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  平成23年度第1回講演会(平成23年6月16日開催)
「知的障害者に導かれた企業経営と私の人生」
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       講師 日本理化学工業株式会社 取締役会長
            大山 泰弘 氏
ただ、すべての企業がそうできるとは申し上げてはおりません。小さなチョーク業界で、大企業が参入する業界ではありませんでしたからその小さな業界の中での競争であったこと、作る商品が教育関係で、景気・不景気に左右されないたまたまチョークであったから、現在こうやって残っているのだと思っております。
つまり、逆境と思えたチョーク業界が、むしろ私にとってはラッキーな業界だったということです。そういう面でついていたのだと思い返しております。
ある大手の経営コンサルタント会社の方が日本理化学に取材にきました。そのときに、「健常者と障害者のコミュニケーションをどういうふうにうまくやっているんですか」と必ず聞かれます。
それは、仕事をやってもらうときに、「できるだけその人の理解力に合わせてやさしく教えてあげるように」と言っていますが、さらに言っている言葉は、「いくらやさしく言ってもどうしてもできないときに、障害者の能力がそこまでいっていないからできないということは、当社では許されない。いろいろな方法で何とかそれを考えるのが日本理化学の職員なのです。どうしても対応できないというときには、上司に相談して、みんなで次の手を考えよう」と。
特に、コンサルタントの会社の人に理解してもらいたかったのは、仕事を介して職員たちがいろいろな対応を考えてやってきたおかげで、障害者にとっても、「この職員の人が僕のために一生懸命できるように教えてくれた。そのおかげで僕はこの仕事ができるようになったんだ」と。こういううれしい気持ちがあるのと同時に、職員は職員で、「いろいろ苦労したけれど、やっと彼は、これだと思った仕事をちゃんと自分でこなせるようになってくれた。しかも一生懸命集中してやってくれる。」この達成感で、職員もうれしさを感じます。こうして仕事を通じてのつながりが生まれます。当社の障害者と健常者は、仕事を介しての関わりのおかげで、結構強いつながりができています。そのおかげもあって、何とか企業として現在までやってきています。
私は、冒頭に「気づき」ということを申し上げましたが、こんなこともありました。
チョークはどうやってできるのかということで、学校の宿題でレポートを書くためにお母さんと2人で見学に来た子がいました。その子はある私立の小学5年生でしたが、「こうやってチョークを作るんだよ」と説明し、終わった直後に、私は、「みんな一生懸命やっているでしょう。でもね、君みたいに優秀な学校に入れるような人はこの中には一人もいないんだよ。それに字もなかなか覚えられないから、小学校にも入れずに特別な学校で勉強した人たちなんだよ」と言いました。そうしたら、今まで一生懸命メモをとっていた彼が「エッ」とびっくりして、私の顔を見上げました。その日は、「ありがとうございます」と言って、お母さんと2人で帰っていきましたが、1週間ぐらいたって彼からお礼の手紙が来たんです。
「天の神様は、どんな人にでも世の中の役に立つ才能を与えてくださっているんですね。僕は、あんな小さな(ノズルの)口からニョロニョロ出てくるチョークを、真っ直ぐ板に十何本もくっつかないように並べる仕事は難しくてできそうにありません。僕はもっと勉強してほかの仕事で世の中の役に立つ人になります」という礼状が来たんですね。私は、小学5年生の子どもに二つの大事なことを気づかされました。
確かに、ノズルから出てくるまだ柔らかいチョークを最初からその従業員が上手に取り板に並べる才能を持っていたわけではありませんでした。ですから、神様の与えてくださったのは、世の中の役に立つことを幸せと感じる人間を神様が作ってくださったのだということです。
そしてもう一つは、その人が役に立つような環境を周りの人が用意してあげれば、間違いなくできて、褒められて、幸せを感じるから、一生懸命集中して、その日々の積み重ねでいつかは上達して、はたから見ると「才能」という形に開花したのだと思いました。
だから私は、天の神様のくださる、役に立つ幸せ、人間に与えてくれた幸せが、企業で役に立つということを考えると、企業の役割の大事さを逆に彼から教えられたのです。
