話がいっぱいあって恐縮なんですが、最後「ビジネスチャンスの見つけ方のコツ」というところですが、「いやだな」と思ったら「そこにビジネスチャンスがある」というのは、一番なことなので頭に入れておいていただければと思います。
あと、チャンスの見つけ方は会社の風土から来ると思うのです。以前リクルートの「アントレ」の編集長の講演を聴きにいったことがあるのですが、そのリクルートの「アントレ」の編集長さんが最初に会社に入ったときに、先輩から仕事を任されて、その仕事をちゃんとやったら、「○○君、すごい優秀だね」と言われたそうです。お昼になって、隣のラーメン屋さんにいって、ラーメンをいっしょに食べていた先輩が「このラーメン、おいしいね。優秀だね」と言ったというのです。それでその人、自分はラーメンと同じかよと思ってすごくがっかりした、という話がありました。リクルートでは「優秀だね」という言葉がほめ言葉であることに気づいたとおっしゃっていました。それで卒業の同期の人たちに「おまえの会社の褒め言葉は何だ」と聞いたそうです。JRさんに勤めた方は「正確だね」というのが褒め言葉で、商社に勤めた人は「でかいね」というのが褒め言葉で、鹿島建設に勤めた人は「男らしいね」というのが、男の人でも女の人でも褒め言葉というのを聞いて、自分がこれから入る会社の褒め言葉を聴くと、その会社の社風がわかるからちゃんと調べましょうと話しておりました。 そのときに私は、うちの会社の褒め言葉は何だろうと考えたときに、うちの会社の褒め言葉は「おもしろいね」という言葉が褒め言葉かなと思いました。
「それ、おもしろいじゃん」と言ったら、うちの会社はそういうおもしろいことを考えたら、よしとする社風なんですね。
何を言いたいかというと、いくらいいアイデアを出しても、会社の中でそれをちゃんと活用できる環境がないと、やっぱり新しいアイデアは育ちません。若い人がいっぱい入ってきたときに、いろいろなことを言うんです。こんなことをしたほうがいいのではないかとか、あんなことをしたほうがいいのではないかと言うのですが、そのときに「そんなのだめだよ。もうとっくにやっている」とか「そんなの、だめだめ」というふうについ言いたくなってしまうんですが、言ってしまうと、そういう人たちは次から言わなくなってしまうのです。
自分が一生懸命言っているのに、そういうふうに頭ごなしに言われてしまうと、発言すること自体をやめてしまうことがたくさんあります。いくらいいアイデアがあっても、それを育てる環境がしっかりしていないと、アイデアやビジネスは育たないと思うのです。
若い人は、いろいろなことを言ったりしますが、たまにいいアイデアもあったりするので、それを否定しないで、みんなで新しいアイデアとかビジネスを育てていこうという環境を維持して持たれることが大事かなと思います。
あと、うちがいつもやっていることにメモクリップというのがあります。これもすごく良く、お金がかからないことなので、ぜひ取り入れていただければと思います。
100 円ショップで売っている小さいカゴを買ってきて、それを机の上に置いておき、何か言われたら書いて入れておく。何でもいいのです。お客さまに言われたことでもいいし、自分が感じたことでもいい。自分の名前を入れ、同じことを書かない、というのもあるのですが、そういうのをずっとやっています。
自分は冷房の真下で寒いとか、トイレが汚いとか、トイレが匂うとか、ということもありますし、どこの会社の人にこういうふうに言われたとか、どこの会社の掲示板はすごくいいとか、何でもいいのです。 新宿の伊勢丹の1階の靴売り場は世界で一番坪当たりの売上が大きい世界一の売り場だそうです。それはどうして世界一になったかというと、その100 円ショップで買ってきたカゴでそれをやっていて、お客さまに言われたことや、自分が思ったこと、感じたことを全部そこに入れるのです。社員であろうがアルバイトであろうが、だれでもいいから、お客さまに言われたことや、自分が感じたことをその場でメモを取ってそこに入れていました。それを集めてきて、そこからヒット商品がたくさん生まれています。左足と右足が大きさが違う靴が大ヒットになったとか、男性のストッキング生地のハイソックスというのもそこの売り場から生まれたヒット商品です。それも社員であろうがアルバイトであろうが、だれでもいいから、お客さまに言われたことや、自分が感じたことをその場でメモを取ってそこに入れていました。 それをうちもやって月に1回集めてきて、全体会議というところで全員の意見を全部見ていきます。その中で本当におもしろいものは、上の企画会議に上げていくんです。あと、いろいろな文句も結構あるんです。どこが暗いとか、絨毯が汚いから掃除したほうがいいとか、そういう労働環境の問題はなるべく管理部のほうに回して取り入れたりしています。
このあいだも、白板に書けないマジックが多すぎるというので「書けないマジックは処分していただけませんでしょうか」とか、そういうどうでもいいことも書いてあるのです。そういうのが1カ月1回くらい集まってきて、その中から新しいサービスも出てくるのです。
今日は発明の話から始めたのですが、根っこは同じで、要するに毎日いろいろな細かいことにどれだけ気づけるかということがすごく大事です。 私なんかよくやっているのですが、お勧めしている簡単ことは、行きと帰り道で違う道を歩くことなのです。ああ、そうか、この道に出ちゃったんだとか、ああ、こんなのができちゃったんだとか、いろいろ思うのです。毎日違う道を通るだけではなく、行きと帰り、違う道を通るだけでもいろいろな発見があるかもしれません。 いろいろなことに気がつかないで終わってしまっている人がたくさんいるのですが、私の持論としては、人間には地層があって、問題意識とかアンテナが高いと、そういうのはすごく地層にたまるのです。それは年齢とはあまり関係なくて、いろいろなことに興味を持ったり、いろいろなことに好奇心を持ったり問題意識を持っていると、いろいろなことにつまずいたりして、いろいろなことを思う。それが心の中でどんどん地層が深くなってきて、そこに雨が降るんですね。それが外的な刺激なんですが、そうすると、地層で濾過されて、下にポトッと垂れる一滴のしずくが閃きます。
ですから、地層が薄いとしずくはいっぱい下りてくるのですがあまり大したものはなく、厚いいい地層だと、すごくいいしずくの一滴が出てくる。すぐにいいアイデアが浮かぶわけではなく、全然関係ないことをしているときに、ふっと思いつくことが多いと思うのです。
それは、その人がふだん何も考えていなかったら、そんなことなかなか思いつかない。 ふだんいろいろなことを考えているから、ある拍子にポッと浮かぶことがあると思うの です。そういうふうにとにかく毎日いろいろなことに問題意識を持って、好奇心を持って、気づいたことを書き出して、メモを取る。ネタ帳を持って毎日書いて、それをときどき見直しながら、自分がいいアイデアがあったら、自分だったらどうしようと考えてみるというのは、発明だって別に大したものではなくても毎日の意識が変わってくるというか、本当にちょっとしたことがどんどん深層水になっていくんだなということを実感できるようになるのではないかなと思います。
時間になりましたので私の話はここで終わりとさせていただきます。 きょうはどうもありがとうございました。
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