ちらし広告と印刷 「印刷会社と相談しよう」

「印刷会社と相談しよう」

 



Cさんは、DTPと言ってもそう簡単ではないとすこし不安になってきました。 事前に印刷会社と打ち合わせておかなければならないことがいろいろあります。


1. DTPにもいろいろある

相談に行った印刷会社の人に最後に、「一口にDTPと言ってもいろいろな方法があります」 とアドバイスを受け、その詳しい内容を聞くことにしました。

パソコンを使ってデザインなどの制作から製版の製造までを行う方法をDTPとまとめて呼ばれていますが、その印刷会社の人の話では、DTPはデザインの進め方、プリンター類の使い方、写真などの画像類の取扱い方、データの完成具合などにより運用方法が異なるらしく、またパソコン自身のOSや使われるアプリケーションソフトとその使い方、バージョンによってもさまざまな問題が起きること、さらに文字にもプロ仕様とアマチュア仕様では異なる部分があるなど、実際にチラシを作る段階になって初めて知る項目がどんどんと出てきて、多少の焦りと驚きを隠せませんでした。

DTPを使えばカラープリンターでの出力とコピーが混じったものができるという程度の感覚しか持っていなかったCさんは、DTPも印刷という専門的な部分になるとさすがに奥が深いと感じ、果たして自分自身でチラシ作成ができるのか不安になってきました。

ここでDTPの概念、運用についてまとめておくことにします。


2. 印刷会社と確認しておく

従来、チラシや本、雑誌をつくるために印刷会社に渡すものは、文字原稿と写真原稿と図版およびそれらをどのように配置するのかといったレイアウト指定紙でした。 つまりすべて目に見えて確認ができる "物" でのやり取りでした。 ところがパソコンを使ったDTPにおいては、パソコンで作られた "データ" が中心となってきます。

データがUSBメモリーやCD、光磁気ディスク (MO) などに収められていると、パソコン画像で見ない限り、中に何がどのように入っているのか確認ができません。 ですからこのデータの受け渡しに関する約束事項、確認事項が大変重要なこととなってきます。 また、Aさんのように自分でデータを作ろうとする場合は、データをどこまでつくるのかはっきりさせておかなければなりません。

印刷会社との確認に必要な事柄をまとめてみましょう。

□出力見本の添付

データを入稿するときは、そのデータの出力見本 (プリンターで出力したもの) を添えて入稿するのが基本的な原則となっています。

印刷会社に入ってくるのがデータだけだと、中身の詳細については表面的に判断できません。 そのデータを出力しても、その出力されたものがデータどおりの出力なのか、トラブルが生じているのかといった判断も、出力見本がないとできない状況となります。 印刷会社としては、出力が目的ではなく、より良い印刷物を作ることが目的ですから、判断のつかない状況では、出力物を印刷できないことになってしまいます。

□データ作成に使ったパソコンの種類とOS

DTPで使われるパソコンはマッキントッシュが圧倒的に多かったのですが、ウィンドウズ95が出て以来、ウィンドウズも一般的に使われています。発注者サイドの会社などの事務処理はウィンドウズが多いことから、そのデータを印刷するケースも増えています。

データ作成ではOSの管理が重要な要素となっており、データを作成したOSと同じバージョンを使ってDTP作業した方が無難です。

□どのようなソフトウェアで作られているのか

パソコンで使われるアプリケーションのソフトウェアは数多くあります。 レイアウトするためのソフトウェアでもクオークエクスプレス、ページメーカー、イラストレーターなどがあり、それぞれに特徴があり、個別の対応が求められています。 受け入れる印刷会社は対応できないものもあるので、事前の確認は必須項目となっています。 せっかくデータを作り上げても受け入れるべき印刷会社の方が対応できなくては前へ進めません。

アプリケーションソフトの種類と同時に確認しておかなければならない項目に、そのアプリケーションソフトのバージョンがあります。 あまり古すぎては準備しているところは少ないでしょうし、反対に、あまりに新しすぎて発売したばかりのものは、印刷会社の方で生産活動の手段として検証ができていなくて、受け入れられない場合があります。 したがってデータを受け渡すときには双方とも使用アプリケーションソフトの種類と、そのバージョンの確認が不可欠になります。

□どんな文字を使っているのか

DTPで使う文字の種類のことをフォントと呼んでいます。 フォントには大きく分けて2種類あります。 ひとつはTrueTypeと言われるもので、パソコンの購入時にある程度準備されており、ユーザーは無意識に使っています。

もう一つのフォントは、Type1フォントと言われるものです。 DTPには不可欠のもので、高品質の文字 (ギザギザのない滑らかな文字) を再現しようとすると、Type1フォントが必要となってきます。 しかし、Type1フォントはTrueTypeに比べて高価なため (現在は1書体20~30万円)、出力を請け負う印刷会社や出力サービスセンターではすべてのフォントを準備しておくのは負担であり、日常よく使われるフォントしか準備していないところもあります。

したがって使用フォントの確認は絶対に必要な項目となっています。 特に特殊なフォントを使った場合は確認しておかないと、文字化けが発生するなど出力の段階で困ることになります。

□データはどこまでつくられているのか

印刷用のデータがどの段階まで作られているのか、完成度のレベルといった把握そして印刷会社との確認は、費用、納期にも関係している大変重要な問題です。

データの完成段階はおおむね以下のようになっています。

① 素材、部品レベル

組版がなされていないテキストデータや、写真データ、表やグラフのデータといったような部品として入ってくるものです。 それらの部品データをレイアウトデータでまとめて、ページのかたちにしなければなりません。

