日本フォーム工連・技術委員会セミナー記録

 技術セミナー
「顧客感動」を呼ぶ印刷機械の予防保全

講師 川 名  茂 樹 氏
小森コーポレーション
サービス技術本部日本サービス部サービス2課課長代行
予防保全チーフアドバイザー
 
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<6.治癒能力のない印刷機械は高価な精密機械>
 その直らない機械はどんな機械か。改めていうのもおかしいのですが、印刷機械というのは精密機械なんだということです。このことを私は声を大にしていろいろなところでいってきたわけです。
  改めて言うまでもありません。175 線の線数で、5%で0.03ミリの見えない点になります。これが見えるという方はいらっしゃいません。見えないから我々は印刷業で仕事をしていられるわけです。この網点が見えてしまったら、いまごろオフセットなんていうものはないでしょう。写真みたいなもので印刷するしかなかったと思いますが、我々はこの点が見えない。だから、その小さい点を合わせてぼやかして色を作っているわけです。
その0.03ミリの目に見えない点を、枚葉機でしたら16,000回 、輪転機でした
 
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ら4万8,000 回、紙に連続転写運動をしています。この転写をするほうが100 分台の精度でしたら、100 分の3mmや2mmの点を打てるわけがありません。したがって、あらゆる印刷機械の心臓部というものは全部1,000 分台の精度を持っています。そういう意味で非常に大きなものですが、精密機械なのです。
  たとえばここに時計があります。時計を精密機械だと思わない方はいらっしゃらないと思います。しかし、これはせいぜい大きさでいったら3cm。30mmくらいです。このものがゼロゼロ幾つまで精度を持って組み合わさっております。しかし、印刷機械は50センチ、1m、1m50cmというものがゼロゼロ幾つまで精度を持って組み合わせています。これが印刷機械です。  この1,000 分台の精度を持ったものが100 分台の精度に落ちれば、その機械は印刷ができないでしょう。ダブッテしまう、スラーが出る、色が変わってしまうということです。
 
 
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<7.印刷機械の性能劣化曲線>

 印刷機械の性能劣化曲線というものが作られております。25年以上前に予防保全ということを考えた時期がありまして、その時に作られたものです。  そのあと、業界は右肩上がりのバブルがきまして、そんなものはどこかへ飛んでしまったというのが実際ですが、メーカー一般の性能曲線として作られたものです。
  ABCDといういい状態から悪い状態までのランクが縦軸にあります。そして時間的な流れが横軸にあります。メンテナンスをするとゆっくり下りていきます。メンテナンスをしないと、だいたい機械の寿命は半分です。1,000 分台のものが100 分台になったらもうだめなんです。それは、100 分の2mmとか3mmのものを打つからです。だから、この曲線を理解するためにはいま言
った精度のことをお話ししないとご理解いただけないのです。
  ただ、これは非常に古いものです。当時は、軸受けというものは、砲金ブッシュ、メタルというものを使っておりましたが、いまはベアリングですので寿命が2〜3年と延びていると見ていただいて構わないのです。
 
 
 
<8.性能維持・復活をいかにやるか?>
 日常保全をやってメンテナンスの良い青いラインをとにかく維持するということです。しかし、だんだん落ちてきますので、その時どうするか。一体自分の機械はどこのレベルにあるのか、Aランクなのか、Bランクなのか、Cランクなのかということを見つける。そしてそこで手を打つ。
  つまり 機械の年次点検(診断)をして、どのゾーンにいつかをつかむ。その修理修繕を実施してAゾーンに機械を引き上げてやるのです。
 
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<9.ハインリッヒの法則による印刷機故障分析>
 どういうふうに青いラインを維持していったらいいのかということで、イメージをつくっていただきたいと思いましてつくったのが、このハインリッヒの法則による印刷機械故障分析というものです。
  皆さま、ハインリッヒの法則はもうお馴染みかと思います。「1・29・300 の法則」と呼ばれておりますが、一番有名なのは交通事故だと思います。
  「一つの人身事故の起こる背後には29の物損事故がある。29の物損事故が起こる背後には、300 のヒヤッとしたことがあるでしょう。だから、ヒヤッとしないような安全運転をしませんか」、これが日本では一番有名かと思います。
 同じように、「マシンダウン」、印刷障害が出て刷れない、あるいは軸受け
 
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  が破損してしまった等ということです。こういうような「マシンダウン」の前には、正常作動していない、あるいは磨耗しているというような「一般故障」があると思うのです。その前には、エアーが漏れている、油が漏れている、水が漏れている、あるいは異音がする、異常振動がある、異常発熱がある、異臭がする、何かが落ちていた、何かが緩んでいる、何かが汚れている、こういうようなヒヤッとすることがあると思うんです。
  ここで、「まあいいや。いま急いでいるからあとに回そう。俺はA班だからB班に任せておけ。刷れていればいいや」と放置するとこの「微故障」はいつの間にか「一般故障」になり更に「マシンダウン」となり、「小森さん、飛んできて」ということになってしまうわけです。  ですから、まず「微故障」を発見する。その前段には、5Sをやっているでしょうか。油や、掃除、点検をやっていますか、きちんと取扱説明書どおりお使いいただいていますか、あるいは仕様書どおりの仕立てになっていますか、こういうような警告のレベルがあると思うのです。
  この「警告」のレベル、そして「微故障」のレベルで抑えていく、そして上に上げない、もし仮に「一般故障」までいってしまったらそこで抑えて、「マシンダウン」まで上げない、これが予防保全の主要な活動だと思っています。
  人間にたとえれば、入院治療をしたくなかったら通院治療です。通院治療もしたくなかったら在宅治療、在宅治療もしたくなかったら生活改善、このようなことだと思います。
 
 
 
<10.日常メンテナンスの内容>
 さて、具体的に手足をどう動かしたらいいのか。設備5S、給油、清掃、調整、交換、点検という6項目です。きょうはお時間がございませんので、この具体的なお話については省略させていただきます。ただ、もう耳にタコができていると思いますが、設備5Sだけお話ししたいと思います。
  私は、設備5Sの中でもっとも重要であると思っているのは、清掃です。「清掃は点検なり」といわれるように、もっとも重要だと思っています。
  皆さまも車をお持ちだと思います。これを掃除する。洗車です。清掃できれいになります。ところが、この車を掃除しますとそれだけではないものがわかると思います。たとえば拭いていたら、「こんなところに撥ね傷がある」「擦れ傷がある」「ちょっとタイヤの空気が減っているな」「タイヤの溝も減ってき
 
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  たな」ということがわかると思います。
 泥だらけならわからない。だから「清掃は点検」なのです。ところが、不思議なもので、マイカーだとそうなりますが人の車を一生懸命拭いても擦り傷に気づかないのです。ここがミソです。
  そういうことで、私は、「機械を大切に使う。自分の分身・息子だと思う意識付け」がこの設備5Sの前にはあるのだろうと思っています。ですから、自分の分身、あるいは自分の息子だと思って、1,000 分台の精度を持った印刷機械をなでてやってほしい、あるいは拭いてやってほしいと思います。
  そのようなことで、機械を大事に使ってAランクをずっと維持していく。そのためにぜひ予防保全というものを位置づけて、「印刷機械保全」を勧めていただきたいと思います。投手でいえば、いつでも剛速球が投げられるような体をまず維持してもらうということだと思います。
 
 
 
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