日本フォーム工連・技術委員会セミナー記録

 技術セミナー
「顧客感動」を呼ぶ印刷機械の予防保全

講師 川 名  茂 樹 氏
小森コーポレーション
サービス技術本部日本サービス部サービス2課課長代行
予防保全チーフアドバイザー
 
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講演 川名茂樹 氏
 小森の川名でございます。「『顧客感動』を呼ぶ印刷機械の予防保全」と題してお話をさせていただきます。
  お手元に、既に資料が配付されておりますので、それをご覧いただきながら聞いていただければと思います。
  本日は、大きく分けて三つのお話をしたいと思います。初めに、カラーマネージメント(CMS)を成功させるにはどのような方法をとったらいいのかということをお話しし、2番目に、そのためには、私は三つの保全という形で定式化いたしましたが、この三つの保全を意識的にやる必要があるというお話をさせていただいて、3番目に、実際に予防保全をしっかりやって非常に大きな成果を上げました、パッケージ印刷様、高品質印刷様、それから輪転印
 
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刷様、この三つの会社の事例をご紹介して、その成功のカギは何なのかということをまとめたいと思っております。
 
<1.印刷機基準CMSとは?>
 早速1番目に、カラーマネージメントについてお話をしたいと思います。  カラーマネージメント、私どもは印刷基準カラーマネージメントというものを提唱してまいりました。しかし、実際には従来型カラーマネージメントというものがどのような形であったのかといいますと、前工程で色のターゲットが決まり、それに印刷機械が色を合わせる、というようになっていたと思うのです。
  「カラーマネージメントをうちはやっている」「ではどういうふうにやっているのですか」「CTPを入れたから」というお話が昔はよくございました。あるいは、カラーマネージメントセミナーなど、5年前はほとんどプリプレス関係ばかりでした。それをやればカラーマネージメントがあたかも成功したかのように錯覚していていたのではないでしょうか? そして実際にやって、ほとんどの会社がうまくいかなかったのではないでしょうか?
 
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 それは、プリプレス関係がデジタルワークされたとしても、結局最後に印刷現場は、壺を合わせたり、インキを練ったりしながら合わせていたということだったわけです。
  それではだめなのではないか。この2〜3年、印刷基準カラーマネージメントをやらなければカラーマネージメントは成功しないということが一般的になってきたように思います。
  したがいまして、私も印刷学会に呼ばれて、「どうやったらカラーマネージメントがうまくいくのか」というお話をさせていただくことができるようになりました。
  つまり、印刷機のほうがしっかり整備された状態で色のターゲットをつくる。それに前工程は、ICCプロファイルを使って、その印刷をシミュレートした色校正を出す。こういう色合わせの部署とベクトルを180 度引っ繰り返したスタイルが確立しないかぎり、カラーマネージメントはうまくいかないだろうと思っています。
  そしてこれを実際に実行した会社はその成果を品質、そして生産性、利益を生み出しております。
 
 
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<2.CMSの階層構造とは?>

 このように、印刷基準カラーマネージメントを進めるには、印刷物を生み出す機械のほうがしっかりしなければならないわけですが、ここでその機械がいい状態とはいえないようなことでしたら、このお話は土台から崩れてしまうわけです。したがいま して、印刷機械のほうは標準印刷をしていくということが課題になってまいります。
  標準印刷の場合には、工場環境を標準化し、印刷資材を標準化し、印刷機械を標準化し、そして印刷品質を標準化する。この標準印刷があって初めて、その上に色合わせ、こういうものが実現されるだろう。初めにこの色合わせがあって、その上に標準印刷が成り立つわけではないのです。
 従来型CMSは このピラミッドが引っ繰り返っていたというふうに考えてもよろしいかと思います。つまり、あらゆるものの土台や基礎は、印刷物を生み出すこの印刷機械にあるんだという原点にもう一度立ち返ることが必要だろう、と思っております。
 
 
 
