山口県下関市を拠点に活動する株式会社三和印刷社は「印刷にこだわらない提案をします」と掲げ、スマートフォン(スマホ)のアプリケーション(アプリ)と印刷物の連携で新たな市場への挑戦を続けている会社である。 代表取締役の平野貴昭氏はペーパーレス化、ネット印刷の拡大等で激化する市場環境において、印刷物に頼らないビジネスを模索してきた。そこで平野社長が注目したのが、スマホ等のモバイルに搭載できるアプリだったのである。中でもAR(拡張現実)に注目し、アプリの開発とそれに連動するカタログ等の印刷物の製作を進めてきた。 こうした取り組みは、商品の訴求効果を飛躍的に高め、パンフレット等の印刷物を閲覧した消費者の行動履歴データの蓄積、解析で消費者ニーズを把握。情報を効果的、効率的に発信する強力なマーケティングツールとして活用している。 公益財団法人やまぐち産業振興財団が主管する「チャレンジやまぐち中小企業総合支援事業」に採択された事例では、パンフレットに印刷されたARマーカーにスマホやタブレットをかざすと学校紹介や在校生が受験生にアドバイスを送る動画を閲覧することが出来る。受験生がスマホに登録した情報からのアクセス解析により、興味のある学科、部活等の分析を学校側にフィードバックすることで経営戦略や次年度以降の募集に役立てることが可能だ。まさに『印刷にこだわらない提案』の実施と言える。 また、下関市立歴史博物館公式アプリ『ワクワクれきはく』もAR活用事例である。館内展示物のマーカーにスマホをかざすと5ヵ国語の展示物の解説が表示され、「360°ビュー」で館内を見渡せる機能もある。そして、デジタルスタンプラリーでプレゼントと交換することも出来るので、来館者の高い集約効果と地域活性化に貢献する取り組みと言える。 更にスマホアプリ付き古地図『復刻版・幕末古地図 引化3年屋敷割図 城下町長府』はスマホを古地図にかざすと建物名のみならず史跡までの道案内もしてくれる。 下関市民が気軽に必要な情報を収集出来る「しもまちアプリ」もARを活用した事例である。スタンプラリー機能もあり、スタンプが溜まると地元の商品がもらえるという地域活性化に貢献している。 このように印刷物とARアプリ等のITとの連携を図り、マーケティング機能を組み合わせたサービスは印刷会社にとっての差別化戦略であり、先進的な取り組みと言える。このような提案手法は今後の印刷業界の新たな潮流になるのではないか。それを牽引する三和印刷社の今後の取り組みに期待したい。