーだったそうですが、このCMで広まりました。こうした4つのプロセスで整理できると思います。そして、全て自社の技術でなくてもいいわけです。そう考えると、大企業ではなくても、本気でやれば不可能ではない。簡単とは申しません。大企業に講演にいくと、この4プロセスの事業努力が統合した組織はありますかと聞きます。すると、名だたる企業の多くができていません。理由は技術開発で勝ちぬくスタイルが定着していて、残りの3つを考える習慣ができていないからです。世の中に正解があると思っています。あらかじめ決まっている正解を探そうとしても、自分から構想して、新しい日本人の幸せみたいなものを考えて打ち出して、世の中に思っていることを広めていく。そのつもりで、やっていく。自分達がやることを正解にする。それと比べて正解は追いかけるもの、探すもの、見つけるものと考えている企業は、後手に回るに決まっています。社会に働きかけて、「いいでしょ」という説得が続き、後から正解がきます。正解が決まっていて、やがて一つに終息するから、自分達は説得をしないでいいと思ってしまうと負けます。開発とは、消費者がこういうことができればいい、幸せだと思うことを働き換えていくものと思います。人の本能は、働きかけで変わります。正解がきまっていると考えるのは違うと思います。出典:ニュープリンティング(株)発行月刊『プリテックステージ』2014-10月号