<3.標準化とは何か?>
 それでは、標準化とは一体何なのか。これをもう一度確認したいと思います。理論的には、標準(目標値と許容値)を定め、これを維持管理することを「標準化」といいます。
  ストライクゾーンを決めて、そこにいつでもストライクを投げられるということです。そのストライクを投げる主役は誰なのか。プリプレスでしょうか、営業さんでしょうか。そうではない。印刷の標準化だと思っています。
  私は、そのために何が必要かということで三つの保全を提唱しているわけです。安定稼動を図るためには「印刷機械保全」というものが必要だ、そして品質を決定するためには「印刷品質保全」が必要だ、品質を確認するためには「品質確認保全」が必要だ、というようにまとめたわけです。
 
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   この三つのことを考えていくとき、私はピッチャーのお話をよくさせていただきます。球はとても速いが、どこにボールが行くかわからない。こういうピッチャーがおります。こういうピッチャーを「ノーコントロールピッチャー」、「ノーコン」といいます。こういうノーコンのピッチャーがストライクをとれるような球を投げるためにどういう練習をするのか。この練習方法は、この三つに当てはまると思っております。
  ノーコンピッチャーが一体何をしたらよいのかと言いますと、グラウンドを何度も必死に走らせます。つまり、ピッチングの基礎は下半身にあるわけです。上半身で投げる限りコントロールは定まらない。したがって、走り込みによって体をつくってしっかりした足腰をつくる。これが第1番目です。
  その上で2番目に、ひたすら投げ込みをします。フォームを固めているわけです。リリースポイントがバラバラだったら当然コントロールは定まらない。必死に投げ込みをしてフォームを固めているわけです。特にプロの場合にはストレートを投げる、フォークを投げる、スライダーを投げる、カーブを投げる、こういうものは全部同じフォームでなければならない。そうでなければ、バッターは、フォークが来るんだと思って待っていれば、ガンと打たれてしまうと。したがって、同じフォームからあらゆる球を投げるようにフォームを固めます。
 そして3番目に、その投げた球が、ストライクなのか、ボールなのか、いい球なのか、走っているのか、あるいはちゃんと落ちているのか、こういうジャッジをすると思うんです。
  つまり、走り込みによって体を鍛え、フォームを固め、そしてジャッジをする。このことによってノーコンピッチャーが素晴らしいピッチャーに変身していく。このことと同じことが三つの保全ということです。
 
 
 
<4.三つの保全 その1「印刷機械保全」安全稼動のために>
 いまから、この三つの保全をお話させていただきたいと思います。
  まず、ピッチャーでいえば、体をつくる。印刷機械がその性能を発揮できない、故障している、こういうことではそもそもストライクをとろうと思ってもとれません。ですから、ピッチャーでいえば足腰を鍛えてきちんとした体をつくって、そして投げ込みができるようにする。これを、私は「印刷機械保全」と名付けました。「精密機械である印刷機械の性能を維持管理していく保全」です。
  具体的には、日次保全、週次保全、月次保全、3ヶ月保全、6ヶ月保全、年次保全。 その中身としては5S、給油、清掃、交換、調整、点検、電気保全などをするわけです。こういうものを私は「印刷機械保全」といっております。
 
 
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<5.事後保全から予防保全へ>
 ここで、この印刷機械を維持するためにということで、きょうの本題であります「予防保全」という言葉が出てくるわけです。予防保全をお話する前に、そうでない状態、つまり事後保全、壊れてから直す、Breakdown Maintenanceといいますが、こういうお話をしなければなりません。
  人間にたとえますと、健康管理もしない、あるいは暴飲暴食、遊行三昧をする、そうしますと病気にかかる、体が弱くなる、寿命が縮まる。どうするか。緊急入院だ、あるいは糖尿病などのように、疾患になる。病気というのは、治るものを病気というそうですけれども、疾患というのは体がそうなってしまって治らない。疾患生活をせざるをえないことになると思います。これは事後保全と同じです。
 
