くらしと印刷

くらしと印刷

本章は1994年に発刊された「ぷりんとぴあ: くらしと印刷」を修正・加筆したものです。

・A君が抱いた勉強への決意
・A君の仕事とメモ
・家の中も印刷でいっぱい
・木目印刷と立体印刷
・Kさんのレクチャー
・紙を離れた印刷とは
・広がる印刷業の裾野


 

「A君が抱いた勉強への決意」


印刷に関する知識については絶対の自信をもっていたA君でしたが、あるきっかけからその自信はもろくも崩壊。負けずぎらいの彼は、突然「勉強家」に大変身しました。
 

1. プロローグ

印刷会社に勤務するA君は、入社して間もない技術課員。ある日曜日、夕方外出から帰り、テレビのスイッチを入れると、クイズ番組で印刷に関するテーマを扱っていました。

<なんてったって、こっちは印刷のプロだよ>と気軽に見始めると、番組ではルネッサンスの3大発明(火薬、羅針盤、印刷)の一つとして印刷を取り上げて、どれが正解か選択形式のクイズを出題しています。

本当かウソかの出題では、「世界最古の印刷物は日本で印刷された」「ルビの語源は宝石のルビー」「B判は日本独自の単位」などがあって、これはA君も正解できました。

ところが「新聞印刷で、原稿から号外ができるまでの時間は?」という出題で、自分の経験から印刷機のスピードなど考えて早くても60分と思ったところ、残念ながら正解は20分。新聞印刷では原版作成に8分、14万部/時で、1万部の印刷に5分、準備を含めても20分でできることが説明されました。

また、クイズではありませんでしたが、電気製品に利用されている半導体では、多くが印刷技術を駆使した原版を使い、2畳分の回路を5mm角より小さく縮小していることや、水に浮かしたインクシートで曲面に転写する技術なども知りませんでした。

結局、自分の会社では手がけていない印刷技術に関して、知識が足りないことがわかってちょっとがっかりしたのです。


2. まずは「チューブ印刷」とメモ

そこで、翌日は朝起きてから寝るまで、身の回りに印刷技術に関連したものがどのくらいあるか、意識的に考えてメモをとってみることにしました。

目覚ましの音にしぶしぶ床を離れて、顔を洗うために洗面所に行き、歯磨きを取り上げて<そういえば、最近のラミネートチューブっていう柔軟な歯磨きチューブは、たしか多層のラミネート素材に印刷し、チューブヘの加工まで印刷会社が行っているし、アルミの歯磨きチューブや軟膏などの薬品チューブの成型と表面印刷・内面塗装の一貫加工しているのも印刷会社のはずだ>と気づき、まずは「チューブ印刷」とメモ。

朝食前に新聞を開いて、<新聞や折り込まれて入っているチラシはもちろん印刷だけど、最近は記事をデータベース化してパソコン通信やファクシミリで必要な記事だけ提供できるようにしているから、印刷も単に紙にインキをつけて文字や画を表すだけじゃなくなっているからな>と、こんどは「印刷とデータベース/電子配信」とメモに加えて、奥さんのB子さんの入れてくれたコーヒーを味わいながらタバコを一服。

そして、<このペアコーヒーカップの絵も、もしかしたら昨日テレビで見た印刷技術による「水貼り転写絵付け」かもしれないし、一服つけたタバコにしても外箱の印刷だけでなく、チップフィルターも印刷関連だったはず>と、メモに「タバコ」をつけ加えます。

そうこうしているうちに、キッチンからB子さんが朝食を運びながら、「ごめんね。ちょっと寝坊したから、おかずはタベの残り物を温めたので勘弁してね」とテーブルに置いてくれました。

すぐに箸をつけようとせず、<さて、他にはどんなものがあったかな>と並べられた料理を見るともなく見ていると、心配そうな顔でB子さんが「どうしたの?」とたずねます。

「身の回りで印刷に関連するものをチェックしてみてるんだ……」

という答えを聞き、おかずへの不満でないことがわかったB子さんはひと安心。彼女も3年前まで同じ技術課の同僚だったことを思い出したA君は、B子さんに言いました。

「君も印刷のことはかなり知っているはずだから、一緒に考えてくれないかな。気がついたらメモしておいてくれるとうれしいんだけど……」

「意識して考えたことないけど、家の中にもいっぱいありそうね。面白そうだからやってみるわ」と、B子さんも協力を約束してくれました。

A君は、B子さんがさっき電子レンジを使っていたのを思い出し、<そういえば、電子レンジの遮蔽ネットは印刷技術の応用だったはずだし、テーブルの上の調味料の瓶のラベルはシール印刷、PETボトルに巻いてあるフィルムはグラビア印刷、そして電子ジャーや保温ポットの綺麗な絵も「金属印刷」だった>とメモに加えます。
 

3. 通勤途上の印刷関連物

早々に食事をすませ、A君は家を出て駅までのバスに跳び乗りました。

そして、定期券になっているICカードで運賃を払うときに、<小銭を使わずにすむんだから、便利になったもんだ>と思いながら、ICカードも印刷技術に関連していたと気づき、<カードの変造や偽造事件を新聞記事で読むことも多いけど、セキュリティにはどんな技術を使ってるんだろう>と疑問になり、揺れるバスの中でメモに「カード・セキュリティ」と書くことにしました。

バスの中を見回すと広告だらけ。ガラスにもステッカーの広告があり、これは「シール印刷」。運転席に目をやるとインパネの計器がデジタル表示になっていて、この液晶板も印刷技術の応用です。駅に着いて再び、ICカードの定期券を自動改札機にタッチしました。

ホームに出れば、駅の案内板や時刻表は「スクリーン印刷」。満員電車に乗り込めば、車内広告はもちろん印刷です。そして<最近電車のなかで新聞や雑誌、文庫本などを読んでる人が多くなったなあ>と思いながら、綱棚に目をやるとコミック誌が無造作に置かれいます。

そのコミック誌から、最近は駅のゴミ箱で分別収集できるようになっていて、新聞や雑誌などの印刷物はリサイクルの主役。古紙から再生した紙が使われるようになっており、テレビのコマーシャルにも再生紙を使っていることをアピールするものを見かけることを思い出しました。

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