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  平成23年度第1回講演会(平成23年6月16日開催)
「知的障害者に導かれた企業経営と私の人生」
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       講師 日本理化学工業株式会社 取締役会長
            大山 泰弘 氏
実は、たまたま当社がモデル工場第1号だった関係で、全国重度障害者雇用事業所協会の会長になり、そのグループで障害者雇用の海外視察に行ったことがあります。そのときに訪問したのがベルギーでした。マニュアル文化のヨーロッパの一国です。字の読めない人たちは、もちろん雇用の対象になっていません。しかし、ベルギーでは、企業がそういう人たちに対し、働く場をちゃんと用意してあげて、長く働ける場を用意し続けるなら、国が企業に代わって最低賃金を払います。だから、雇用の対象になっていない重度の障害者であっても、働く場に就いているだけで最低賃金をもらえるんです。企業は企業で、賃金を払わないで済むわけですから、少しでも彼らが役に立ってくれたら、企業はそれだけ利益につながります。
ベルギー政府は、「施設で面倒を見てもらうよりも、企業にそういう役割を担ってもらい働いてもらった方が、かえって効率のよい行政ができる」と考えたのです。
どうでしょうか。『渋沢栄一賞』受賞で気づかせていただいたことでは、一般社会で働けない障害者一人に40年間で2億円、1年で500万円施設でかかっているのです。ということは、日本の現在の最低賃金は年間150万円ぐらいで、月に12〜13万円です。日本政府がベルギーのような仕組みを日本に作ったら、500万円かかっているものが150万円ですから、350万円おつりが出ます。そして、障害者本人は、月に12〜13万円もらえれば、今はグループホームもありますから、月に6〜7万円払って食事付きのケアをしてもらい、残りのお金で多少好きなものも買いながら、地域で自立ができるのです。国は国で350万円残ります。まして企業はどうでしょうか。国が賃金を出してくれたら、彼らが企業で役に立つように上手に活用できるのが、職人文化ですよね。なまじっか国が、中小企業の育成策をどうこうするより、企業の力を活用して展開できたら、私はすべていい仕組みになるんじゃないかと思います。私は、これを「四方一両得」と現在いわせていただいています。
四方のうちの4つ目の方というのは、障害者を抱えるお父さん、お母さんです。たまたまそういう障害児を生んで、いかにもそのご両親の責任のようにいわれていますが、遺伝での出現率は10%もいかないのです。いつどこのご両親に生まれるか分からない状況の中で、たまたま障害を持って生まれた子のために、お父さん、お母さんが一生苦労しなければいけないのです。「死んでも死に切れない」とおっしゃっているお父さん、お母さんたちは、世の中で一番不幸な人と思えてなりません。とすれば、最低賃金が保障をされて、かつグループホームでケアをされれば、お父さん、お母さんは安心ですよね。だから、ご両親にとっても、まさに「四方一両得」でしょう。
モデル工場第1号になって障害者を雇用したおかげで、「逆境」といった状況でしぶしぶ会社をやっていた私が、まして競争社会で、世の中に役に立って幸せに生きられる国づくりに少しでもお役に立てるようなヒントをいただいたことは、本当にラッキーな人生をいただいたと思っているところです。  
私は、たまたま日比谷高校出身で、事務次官になったり、航空会社の社長をやったりした友人がいますが、同窓会で私が「知的障害者を雇っている。これからはみんなが役に立つ共生社会を作るためにさらに奔走しようと思っているんだ」と言った直後に、友人達から、「大山、チョーク屋なんだろう。チョークってだんだん使わなくなっているんだよ。そんな先細りのチョーク屋で、そんなでかいこと言って。そもそもチョーク企業が続かなくなったら、そんな雇用を続けるなんてできなくなるよ」と言われました。
ある時期まで私はそう思っていました。今日、主催者の方が「キットパス」を紹介して下さって本当に感謝しておりますが、当社では、かねがねマーカーに対抗するのに、全く粉の出ないチョークができたら、間違いなくまたチョークが復活できて、チョークの時代に戻れるかと思い、全く粉の出ないチョークの開発に取り組んできました。
それが、なかなかもたもたしてできなかったのですが、川崎工場を作ったおかげで、川崎市の経済局の人から、「粉の出ないチョークを考えて研究しているようですね。産学連携という制度があるから、大学の先生の応援をもらったらどうですか」といわれて、おかげさまで、早稲田の先生の応援を得まして、粉の出ないチョーク、しかもガラスに描けて簡単に消せるチョーク「キットパス」ができました。
これは、ただガラスに描けるチョークだけではなかったんです。NHKの番組で紹介されたのですが、九州のf地三郎先生が、たまたまお子さんが障害児で「しいのみ学園」という施設をやっていました。その先生は「三歳児教育学会」の会長さんをやっておられます。3歳までの小さな子どもたちの感性を目覚めさせる養育をすると、「知的障害児」といわれた子どもたちでも、先生の施設の15%以上は普通の保育園や幼稚園に転出できたそうです。3歳までの五感を刺激する教育がいかに大事かということをテレビで知ったのです。