もう一つ付け足します。ハンガリー人の「ジャパンタイムズ」の女性記者が取材に来られました。ハンガリーは、ヨーロッパの一国で、ヨーロッパはマニュアル文化の国。だから、字が読めない人は最初の入り口で、雇用の対象になりません。当社では「ヨーロッパで雇用の対象になっていない人たちを企業の戦力にしている」ということで取材に来られたのです。
一通り説明し終わったあと、これもまた彼女の言葉からすごい「気づき」をもらったんです。彼女は、部屋に戻ってきて開口一番にこう言ってくれました。「ミスター大山、日本は職人文化を持っているから、字が読めなくてもこういうふうに企業の貴重な戦力にできるんですね。」私は、『職人』という言葉は知っていましたが、まさか文化まで付く言葉だとは知りませんでした。
言われてみると、大工さんなどは文字を使わずに、「それができないなら、じゃ、こういうふうにやってみな」と、手取り足取り技術を教え育てていくのが、まさに「職人さん」であり、その「職人文化」なんですよね。
ああ、そうか、日本の中小企業は、そう言われれば職人文化を持っている。とするなら、それをフルに活用して、障害者の理解力の中で手取り足取り教えて行く展開をすれば、もっと障害者に、一般地域社会の中で働く場を用意してあげられるのではないかと、企業の大切な役割を気づかされた言葉だったのです。
私は、小学5年生から大事なことを教わりましたが、私は最近まで天の神様が役に立つことを幸せと感じるように、人間を作ってくださったのだと思っていました。
ところが、それを駒込病院の脳神経外科の篠浦部長さん、あるいは東邦医大の有田教授が、それぞれこういうことをおっしゃっているんです。
駒込病院の篠浦部長さんは、「人間の脳には『動物脳』と『人間脳』の2つがあって、『人間脳』というのは、ヒトの群れの中にあって役に立つことに快感を覚える脳だ」とおっしゃっていました。
また、東邦医大の有田教授はその人間脳を「共感脳」と言っていました。人間のグループの中にあって、そして周りに役に立つことに心地よさを覚えるのが、「共感脳」と先生はおっしゃっていました。
共に、「群れの中にいて周りの役に立つことに心地よさを覚える。そういうものを人間は持っているんだ」と、こういうふうにその両先生はおっしゃっていました。
ですから、私は、たまたまその人に神様が役に立つ幸せを与えたのではなくて、神様は公平にすべての人間にそういうものを与えてくださったんだ、と気づかされました。
人間は、人の役に立ちたい、そういう心地よさをみんな求めているんだということからしますと、私は、人間社会というのはもっともっと前向きに考えてよいのではないかと思います。いくら親切にしてあげてもなかなかやってくれないといったときに、人間はもともと周りの役に立つことを大変心地よく覚えるものをみんな持っているとすれば、まだまだ自分の伝え方が足りないんだ。もっと相手の理解力の中で役に立つ方法をさらに考えてみよう。彼は字が読めないけれど、色が分かる。それなら色を使ってできる方法を考えよう。こういう対応も大事だという、すごい「気づき」をもらえたと思っております。
中小企業のただのチョーク屋が『渋沢栄一賞』をいただきました。これで私は、また一つ、より大きな「気づき」をさせてもらいました。
2009年、当社は、「障害者を長く雇用してきた工場」ということで受賞しました。2009年にいただいた3人のうちの一人が私でした。お2人は、企業の業績もちゃんとあげられて、さらに一つの企業は、2億円を教育関係に寄付をされ、もう一人の方は3億5千万円を医療関係に寄付をされての社会貢献が評価されての『渋沢栄一賞』でした。
ところが、当社はそんな寄付をする余裕はないものですから、お礼のスピーチをするのに、「寄付もしていないのに、どうしていただけたんでしょうか」ということをお尋ねしました。「理化学さんは、一般の企業で働けない重度の障害者を長いこと雇用してきました。それも既に60歳を過ぎるまで5人も卒業させています。今の世の中、一般社会で働けないから、20歳から60歳までの40年間、もし福祉施設で面倒を見たら、1人に2億円以上かかります。ですから、5人も理化学さんは60歳過ぎの人を面倒見ているので、2億円×5人で10億円の社会貢献をされたんですよ」と。障害者雇用でこういう貢献もできると教えられ、そのことに初めて気づかせていただきました。それだけに、企業で頑張ってやっている当社にとって大変うれしい言葉でした。
ということは、中小企業でもそういう社会貢献の役割を果たすことができるという、中小企業のまた一つの道を気がつかせてくれたのではないかと、私は、皆さまにもそれをお伝えできると思ったんです。
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