②レイアウトデータレベル

レイアウト指定の代わりに、データとして支給する場合です。 紙面の構成は完成されていて、どこに写真が入り、どの大きさの文字が使われるか、また色使いまで指定されてくる場合もあります。 それ以降の作業としては、そのレイアウトデータにテキストを流し込み、文字組版を行うといった作業になります。 また、写真データをはめ込むなどの作業も残っています。

③版下レベル

文字組版は終了しているが、色付けや写真の貼り込みがなされていないデータです。 印刷会社はそのデータを使った製版作業 (色付け、写真の組み込みなど) が必要になってきます。かっては、タイプの印字文字や写植文字を台紙に貼り込んで、ページ毎にの版下を作成していた時代もありました。

④完全データレベル

組版や色付け写真の貼り込みまで終わった、印刷会社としては、あとは単に出力するだけの状態のデータです。 データ作成者にはかなり負担となりますが、印刷会社に支払う金額は安く抑えることができます。

ただし、写真データはデータ量も多く、また印刷での再現性が非常に難しい面もあるので、その部分だけは印刷会社に任せるといったケースも少なくありません。また書籍や雑誌などの場合は、さらにこの後、折丁に従ってページを配置していく面付けという作業(台割作業)が必要となります。

以上のように、DTPにおいてデータの完成度は差があり、制作サイドの負担は大きく異なってきますし、印刷会社の作業内容も異なってきます。 当然支払い料金も変わってきます。 また、必要とする期間も変わってくるので納期も異なってくることになります。

制作サイドでは自分の能力 (制作のパワーと技術レベル) 及びコストを勘案して、どこまでを自分たちで作り、どこから先を印刷会社に任せるのかを決めなければなりません。 印刷会社では、どの段階のデータでも受け入れることができる体制を整えておく必要があります。


3. DTPのメリットを生かす

DTP制作を行う場合には、制作サイドは印刷物に対するDTPの目的をはっきりとさせる必要があるでしょう。 その目的は品質、コスト、納期、データ保存にあると言われています。

□品 質

自分でデザインや組版などを行うことによって、手作りに近いこだわりの品質のものを作ることが可能です。 そもそもDTPの発生はこの部分にあったようです。 印刷会社への指示指定では伝わりにくい作業を自分でやってしまおうといった発想です。

□コスト

DTPは、制作段階でカラーないしモノクロのプリントアウトができます。 この作業は比較的安価 (会社によってはサービスでやっているところもあります) にできます。 今までですと、フィルム製版後の校正刷りの段階までいかなければイメージの具現化ができず、修正を加えるのもこの段階まで待つしか手段がありませんでした。前工程へ遡って手を加え修正する必要があるため、どうしても修正代 、再製版代といったものが大きくのしかかっていたわけです。 DTPでは作業工程の途中でもチェックができるので、校正刷りができた時点では、修正なしとすることもできます。 こうすることでDTPによるコストダウンが可能になります。

また、自分達でデザインやレイアウト、組版を行える人達にとっては、従来、写植版下作成に必要とされていた費用がいらなくなるといった効果もあります。

□納 期

DTPを使うと納期を短縮することができ、その分、制作サイドの手元に置いておく時間が多く持てるようになります。昔は印刷会社への入稿 (原稿類を印刷会社に入れること) は、下版 (完成したフィルム原版を印刷用の刷版に焼き付けるための工程に渡すこと) の何日前と決まっていましたが、データの完成度が高ければ印刷会社で加工する時間を短くすることができるので、許されるギリギリまで制作サイドの手元に置くことができます。 たとえば最新の記事を掲載することができるというメリットがあります。

□ データ保存

DTP作業はデジタルデータをベースに行われています。 デジタルデータは後で説明しますが、各種の加工や保存に大変便利です。 デジタルデータを上手に保存しておくことにより、次回の印刷物作成に使ったり、他の印刷物に利用したりすることもできます。 また、印刷物以外のメディアに使うことも可能となってきました。


4. 印刷会社にデータを渡す

DTPのデータが無事完成したら、どのような方法で印刷会社に渡せばよいのでしょうか。 初期の頃はフロッピーディスク (FD) や光磁気ディスク (MO) などが使われていましたが、データを入れるメディアには、最近はこの他にも種類が豊富になってきており、jaz、PD、MDなどが使われるケースもあります。身近なUSBメモリーは勿論、大量のデータの場合にはCDに代表されるリムーバルディスク (移動可能なハードディスク) が使われるケースがみられます。

通信環境の向上により通信での入稿といった手段も用いられています。 パソコン通信を使ったり、インターネットを使う方法もあります。 使用頻度が高い場合は専用回線を引いて行っているところもあります。 画像データはデータ量が多く、つねに快適な環境とは言い難い面もありますが、テキスト程度なら問題なく送受信が可能ですので、送る距離や送るデータの容量によっては、他のメディアで送る場合よりもメリットがあります。


5. 誰が直すか決めておく

印刷物は最初から完全ということはめったにありません。 なんらかの直しや追加指定が入って、完成度が上がっていくことになります。 そのときに、その直し作業をデータ制作サイドが行うのか、印刷会社が行うのか、トラブルが起きるケースがよくあります。 事前に決めておかなければならない問題の一つと言ってよいでしょう。

一般的には他人が作ったデータを触ったり修正したりすることは危険がともないます。 データの作り方は、個人差があってクセがあるからです。 データの作り方によっては、直し箇所しか触っていないのに他の箇所まで変化してしまうケースが往々にしてあります。 このようなことから、データを作った人が直すのが原則とされていますが、発注者と印刷会社で話し合って決めていくことになります。


 


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