さらに、f地先生とも親しい「ヒトの教育の会」の代表の方が当社に来られて、ガラスに描けるというのは、白い画用紙に描くより、外の景色を見ながら小さな子もお絵かきができる。風が吹く中で、風で葉っぱが揺れている。きれいな花が咲いている。こういう外の景色を見ながら窓ガラスの一面に描くような遊びができたら、五感を刺激し、三歳児の教育に役立ちます。「密室育児」といわれる今の世の中で、せめて外の景色を見ながら自由に描けたら、これは間違いなく子育てに役に立つはずですよ、と言ってくださいました。それが、人間の持つ「共感脳」に刺激を与えることにもつながったのです。
落書きをしていると、必ず誰かがそばに寄ってきますでしょう。お母さんが、「上手に描けたね」とか、「何描いているの?」とか、「ママも描いてみるね」とか、こういう会話を交わせるだけでなく、お父さんだって誰だって、落書きしている子どもの姿をみると、そばに行って一緒に描きたくなります。そうやって人とのつながりができます。
落書きは動物の本能だそうです。熊は、木に登るときに引っかいて自分の爪痕を残してあがっていきますでしょう。あれは、このエリアは自分が生きていくためのエリアだと、生存競争が厳しいので印をつけておくのです。日本人だけではなくて、人間の落書きというのは、だいたい海外でも名前が書いてありますよね。やはり落書きというのは、動物や人間の本能的なものなので、そういう点からしても、落書きに使える「キットパス」という心のある商品が早稲田大学の先生たちの応援でできたというのは、こんなラッキーなことはないのではないかと私は思っています。
「カンブリア宮殿」で、村上龍さんが「大山さん、人のために役に立つことを一生懸命やると、ブーメランみたいにその人への幸せがちゃんと自分の幸せに戻ってくるんですね」と言ってくれました。まさに私は、人のために一生懸命やっていると、必ず自分も幸せになれると思いました。
その幸せになれるというのは、ただ人を幸せにするから幸せではなくて、人に役に立つ快感を覚え、自分自身も快感を覚えるわけですから、間違いなく自分も幸せになっているのではないかなと思います。
今の若い人たちが、とかく鬱(うつ)になっているというのは、どうなんでしょうか。幸せになるというのは、自分にいいことがあるというのではなくて、幸せは、自分から人のために飛び込まなかったら幸せになれないのだということを、私は若い人に伝えたいと思います。
「働」という文字は、「にんべん」に「動」という字ですね。この労働の「働」という字は「国字」だそうです。中国から来た漢字ではなく、日本のご先祖様がつくった字だそうです。人のために動く、それが人間にとっての幸せなのだと。偉いお坊さんが、己が幸せに生きるためにその文字をつくり、子々孫々に伝えてきた字だそうです。日本人は「勤労を尊ぶ国民」といわれていますが、そういうところにも理由があったのかなと私なりに思っています。
私は、企業を続けるだけではなくて、知的障害者のおかげでこんなラッキーな人生を送らせてもらったと大変に感謝しているところですが、締めくくりに、ちょっと「キットパス」で描いてみます。
〔実演〕
このようにホワイトボードになんでも描けます。そして濡れた布で拭けばきれいに消せます。
ガラスでしたらもっと簡単に消えます。こういう商品も開発できました。ガラスにも描け、子育てに役立つ商品ができたというのは、まさに障害を持っていた「えびす様」のおかげで障害者雇用をやってきた当社を応援してくれたのではないかと思って、大変感謝しているところです。
これからも、知的障害者が、ここまでの共生社会の「気づき」までもくれたものですから、是非みんなが幸せになれる世の中に、さらに多くの人の理解をいただけるようにがんばろうと思っております。
私は、誰でも役に立って働ける共生社会の実現をするため、重度で一般社会で働けない人たちに中小企業が働く場を用意すれば、国がそういう人たちを中小企業に国の責任において派遣して、最低賃金を国が出す、そういう特例派遣会社制度を作れればよいと思います。
そして、障害者が中小企業の中で、一般の社会で働けない人たちでも中小企業の職人文化で同じように地域で働ける幸せが得られればいいなと、こんなことも考えながら、これからもがんばっていきたいと思っております。
長々とお話ししましたが、ここで終わらせたいと思います。長い時間ご清聴ありがとうございました。
【略歴】 
  昭和49年 社長就任、平成20年取締役会長就任、現在に至る
  昭和56年 国際障害者年内閣総理大臣表彰
  平成15年 厚生労働大臣表彰 平成16年 叙勲瑞宝単光章  
  平成21年 渋沢栄一賞
【著書】 
  「働く幸せ」―仕事でいちばん大切なこと― WAVE出版     
  「利他のすすめ」−チョーク工場で学んだ幸せに生きる18の知恵― WAVE出版
 
日本理化学工業株式会社ホームページ:http://www.rikagaku.co.jp/
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