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   ただ、印刷機械あるいは機械の場合には、事後保全といっても二つあります。一つは、非計画的事後保全。要するに何もしない、なりゆきまかせというものをこのようにいっております。べつに何もしていないというものをあえて規定するとこのような言い方になるということです。
  もう一つは、計画的事後保全というものがあります。これは、経済性を考慮したいい保全。善玉保全ともいわれております。たとえば蛍光灯です。蛍光灯はいつかはチカチカしたり、暗くなったりして切れてしまいます。べつに切れてから交換したらいいではないか、蛍光灯は近所に売っているし、切れたからといってそんなに困らない、だからこれは切れてから交換しようというふうに決めて計画化するわけです。判断したわけです。これを「計画的事後保全」といいます。
  ですが、たとえば皆さまとお話ししているこのホールで蛍光灯がいまチカチカし始めたらどうでしょうか。ああ、トッパンさんどうしたのかなとやっぱりいわれてしまうと思います。あるいは、結婚式場で式場のライトがチカチカし始めた。そうしたらどうなるでしょうか。新郎新婦は当然怒りますね。「支配人を呼んでこい、何だこれは。もう二度とお前のところでは結婚式を挙げてやらない」ということになります。ふつうは二度使うことはありませんが、いまは成田離婚もあるのでそういうこともあるでしょう。それだけではなくて友達に、「あそこだけはやめなさい。ひどい目にあうから」ということになります。そうするとその結婚式場はつぶれてしまう。
  したがって、結婚式場の蛍光灯は計画的事後保全でもいけない。そうしますと、予防保全です。故障が起きないようにする、あるいは故障が起きる前に手を打ってしまうということです。
  これは、皆さんがおやりになっていらっしゃる予防医学の適応です。日常の健康管理をして、ときどき健康状態のチェックをする。あるいは定期検査を受ける。それに基づいて早期治療、生活改善をしていく。日本人がなぜ世界でもっとも長寿であるのかというのは、この予防医学というものが国家として確立されているからです。会社員であれば必ずこのサイクルは回ってまいります。これが国家として確立しているので、日本は長寿国になったのだろうと思います。
 
 
 この予防医学を機械に適応したものです。したがって、劣化を防ぐ活動(日常保全)、劣化を測定する活動(定期検査・診断)、劣化を回復する活動(補習・整備)、この三つによって故障が起きないように、あるいは故障が起きる前に手を打ってしまおうという考え方です。
  この三つをぐるぐる回していくわけですが、で日常保全での再考というのが行われます。予防医学でもそうですが、カルテが出てきて、たとえば私ごとですが、肝機能がちょっとおかしい。いつも精密検査をもう一回受けろと言われますが。「いろいろな項目が正常数値を越えているのでちょっとアルコールを控えたほうがいいんじゃないですか」と、生活改善の提案を受けます。
  そうしましたら、「そうだ、それでは1週間に1回休肝日をつくろう、1年間に50日休もう」というようにします。改善された日常生活です。そうしますと、健康診断にいったら2次検査くらいで終わるとか、うまくいけば1次検査でオーケーになってしまうということになると思います。
  人間の体と同じで、日常保全→定期検査・診断→補修・整備→日常保全の再考→改善された日常保全→高度化・簡素化した定期検査・診断→少なくなる補習・整備というようにぐるぐる回っていく。日常保全の改善がないとだめです。予防医学で言えば、俺はべつにいいと無視していたら、改善しません。休肝日をつくったりしますと回っていきます。機械もそうです。これを私は「予防保全のスパイラル運動」と名付けております。日常保全をやっていけば、このスパイラルが回っての1番目が一番大きくなると思います。
 
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    ただ、機械は人間のような治癒能力はないということです。人間でしたら、これも私事になりますが、飲みすぎますとやはり二日酔いになります。二日酔いになりますと午前中はちょっと調子が悪い。お昼くらいになって、何となく元気になってきて昼飯でも食べようかということになる。ところが夕方になると、朝の状態が信じられないくらいもうすっかり元気になります。そして帰り道に赤い提灯がある、そうするとふらふらとまた行ってしまう、こんなこともあるかと思います。
  あたかも、あの赤い提灯というのは万有引力の法則みたいだなと思っていましたら、やっぱり万有引(飲)力の法則なのです。「引」という字がちょっと違いますが、あれには引き込む力があると私は思っております。
 しかし 印刷機械は一度二日酔いをしたら一生直らない。たとえば、グリスをやるところにグリスをやらなくてかじってしまった、あるいはゴミが入ってしまった。人間の場合には、先ほど言ったように、午前中調子が悪くても夕方には元気になりますが、機械の場合一生それは直らない。
 
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